S L 讃 歌


明治五年に日本で初めて新橋−横浜の間を走って以来、百二十数年の歳月が流れ
た。その一世紀以上にわたる長い間、人々の暮らしを繋ぎ、人々の夢と希望を
乗せて、あなたは働いてきた。そして日本の経済の発展のために大きな貢献を
してきた。
しかし、あの忌まわしい戦争が起こった。戦時中には艦載機の銃弾におののき、
また傷ついてきた。

戦後の混乱期には、日本の復興のためにしゃにむに働いてきた。
帰省を急ぐ多くの戦士を乗せ、飢えに苦しむたくさんの買い出しの人々を
ぶらさげ、重たい貨物を引き、真っ黒い煙を吐いて急坂に喘ぎ、あなたは精一杯
働いてきた。
だが気がついた時には、あなたの役割は終わっていた。
新しい動力を持ったあなたの仲間に、あなたの仕事は奪われ始めていた。
晩年のあなたはろくに手入れもしてもらえずにうす汚れていた。

塗装は剥げ、鉄の色むき出しで、お世辞にも美しいとは言えなかった。
しかし、あなたのそんな姿は年輪を感じさせ、仕事をやり遂げたという自信に
満ち溢れていた。大人の風格がにじみ出ていた。

そしてついに昭和50年に、あなたは日本の鉄路から消えて行った。
それから二十数年が経った。今のあなたはピカピカに磨き上げられ見た目には美しい。

日本の各地であなたを懐かしむ人々を乗せて、誇らしげに汽笛を鳴らし走って
いる。
しかし、僕は晩年のうす汚れていたあなたが大好きだ。
何故なら、その姿こそあなたの働く本当の姿なのだから。

                              S.MAEDA


 S47/10月八高線にて


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