9作目、国民総番号、一億二千万分の一
    1項目、
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      2002年、ある国では国民一人一人に番号がついた。
     平凡な市民の一人であったヤジリはNо、8723D51C6300003であった。それが彼の人生に
     関して何の影響もなく、別にどうと言うことはなかったのであるが。
      最近ではヤジリ本人も、そんなことはとっくに忘れていた。

      ある日、例によってヤジリはワッチーと喫茶店でお茶をしていた。(いつもセットででてきますが
     これは制作上の都合でありまして、彼らには他に友人がいないという事ではありません。)
     「どうなんですやろ、最近の世間の景気は?」
      ヤジリの唐突な質問に、ワッチ-は
     「そやな、やっぱり巨人がぶっちぎりで優勝するんちゃうか。」
      と的確に答えた。自信ありげである。それに対して
     「えっ、やっぱり鍋はてっちりかな。」
      と、ヤジリはワッチ-の意見に頭から反対した。えらい剣幕である。
     「そうや。今日は今年一番の寒さらしいで。」
      ワッチ-もヤジリの言葉尻をとらえ、激しくその考えに賛成した。こうなれば戦争である。

      白熱した議論は続きどちらも自分の意見を押しとうとし、相手の考えを頭から認めようとしなかった。
     「そやな、ワッチ-さんのゆうとうりやわ。」
     「そんなことアルカイダ。ヤジリさんの意見が誰がきいても正しいわ。」
      意見が合わない2人は、互いに相手を認め合い大笑いした。
     「ところでお腹、すきましたな。」
      いつも愛に飢えているヤジリが、携帯電話をみながらワッチ-に言うと、ワッチ-も同じく携帯電話の
     画面をみながら
     「いやー、やっぱり待受けは『タッチ』やろ。」
      と逃げ腰になった。

      と、普通ならこの辺でもうええやろーと突っ込みが入るところであろうが、取りあえず文章を増やす
     目的のみで書いているので、そういうことは無視をする。さてこれからが本題である。


      時を同じくして、とある役所の市民課の一室で、一人の公務員ウマンバがパソコンの前に座って
     いた。そしてデータ-の変更をしていた。彼の前には無数の数字が並んでいた。朝からずっと数字
     と睨めっこしていた彼は、少々お疲れぎみであった。なにしろ普段からあまり仕事らしい仕事という
     ものはしていないのでよけいにつかれる。ある処まできた時、間違って削除のキーを押してしまった。
     単純なミスである。

      喫茶店でワッチーの前に座っていたヤジリが消えた。


       1項目、終わり
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