沖縄の蕎麦 その3      Back  Top   ( 2018. 5. 5. )

3)沖縄のソバ栽培の取り組み   「春まきのソバ」
  日本列島におけるソバの作付期間(播種〜収穫)を大雑把にみると、最も早い北海道は、6月にソバの種を蒔いて7月中旬から8月に花が咲き 9月に収穫する。そして、列島を南下とともに遅れて、九州では8月/9月に蒔いて、9/10月に花が咲いて11月/12月に収穫する。 すなわち、これを逆さまにみると、1月から6月初めまでの春季前後はソバ作付の空白期間といえる。 これがわずか10年ほど前までのわが国におけるソバ栽培の常識であった。

沖縄におけるソバ栽培の取り組み

     

 沖縄は日本列島のどこよりも早い季節にソバの花が咲いて虫たちが受粉の手助けをしてくれる。 この写真は琉球列島から台湾まで分布するキムネカミキリモドキで、春に現れるので春のソバを栽培する沖縄ならではの訪花昆虫とソバの花のコラボである。
 2018年 4月17日 沖縄県の大宜味村のソバ畑で撮影  この写真は大宜味村蕎麦生産組合から提供いただいた。


   沖縄でソバの栽培に取り組む活動があると聞いて10年近くになると思う。
九州沖縄農研センターの南西諸島農研チームが、沖縄の温暖な気候条件を生かして冬から春季にも適応するソバの品種として九州地域用に開発した、春型の「春のいぶき」や「さちいずみ」という春まきのソバの品種[6]を沖縄で試験栽培するという取り組みであった。
 現在では、沖縄県北部の大宜味村では、荒廃農地の再生に農家3戸から始めた大宜味村蕎麦生産組合によるソバ栽培の取り組みがある。
ここでは11月30日頃にソバを播種して2月に収穫する。 2017年3月11・12日には収穫したばかりの新蕎麦を使って「日本一早い新蕎麦まつり」を開催したが、今年は少し遅れて4月29日に同様の新蕎麦祭りを行った。
 ソバ栽培とサトウキビの輪作体型を確立するための取り組みでは、
宮古島はサトウキビの収穫が3月に終えると4000haもの畑が次の植え付けの8月まで空くのを活用したもので、3月にソバの播種をして5月に収穫をするという。
伊江村でもサトウキビを収穫した後の2月後半から4月上旬にソバを播種し、4月後半から6月上旬に収穫するという。
 さらに、最近では沖縄中北部の赤黄色土に栽培したソバの間作作物として、ラッカセイが有効との研究成果も琉球大学農学部から発表された。
これらはすべて、「ソバは育たない」と考えられてきた沖縄での事例である。

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追記
  現在では、ソバの植物学的研究が進んで、日本における(普通)ソバの種類や品種、及びそれらの栽培に関係する生態的特性も知られるようになっている。
 しかし、琉球の古書に書かれているのは200年前のソバ栽培と関連付けられる記述であり、現実味を持って想像することはむつかしい。
以下は、栽培地や諸条件はいうまでもなく異なるが、300年前の江戸時代のソバの作物記録でもある産物帳が存在するのでごく簡単に要約して追記しておいた。

@享保・元文諸国産物帳[7]は、『御膳本草』や『伊江親方日々記』よりもさらに百年ほど前にまとめられた諸藩の産物帳であり当時のソバの品種の多さと多様性がわかる。
 北は蝦夷(北海道)松前藩から南の大隅国・日向国・薩摩国の産物帳に至るまでほとんすべての藩に数品種以上のソバが産出している記載がある。
 それによると、早や蒔き(早生)、遅蒔き(おくて・晩生)、秋そばなど蒔き時(収穫時)はもちろんだが、来歴らしき名前では、しなの(信濃)・熊野・いせ(伊勢)・郡内・さつま(薩摩)・きそ(木曽)・ヤマト(大和)・朝鮮など、また、ソバの実の特徴から大そば・小そば・鬼そば・米そば・餅そば・鼻高・・・などまだまだたくさんある。  もちろんこれらは地域の呼称なので整理集約すべき問題や、その区別や特徴もあいまいだったともいえるが、これらのすべてが沖縄の栽培環境とは相いれない種類ばかりだとは言い切れないのではなかろうか。
A輪作作物でもあるソバは二毛作もあり、また、夏ソバを4月頃播種、秋ソバを8月播種、10月頃に二度目を収穫するなどもあった。さらに蕎麦の書物には現在は無くなってしまったソバの品種について書いている。鳥取県や鹿児島県には「三度ソバ[3]」という品種があって一年に三度収穫したという。一回目を3月春分に蒔き、11月には三回目の収穫を終えるという。
追記 おわり