10作目、人的補償
    1項目、
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      ある時代、あるところに他の国々から非人道的国家と言われている国があった。
     ある時、そこの国から政府の上級役人の一人が日本に亡命してきた。いろいろと国家機密情報を
     土産に持ってきて、日本では大歓迎された。普通はアメリカなどへの亡命がメインなんだろうが、
     何を考えたのかこの男、日本へ来た。

      さて話は変わって、年の暮れ。
      忘年会というほど大げさではないが、例によって矢尻は大阪のある街で友人の脇と杯を傾けあっ
     ていた。(飲んでばっかりやなア)話題はつい最近の、趣味のゲームのTV撮影の話に。
     「脇さん、あがってましたやん。」
     「そうか?あんなもんやけど。もともと声もちっさいし。」
     「私は、静止画だけやったけど。」
     「その話はなしという事で。」
     「なんで?」
     「せっかく皆、張り切ってしゃべってたのに3人しかインタビュー写ってないし。」

     「そらしゃあないんちゃいます?まあ、タレントさんもきれかったし。」
     「そうやなあ。」
      と、とりとめのない会話を続けていた。

      その店に4人の男達が近づいてきていた。男達は一様にサングラスとマスクで顔を隠し、体をロング
     コートでつつんでいた。そして風のように店の中に入ってきた。その中のリーダー格らしいい男が
     矢尻に近づき小さな声でささやいた。
     「アップル商事の矢尻様でしょうか?」
      いきなりの事に、矢尻は何のことかと怪訝な顔でその男の顔をみつめかえした。
     「矢尻様でしょうか?」
      重ねてその男は聞いてきた。
     「そやけど、お宅ら誰?」
     「はい、私は北北北国の日本代理店の者でございます。」
     
     「???。」
      聞いても何のことか判らず、余計に混乱する矢尻に
     「先日の亡命の話ご存知でしょうか?」
     「ぼ、ぼ、亡命?」
     「それが私とどういう関係が・・・。」
      あるのだと言おうと矢尻がその男のほうに向き直った時、
     「人的補償でございます。」
     「じ、じ、人的補償?」
      あまり、野球の事には興味も知識もない矢尻に代わって脇が
     「人的補償ってあの野球の?」
      と聞き返した。
     「さようで御座います。矢尻様は亡命したキデンメイの代わりに我が北北北国に選ばれました。
     今から私たちとご一緒に・・・。


           人的補償
        FA宣言した選手と契約した球団は、選手の旧球団に対し、金銭および選手を
        補償しなければならない。人的補償は、FA選手を獲得した球団が保有する
        支配下選手のうち、外国人選手およびプロテクトした28人を除いた選手名簿から
        1人を旧球団が獲得できる。


          1項目、終わり。
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