それ、お願い?




 本当に、心底、はたけカカシはタチの悪い男だった。

 結局ヤツは、任務のあともオレに付きまとった。
 オレは里に戻っても彼女を作る機会も与えられない代わりに、どんなに罵倒してもニコニコして擦り寄ってくる鬱陶しい、でも腕と顔と財力はびかイチのストーカーを手に入れた。

 タチの悪さも天下一品だけどな!
 ただ分かったことがある。
 例えば、オレのアパートに始終鬱陶しく入り浸るようになったヤツは当然のようにメシも要求してくるわけだが、上忍でも凄腕でもなんでもないオレの薄給では一人分増量の食費は思いのほか堪えた。
 そんなとき、「食った分、金払え!」というと、ヤツは可愛らしく小首を傾げて、

「それ、お願い?」

 と訊いてくる。
 ここで頷くと、めくるめく夜を徹しての肉体労働に突入することは、何度か失敗して学習した。
 だから、オレは、

「お願いじゃねえ! 食いもん買うのは金かかるんだ! 食ったら払え! それが当然だ!」

 ということにした。
 するとヤツは意外にも、素直に言い値を払うようになった。

 こっちが当然の要求だっていうと、納得できる事柄なら、話が通じることが分かったんだ。
 でも、だからといって。

「アンタは、オレに酷いことしたんだから、土下座すんのは当たり前だったんだ!」

 っていう主張は、まだ受け入れてもらえそうにない。
 とはいえ、話がちょっと通じるようになったのは幸運だった。
 周りは上手くやったな、なんていう奴もいうけど。
 この状況でオレが得してることなんて、イッコもねえ!

 結局彼女とはそれっきりだし、他にも美人のお姐さんには軽蔑の目でみられたりむしろ励まされたりして、よけいにへこむし。
 同僚からは遠巻きにされたり、厭味言われたりするし!

 …そりゃあ、食費は出してくれるようになったし、ぶっちゃけ…夜の運動だって、…慣れりゃ楽しいけど。
 腕はいいし、あの人。
 家に帰ってくりゃ、明かりがついてるってのも悪くないし、仕事のグチいったら頭を撫でてくれる奴がいるってのも、悪くない。

 だからといって、ヤツのやったことを許したってわけじゃないけどな!
 人ってのは複雑なんだって、近頃思うよ。

 ひとつだけいえるのは、オレがあの任務で得たのは、甘い恋愛生活じゃなくて、横柄で計算高くてタチの悪い疫病神だってことだ!




2008.6.8