プロローグ

一人の少年が海を見ていた。
彼の目には約20隻の戦船が港に停泊している景色が映っていた。
「いよいよだな。」
不意に少年の後ろから声がかかる。
そこには紫色の服を着た銀髪の男が立っていた。
「ええ、でもよろしいのですか。師匠はこの事とは無関係でしょう。」
少年は、声のしたほうをむくことなく答えた。
「私はおまえに借りがある。それにあいつを一人でいかせるわけにもいかんだろう。」
男はあごで示したほうから一人の少女が、長細い物を持って来る。
「それは今私がここにこうしていれることでチャラですよ。」
少年が後ろを振り返ると少女がそばまできていた。
「何か用か、ヘル」
男がぶっきらぼうに聞く。
「父さんに用はないわよ。はい。え、と、シェイドさんはすぐ剣を折るって聞いたから。」
そう言って少女は細長い包みを少年に渡す。
「シェイドも一応隊長なんだから予備の剣くらい何本も用意しているさ。ぐっっ」
その瞬間少女は父親の足を踏んでいた。
「へーえ。かなりいい代物だ。喜んで使わせてもらうぞ。ありがとうヘル」
少年が剣を見ながらそう言っているのを見て、少女は照れながら会釈し去って行った。
「あいつたしか・・・・」
「そうさ、おまえの部隊に配属されることを望んでいたが私が許可しなかった。たしかレナードの隊の補給部隊にいるはずだ。」
それに少年が答えようとしたとき、強烈な槍の柄の一撃が彼を襲っていた。
「ほらほら、いつまで突っ立ってるの。 そろそろ出港よ。フェンリルさん、あなたがこいつの部隊仕切ったほうがいいんじゃないですか?」
「私は異国の者だそういうわけにはいかんだろう。」
男が答えると槍を持った少女に答えると、頭を押さえていた少年が少女に文句を言う。
「シャルロット、一体何しやがる。いや、そもそもなんでここにいる。今回お前の部隊は私の部隊とは反対の場所に陽動を掛けるはずだろ。」
「バカが遅刻しないように見にきてやったの。今回レナードが危険なかけをするんだぞ。もしもおまえがへましでかして負けたら串刺しにしてやるから。」
「そいつは恐い。気を付けるよ。んじゃ出発しますか。おまえもさっさと出発しろよ。」
そう言うと少年と男は、港へ向かって行った。
そしてシャルロットも別の波止場で待機しているはずの自分の艦隊に向かって歩き始めた。 




バーミアン大陸は北と南に別れた二つの大きな島からなる。
本来二つの島であるこの地域を大陸と飛ぶことに疑問の声もあるが、この2つの島の海峡が大型船では通れないことと、その海峡に橋がかけられていることで、大陸と言うのが習わしであった。
大陸南部は秘術によって300年を生きるクラヌ教のサディル大司教の産まれた聖国エラード、南バーミアン島北西部の平原の遊牧民の国アラディー、アラディーとエラードそして北バーミアン島との交易で栄えているカシューラ、そして南東部に走る山脈のため孤立し、自治都市となっているファルナ、主にこの四つ勢力によって栄えていた。

北バーミアン島は、その多くが山や森によって覆われており、クラヌ教の勢力も北バーミアン島の玄関口であるダンガだけだった。しかしダンガ北部の山脈、東部の森林には独自の文化で栄えた幾つかの民族があり、その人口もかなりのものだった。その異教の民族達は、ダンガ王国の異教徒狩りの対象となることがしばしばあった。これは謎の民族に常に後ろを取られているダンガ王国の不安から起こったものであり、またクラヌ教に従わない民族に対しては他大陸でもあることだった。

