バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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指先から伝わる【ジェイシェリ】
ヘリの振動は長い逃亡劇を終えた身体にはひどく堪えた。
ローターが風を切る音が耳をつんざき、疲れた身体を癒すどころではない。
「もっとマシなヘリはなかったのかよ!」
狭い機内にパイロットの他には隣に座る女しかいない。
ヘリの爆音に負けないように彼女が怒鳴り返してくる。
「仕方ないでしょ!一番早く来れるのがこれしかなかったの!」
ジェイクは舌打ちしながら背後の剥き出しの壁に背を預けて足を組んだ。その途端、胸が痛んで思わず顔を顰めた。
「いって…」
「どうしたの?」
隣に座るシェリーがこちらを覗き込んで来た。
「どうもしねぇ。身体中傷だらけで痛むだけだ」
「どこが痛むの?見せて」
近づくまでもなく肩と肩がくっつくほど密着して座っているシェリーがジェイクに手を伸ばした。
「もうどこがっつー次元じゃねぇよ。身体中だ」
正直生きてるのが不思議なほどの状況だった。ウィルスによって化け物と化した奴ら相手にこの程度で済んできっとラッキーだったんだろう。
「だからどこが一番…」
「オイ…!バカ、めくんな…!」
ジェイクは何の躊躇もなく服の裾を掴んでめくり上げたシェリーの手を押さえた。
「だって傷がひどかったらどうするの」
「死ぬほどじゃねぇよ!触んなっ…つっ」
シェリーと押し合いになって胸の辺りに激痛が走った。思わず息が止まって身体を折り曲げて前へ屈んだ。
「えっ…ジェイク?大丈夫?」
「ばっ…かや、ろ、いてぇっつってんのに」
「だって…」
さすがに触るのを憚れるのか、心配そうにこちらを見るに止めるシェリーを横目で見ながら、息を吐いて肋骨のあたりを自分で探った。
「…折れてはない。ヒビくらいは入ってるかもしれねぇがな」
今までは気が張っていて痛みも感じなかったが、安全を確認できて気が緩んだんだろう。
「大丈夫?」
慌ててこちらに身を乗り出したシェリーを押し止める。
「お前が、触らなかったら、大丈夫だ」
途端にピタリと止まったシェリーに手を挙げて「OK?」と聞いた。
「わかったわ、触らない」
ホールドアップのように両手を挙げたシェリーが心持ち後ろに移動した。狭いので離れるには至らなかったが。
こいつに触られると痛みよりももっと他のことが気になる。いつからそうなのかはもう考えても仕方がないので頭から追い払った。
「お前は大丈夫なのか?」
ジェイクが聞くとシェリーが前を向いたまま少し笑った。自虐的な笑いだった。
「見たでしょ。傷なんて一つもないわ」
「怪我を全くしないのか?」
「ええ。骨が折れてもすぐにくっつくし、傷を負ってもすぐに再生して元通りになるわ」
「…そうか」
それ以上何も言えなくなって、ジェイクは外に視線を向けた。シェリーの今までがどれほど過酷だったのかは想像に難くない。きっとこの話もしたくないんだろう。だが――
再びシェリーの方へ視線を向けると、シェリーも反対方向へ顔を向けていた。金色の髪の下には白いうなじが顕になっている。その白さが眩しくて目が離せなくなって――ふと気づいた。
白いうなじに黒く小さな――ホクロ?
「これは?」
シェリーの白いうなじに指先を這わせた途端、シェリーの肩が跳ね上がった。
「キャッ…!」
「スーパーパワーはホクロを消しちゃくれないのか?」
笑いを含む声で言うジェイクを睨みながらシェリーが顔を顰めた。
「くすぐったいでしょ!触んないで」
「お前だって触っただろ」
「怪我してるからでしょ!」
「だからって男の身体に無防備に触るなっつーの」
「ええ?何で?」
怪訝そうな表情でこちらを窺うシェリーを見て、ジェイクは溜息を吐いた。こいつは本当に何にもわかっちゃいない。
「というかホントにそんなとこにホクロがあるの?」
自分で見えないから知らないらしい。しきりに後ろへ首を捻っている。
「ああ、ここにあるぜ」
髪が短いから隠れることなく晒されている箇所に指先で触れる。この距離で見下ろすとその白い肌が目の前だ。唇を落としたくなる衝動と戦いながら、指先だけで我慢する。
「他にはないのか?」
「見える範囲にはないわね」
「探してやろうか?」
うなじを晒して顔を向こうに向けているのでシェリーの表情は見えないが、一泊置いてすぅと指先を這わせている首に赤みが差した。
「な、何言って――」
慌てて首に掌を当ててこちらを向くシェリーに笑った。鈍いと思ったがそうでもないのか。いつの間にか差した夕日がシェリーの顔を赤く照らしている。そのせいなのか、俺のせいで赤いのか――ジェイクはヘリの降下を感じて名残惜しそうに指先を離した。


