上書き保存の恋




 夏の盛りを目の前に、夕暮れがずいぶんと長い。
 俺はアカデミーの仕事を片付けて、通りを帰るところだった。

 アカデミーも問題児が卒業して、ちょっと楽になったかとおもえば、三代目の愛孫が入ってきてやっぱり気が抜けない。あ〜今日も疲れたな〜と歩いていると、通りのずっと向こうに、騒がしい一団をみつけた。
 夕日が通りに長い影をつくっていて、きゃいきゃいと短い影がみっつと、ひょろり長い影がひとつ。
 短い影のひとつが俺をみつけて

「あー! イルカせんせーだってばよ!」

 とタックルしてきた。
 まったくコイツは〜と思いつつ、頭をかき混ぜて「お疲れさん」といってやった。

 追いついてきた二人にも、お疲れさんと声をかける。
 そのうち、ゆっくりと追いついてきた影に、俺は目を眇めた。
 名前も容姿の特徴も知っていたが、こうして会うのは初めてだった。

 夕暮れの色が、その銀色の髪を染めていて、らしくもなくちょっとぽかんとしてしまった。
 だって、あんまり綺麗で。

「―――はじめまして、イルカ先生」

 そういって向こうから気さくに手を出してくれて、俺は慌ててその手を握った。

「は、はじめまして! カカシ先生! こいつらをよろしくお願いします!」

 あれ?
 顔合わせのときって会ってなかったんだろうか、とふと思ったが―――思い出すまでもなく、そういえばこの人は任務でいなくて別の上忍の方に説明したんだった。

 そうだよ。もう誰に説明したか忘れちまったけど、ナルトがカカシ先生カカシ先生つって懐いているのは前から知ってたから、いい先生なんだと思ってる。
 そうそう。
 だから、はじめまして、で合ってる。
 カカシ先生は、逆光でよく見えなかったけど、笑ったみたいだった。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 俺の手を握りかえしてくれた手のひらと指は、歴戦の忍びらしく硬くてひんやりとしていて、だからこそとても暖かい気がして、俺はいっぺんに彼に好感と尊敬の念を抱いた。




 これが、カカシ先生との最初の出会いだった。






2007.09.09