それ、お願い?
最初から、タチの悪い男だと思っていた。
「アンタ、すぐ死にそうだから後ろにいて」
ケチのつき始めはそんなセリフから始まった。
中忍になってしばらくしてからの短期間だけど大規模な任務で、自分でいうのもなんだが気合が入っていた。
上忍レベルにはまだ程遠いだろうけど、そこそこ戦えるんじゃね? と思ってたからだ。
それが、作戦隊長の一言で台無しになった。
いやそもそも、その作戦隊長が、若くして伝説になりかけてるような、『写輪眼のカカシ』だって聞いてたから、単純なオレは気合が入っていたわけで。
言うだけ言って、作戦本部のテントから出てった細っこい背中を、オレはとっさに追いかけた。
縋るように声をかけると、半分以上隠された顔が振り向いた。
「ど、どうして後方に回されるのでしょうか!? 命の危険はどこにいても同じでしょうし、これでも前線任務は何度かこなしてきました!」
上官にたてつくときは、何度やっても足が震えそうになる。
それを踏ん張って堪えながらなんとか言ったが、返事は、
「それがなに?」
だった。
あんまりあっさりした拒絶で、オレが言い返せずに口を開けたままにしていると、さらに鼻で笑われた。
暗部面の下からでも分かるぐらいはっきり、ハッ、って笑いやがった!
「何回前線でてたって、死ぬときは誰でも一回っきりだよ。それに、どこにいたって危険は同じってなにそれ。アンタさあ、もしかして上忍目指してたりしてないよねぇ?」
危なっかしくてしょうがないね、なんていいながら、愉快そうに笑う上忍を前に、オレは真っ赤になって立ち竦むしかなかった。
そりゃあ誰だって死ぬときは一度きりだし、この戦闘じゃなくてもいつか戦場での働きで、上忍への推薦もらえたら良いなって思ったこともある。
でもこんな言い方しなくてもいいだろ! って八つ当たり気味な思いが腹の中をごうごうと渦巻いて、オレは唇を噛んで、悔しくて潤む目で銀髪の上忍をにらみつけた。
そしたら、なにを思ったかしらないが、気配を緩めて近づいてきたかと思うと、オレの肩を二回ほど軽く叩いて、
「ま! 人生は持ちつ持たれつ。お願い聞いたら、お礼をしてもらうのが筋ってもんだし。うん、今夜が楽しみだね」
なんて意味不明のことをほざいた。
そして呆気にとられているオレを残して去っていったのだった。
2008.6.8