たんこぶ、ふたつ。
俺がなに言ったって、あの人には届かないし。
俺がなにしたって、あの人は変わらないし。
だから、もう。
「いーよ、もう! イルカ先生のわからずや!」
バンッ、と派手な音で俺は手のひらを受付机に叩きつけて、叫んだ。いつもならすぐに青筋たてて怒るイルカ先生は、ぽかんと俺を見ている。
真夜中の受付。
俺とイルカ先生のほかには誰もいない。
だからきっと、イルカ先生も怒らないんだ。
怒る、っていうデモンストレーションをする必要が、ない。
イルカ先生は、静かに言う。
「―――俺はわからずやではありません、あなたが我がままを言っているだけです」
しかも、子どもを宥めるみたいにうっすら笑ってる。
俺はそれをみてよけいに頭に血が上って、任務のときじゃありえないけど、このときは後先考えずに叫ぶ。
「わがままじゃないよ! なんでだよ、明日死にに行く人間のお願い、どうして聞けないんだよ!」
そう、俺はイルカ先生が好き。大好き。
彼の竿を握って勃たせて玉を揉みしだいて穴にあれを突っ込んでひとつになりたいレベルに愛してる。
だから求愛してたのに、イルカ先生はまったく聞いてくれない。
たとえ上忍のお願いでも。
たとえ、彼のお情けがほしくてわざとSランク任務をうけた上忍の、一夜限りのお願いでも。
「明日まで、あんたの時間をください、お願い。望むなら記憶だって消していくし、優しくするし!…できるかぎり」
付け足したのは、激情あまって流血沙汰になっても俺がとまらない可能性があったからだ。勃ったものは突っ込まないとおさまらないでしょ!
イルカ先生は、うっすらと微笑んだまま、額に青筋を浮かせている。
「そういう話じゃねぇってなんで分かんねぇのかな、この上忍さまは」
あれ、すごい怒ってる?
イルカ先生は、笑ったまま、俺にいった。
「いいですか? 俺があなたと一夜をともにしないといっているのは、べつにケツの心配をしているわけでも、記憶を抹消するのが面倒なわけでも、あなたが嫌いなわけでもなく―――」
え?
嫌いじゃないの?
ほうけた俺に、イルカ先生は立ち上がって、ガツンッ、と拳固をいっぱつ。
いったー!
ひ、火花が散った、目の前に!
「俺のために身をはろうとするあんたが、どうしようもなくムカつくからだ!」
いーからさっさと任務に行ってらっしゃい!
帰ってきたら、そのときこそ思う存分、俺を好きにすればいいんじゃないですか!?
たんこぶができそうな激痛のなかで聞いたイルカ先生の言葉は、俺にしっかりと刻み込まれた。
もう俺は嬉しくて、天にも昇りそうで。
行きがけの駄賃にキスを掠め取っていったら、さらに拳固をもらった。
でも嬉しかった。
つまり、両想いだったってことだよね。
届かないって思ってた。
俺の言葉は、あの人の心を動かせないんだって。
俺は、たんこぶを二つもらったかわりに、イルカ先生の気持ちを手に入れたんだ。
2005.06.14