8作目、同時通訳
    1項目、
    小説の目次へ
   
      革命が起こり、それにより多くの命がうしなわれた。
      貴族であったウラシマ一族のウラシマノスキー・ヤジリーも本人以外は親、兄弟一人残らず殺され
     てしまった。ヤジリ-6歳の時であった。

      その革命戦争以後、大きな戦闘は終わりを告げ、この国に表面上の平和が訪れた。
      ヤジリーは、遠い親戚に引き取られ少年期を過ごした。それから何年かが立った。彼は猛勉強して
     この国の唯一の大学である、オフイシャルトイガ-大学に入学した。その後も勉強一筋の生活を送り、
     特に仮想敵国であるワチリイ共和国の言葉を専考した。

      また何年か過ぎ、世界中で冷戦と言う言葉が死語になり核による戦争抑止の力にもより、戦火の
     火も消えつつあった。
      そして15年ぶりにワチリイ共和国と、ヤジリ-の国であるアップル連邦との間にも国交が結ばれ、
     ワチリイ共和国のワッチチ大統領と、アップル連邦カメーノ元帥とによる平和会談が行われる事に
     なった。
 
      軍事大国であるワチリイ共和国のワッチチ大統領は、多くの幕僚達を従えアップル連邦国の
     カメハメハ宮殿内の招撫室に行こうとしていた。そこにはこれも軍人達を従えた、カメーノ元帥が
     待っていた。カメーノはワッチチを見るやいなや、
     「おお、これはワッチチ大統領。今日はよくお越しで。」
      と、満面こぼれる様な笑みを浮かべワッチチに対して手を差し伸べた。
     「こちらこそ。今日は二つの国にとって幸いなる日になりそうです。」
      ワッチチもカメーノの手を握り返した。

     「さあ大統領、こちらへ。」
     「はい。今日は、心往くまで話し合いましょう。」
      二人は並んで席に着いた。その横にはそれぞれ二人づつの護衛と、一人づつの通訳がついた。
      ワッチチとカメーノの話し合いは多いに盛り上がり、これが以前はお互いに仇敵同士の間柄で
     あったとは思えないほどであった。

      20分もたったであろうか、突然ワッチチ大統領は杯を投げ捨て後ろを振り返り、護衛の一人に
     向かって何か叫んだ。護衛の男は隠していた銃を取り出し、カメ-ノ元帥に向かって発砲した。それに
     反応してカメーノの護衛たちも、それぞれに銃を取り出した。
     激しい銃撃の音が広い招撫室内に響き渡り、互いの補佐官や武官たちが駆けつけたときには
     ワッチチとカメーノの両首脳、4人の護衛の死体。そして唯一生き残ったワッチチの通訳の側には
     カメーノの通訳となっていた、ヤジリ-が倒れていた。その口もとには一筋の笑みが浮かんでいた。



       1項目、終わり
        小説の目次へ。