そんな時ある民族出身の傭兵隊長ゼリュロスが、最も栄えた北部異民族の町ファルクで、北部民族の独立を宣言。ダンガ王国に対し、バーミアン大陸北部の民族に干渉しないことを求めたが、これを拒否したため、宣戦を布告、瞬時に開拓村アランディーを占領した。
ダンガ王国はこれを受け取り徹底交戦の構えを見せるが、戦いの天才といわれたゼリュロス、猛将と呼ばれたぜリュロスの友人ゼフィールを中核とし、ゼフィールの息子レナード、滅ぼされた民族の生き残りシャルロット、と言った若い指揮官に率いられた北部民族独立軍は、ダンガ王国に隣接する山を使い、ダンガ王国軍を撹乱。ダンガを占領することに成功する。
その時点でゼリュロスは国の名前を北バーミアン帝国と命名。自らは初代皇帝となる。
またゼリュロスは自分の率いていた部隊をこの戦いで戦果をあげた、少年シェイドに預け、副官として他大陸の出身である、戦友フェンリルをつける。前述の三人とこのシェイドを合わせて帝国四天王の誕生である。
ゼリュロスは帝国の誕生と共に話し合いの使者を大陸南部の各国に送った。
これに対し南部各国は帝国への対策として会議を招集。その最中に送られてきた、皇帝ゼリュロスが病の床についたという報告で、会議は帝国を討つ方向で終わり、南部バーミアン諸国連合軍を各国は招集する。
皇帝が倒れたことにより士気が著しく下がった帝国軍は、エラード王国第一王子エドワードを主指揮官とした南部連合軍騎馬隊を旧ダンガ国内で迎撃することを決定。
また持久戦になれば国力で劣る帝国軍は不利になるため、帝国四天王は無謀とも言える作戦をとった。

若くして聖騎士の称号を持つエラード王国第一王子エドワードは、南部諸国連合軍の主力である騎馬隊を率い、レナードとゼフィールの率いる帝国の主力を徐々に押して行くことに成功するが、魔導師としての修行を積み、連合軍魔導士隊を率いていたエラード王国第二王子フォーブス、カシューラの弓士隊を率い参戦した猟師ロックスリー等の部隊が、帝国水軍によって背後にまわったシェイドとシャルロットの遊撃隊に背後を挟み討ちにされ、フォーブスは混戦の中で行方不明に、ロックスリーも捕まり部隊は壊滅状態に陥った。
そして帝国軍はダンガ地方に進出したエドワード率いる騎馬隊の補給線を分断することに成功し、レナードはエドワードを一騎打ちのすえ打ち破り、帝国軍は窮地を脱した。

連合軍との戦いに勝利した帝国軍は、そのまま軍を進めカシューラの首都を占領すると、軍を東に向け遊牧民の国アラディーに進攻。前の戦いでで多くの騎馬戦士を失っていたアラディー軍は、大平原での騎兵によるゲリラ戦で、歩兵が主力の帝国軍に対抗するが、南部山岳民が帝国側についたことで敗北。

残るは、300年を生きるクラヌ教の大司教サディル=ロウ=ジェディスが生まれたバーミアン大陸の聖地エラードだけとなった。だが、世界一を誇るといわれる宗教騎士団ナイツ=テンプラスと、強力な聖魔法を使いこなすサディル大司教は、クラヌ教の総本山バトゥークのあるアスシオン大陸における異教徒との聖戦で、バーミアン大陸への遠征は不可能だった。

そんな状況の中で残った聖国エラードは、帝国の降伏勧告を無視し続け、帝国軍に包囲され、国王ロレンスは四天王最強のゼフィールに討ち取られ、王弟リチャード、王女ロウィーナは囚われ、放蕩王子として有名な第三王子アリオーンは、行方不明となる。

これで一端は混乱が治まったかにみえたバーミアン大陸だが、皇帝ゼリュロスの死を期に四天王の一人ゼフィールが自分の所領であるダンガで、ダンガ帝国を樹立。北バーミアン帝国に宣戦を布告。
戦後処理と皇帝の死により混乱していた北バーミアン帝国は、ゼリュロスの息子レナードが帝位につき、ファルナ自治区を除く南バーミアン島を放棄することを決意。
これによりダンガ帝国は一気に領土を拡大するが、指揮系統を整え支配体制を築くのに時間がかかり、体制を整えた北バーミアン帝国とのあいだで膠着状態が続いていた。
また四天王の一人シェイドが離反したと言ううわさも流れ、実質北バーミアン帝国に残ったのはレナードを除けば、シャルロットだけとなっていた。



そして二年後・・・・・・






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