素敵。







 んー、そりゃ分かってるよ。
 これがたぶん悪いことだってのはね。
 けど俺は気持ち良くなりたくて、それはほかの誰でも良くなくて。
 しょうがないじゃない。
 悪くないことだなんて思ってないって。



 さんざん、何度も貫いて突いて中をいっぱいにして、満足して濡れたそれをひきぬいたときには、もうイルカさんは声もなかった。喉だけが音もなく上下していて、仰向けの体のなかで、その肌が蠢く様子がまたいやらしかった。これ以上、出ないってぐらいに出したのに。あぁ、その喉仏、俺に食わせてくれないかな。
 そして俺は、大半が彼の精液である、液体にまみれた腹に指をすべらす。乾き始めたところは、冷えている肌とあいまってべとついた。その感触が素晴らしくて、俺はなんども指の腹でひたひたと確かめる。
 暗くなった部屋は、月明かりが差し込んでいた。
 精液とねばついた匂いが充満していて、俺はそのことに満足する。
 そうやって楽しんでいると、ようやくといった感じでイルカさんが体を動かした。よかった、さすがに担いでは帰れないしね。

「―――て、を」

 あれ、なんていったんだろ。掠れててよく聞こえなかった。気になって身をのりだすと、どうも両手を気にしているようで。しきりに腕を上へと掲げようとしてるんだけど、あいにく力が入らないみたいだ。動くのは肘ぐらいで、両腕は縄で縛られたまま、投げ出されてた。
 あ、そうか。解いて欲しいのかな。
 うわー、痕になってるよ。細いのだったから、擦れて真っ赤。そんなにきつくしなかったけど、あんまり早くにほどけちゃ困るとおもってぐるぐるに巻いてたんだ。それがいけなかったみたいで、イルカさんの両手首は、赤く筋になって腫れていた。薄皮ぐらい、剥けてるかもしれない。
 くるくるって縄を束に戻して、俺はイルカさんの手首を開放した。
 力のない腕は、ぱたりと、机に伸びたイルカさんの体の両側に落ちる。虚脱した、って風に。

「もしもし? 大丈夫?」

 ちょっと心配になって、俺は声をかけた。イルカさんの服はぜんぶ床に広がってて、イルカさんは全裸の状態だったから、ほんとうははやく服でもかけてあげればよかったんだろうけど、あいにく俺はイルカさんの裸なんか見るの初めてだったからもっと見ていたかったし(実際、月明かりの下ってのはやたらそそるもんだよ)そんな心遣い、俺は考えもしなかった。
 ただこのときは、あんまり放心状態で居るから、困って訊いただけで。
 なもんだからイルカさんが、ゆっくりと上半身を、腕をつかって起こしたときは、ホッとした。
 で、次の言葉。
 掠れてたけど、しっかりした声だった。

「殴らせろ」

 ちょうど月明かりから影になってね、イルカさんの顔はわからなかったけど、俺は頷いたよ。
 だって、その権利が彼にはあるでしょ。
 俺が気持ち良くさせてもらったぶんだけ、彼は俺におなじことをできる権利がある。
 正でも負でもね。

 俺が、彼の腕の範囲内に立つと同時に、俺の頬に、拳が激烈な速度でぶち当たった。
 ガツン。
 なんて可愛らしいもんじゃなかった。
 俺はふっとんで、すくなくとも部屋に積み上げてたダンボールの壁にあたって、それが三つほどへしゃげた。それぐらいの衝撃。
 うわ、痛。中忍にしてはいい鍛え方してる。明日には腫れるなぁ。
 思って俺はもういちど、彼の前に立とうとした。
 一発で終わりかどうか分からなかったし、ほんといえば殴られるのは嫌だったけど、一発で良いかどうかってのは俺が決めることじゃないしね。報復は彼の権利。そこらへんは、さすがの俺でも知ってるよ。
 けど、ひしゃげたダンボールの壁から体を離す前に、起き上がったはずの彼の体が、糸が切れたように机に逆戻りした。
 え、なに。
 あんな強烈なの出せたのに。
 驚いた。
 近づいて、覆い被さって覗き込んだら、正真正銘、気を失ってた。
 寝てた、のかもしれない。
 疲れきって前後不覚になったように、イルカさんは意識をなくしてた。
 そこで俺はようやく、床に放ってた彼の黒いアンダーとベストを拾い上げて、埃を払った。

 うーん。
 このままお持ち帰りしていいのかなぁ。

 服を着せてやる前に困ったのは、そんなことだった。
 俺ってとことん、自分のこと優先みたいだね。






2004/03/28