太切りそば                  
                                         04年3月 記
     この2月末に雪の札幌に出かけた。
    今年は暖冬だそうで雪も少なく比較的凌ぎやすかったが、昔から暖冬の年は冷夏になるとも言われているので道内の農作物や経済から考えるとやはり冬は寒くて夏は暑くなくてはいけない。
    勿論、ソバもまた北海道を代表する農作物なのである。

     北海道のそばにはいくつもの思い出があって、そのなかのひとつが「わたしの蕎麦プロフィール」で書いた釧路の竹老園東屋総本店である。
    余談だが、この店は道内に多くの「東屋」の屋号をのれん分けしている老舗で、「蘭切そば」「茶そば」「そば寿司」「かしわぬき」の蕎麦コースをだしている。蘭切りそばは卵切りともいってつなぎに卵黄を使う昔からの手法である。
     今回の札幌では、ずいぶん以前に行ったことのあるそば屋のひとつにでも寄ってみたいと思っていたのだが、結果的にはたまたま偶然に通りがかった東京の老舗そば屋の出店に入ってしまった。
    その理由は、数日しか札幌にいなかったせいもあるがそば屋のショーウインドウにあった最近はあまり目にしなくなった「太切り蕎麦」のせいである。
    そのそば屋とは、札幌駅近くの大丸8階で見かけた「東京麻布 永坂更科 布屋太兵衛」とあって麻布永坂更科の出店である。
    当店名物と書かれた三種類のそばがあって、定番の「お茶切そば」「御前そば」と、更にもう一つは「生粉打そば」であった。
    もちろん、御前そばは「そばの芯のみで打ち上げた」と説明のある更科の細切りのそばであるし、一方の「生粉打そば」は「古式なる石臼挽きの蕎麦」とあって力強い角のたった太いそばである。
          
     江戸後期か明治に入ってかはわからないが、江戸のそば職人によってそばの切り巾についての御定法(御常法)が確立されたとされ、そばの太さ(細さ)を、「切りべら23本」といって延した生地の一寸幅(3.03cm)を23本に切るとしていた。すなわち、切ったそば一本は1.3ミリということになり、これが並そばの太さである。この並そばが標準としての「中打ち」であり、それよりも太いのが「太打ち」、細く打つのが「細打ち」に大別することができる。「太打ち」は「切りべら15〜10本」だとすると切り巾は2mmとか 3mmの太さになり、太い田舎そばなどに相当する。「細打ち」は変わり蕎麦などに多く、「切りべら40本ほど」だから切り巾が 0.8mmくらいになる勘定である。
    今回の「生粉打そば(写真上)」のような「太打ち」は切りべらが15〜10本で切り巾は2mmとか3mmの太さで、ときに地方で出会う太い田舎そばと同じようにだいたいが色も濃く噛んで食べるそばである。

     「細打ち」は変わり蕎麦などに多く、切りべら40〜45本ほどだから切り巾が0.7mmくらいの細いそばで、さらに細い「極細打ち」になると切りべら50〜60で仮に60本だと0.5mmの勘定になりまるで削ったような細さである。

     言うまでもなくそばは細いから美味いとか、太いから不味いと言うことでないのは当然であり、そば粉との関係、打ち方との関係、食べ方との関係などいろいろな要素が組み合わされてそれらが決められていることは言うまでもない。
    もちろん食べる側の好みも多種多様である。

     余談であるが「切りべら」のことを書いたが、この反対は「のしべら」で延しの厚さより切り巾のほうが大きく極端な言い方をするときしめんのような形になっている。素人がそばを打つ場合、特に初心者では切り口が真四角に切るのはむつかしい。 

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