***

ふと落とした視線の先に見つけた印に唇を落とした。
くすぐったかったのか、シェリーが肩を竦めた。
「なに?」
後ろから手を回して肩を閉じないように首筋に掌を当てた。そのまま執拗にうなじに顔を埋めた。
「くすぐったいってば」
笑いながら言うシェリーの手がジェイクの腕にかかる。
あの時、と唇を肌につけたまま呟く。
「あの時、我慢したからな」
「え?」
後ろに回っているジェイクの顔が見えないからか、シェリーが横を向いてこちらを見ようとする。それを阻止するように腕に力を入れる。
「あの時?」
「例の事件が終わってヘリに収容された時」
まだ思い当たらないのか、戸惑ったような沈黙が落ちる。
「俺がコレを見つけた時」
そう言いながらそれに舌を這わせた。同時に腕の中のシェリーの身体が跳ねた。
「ちょっ…なにす…!」
「…ここと、ここにもあるな、ホクロ」
そう言いながら鎖骨の上辺りに指を滑らせて、やっと何のことかわかったようだ。あの時は冗談だった「探してやろうか?」という言葉を実践できる立場にいる今を考えると遠い昔のようだ。
「我慢てなによ」
後ろから抱きしめているので顔は見えないが、不機嫌そうな声音が答える。
「こうしたかったのに指先で我慢した」
そう言いながら首筋から唇を離さない。
「当たり前でしょ!あの時はそんなんじゃなかったんだから!バカ!」
もう離して、と腕を解きにかかるシェリーを押さえ込み、そのまま這わせた唇で強く吸うと小さく赤い印がついたがすぐに消えた。
「キスマークはつかねぇのに、何でホクロは消えないんだ?」
「知らないわよ!もう!離してってば!」
激しく暴れるシェリーの抵抗は可愛いものだが、あまりしつこくやると本格的に機嫌を損ねる。頃合いか、とジェイクは腕を解いた。緩んだ腕の中から素早く逃げる。
「何だよ、嫌なのかよ」
わざとふてくされたように言うと、シェリーが首筋を押さえながらこちらを向いた。その顔が赤い。
「…我慢てどういうこと?」
「ハァ?」
「あの時にはもうこうしたかったてこと?」
ああ、と合点がいった。いつから、という質問は何度かされたが全部はぐらかしてきた。そんなこっ恥ずかしいこと口が裂けても言えるか、と思っていたが――
「何だ、気づいてなかったのか。指で触っただけで首まで赤くなったから気づいたと思ってたのに」
薄く笑いながら言うと、シェリーの顔が更に茹だる。
「わ、わかるわけないでしょ!バカ!」
「じゃあ何で赤くなったんだよ」
畳み掛けると「赤くなってなんかない!」という噛み付きそうな答えが返って来て、更におかしくなった。

指先だけで十分伝わる――程度には自分はバレバレなんだろう。


あとがき
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