バイオハザード6の二次小説を書いてます。
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【レオエイ/夫婦パロ】甘える
「エイダ」
自分を呼ぶ声に意識が浮上する。呼吸が浅い。重くのしかかるような瞼を押し上げれば、見慣れた青い瞳が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「…レオン」
声が喉に引っかかる。ベッドから起き上がろうとして、肩をそっと押された。
「いい、起きるな。すごい熱だぞ?」
言われて頭が朦朧とするのはそのせいだと気付いた。風邪なんていつぶりだろう?
「大丈夫よ。寝てれば治るわ」
「氷枕を持って来る。何か飲むか?」
「…欲しくない」
大丈夫だから、と重ねて言うと、レオンの顔が一瞬曇ったが、そのままエイダの視界から消えた。
ぼんやりしていると、すぐにレオンがそばに戻って来た。手には氷枕とペットボトル。エイダは笑いながら起き上ってそれを受け取った。その間にレオンが枕を氷枕に換えた。
「ありがとう」
言いながらペットボトルの水を少し飲んだ。喉に流れる水の冷たさが頭を少しスッキリさせてくれたようだ。枕に頭を置くとその冷たさが更に意識を覚醒させた。
「気持ちいい」
目を閉じてそう言ったが、レオンからの返答はない。不思議に思って目を開けると、ベッドの脇に椅子を置いて座っていたレオンの困ったような顔が見えた。表情の意味が読み取れなくて、エイダは首を傾げた。
「…何かしてほしいことはあるか?」
「特にないわね」
考える気力もなく素直に思ったことを言ったら、またレオンが詰まったように黙った。
「なに?」
「…もっと甘えてもいいんだぞ」
(甘える?)
エイダは言われた言葉が理解できないとばかりにレオンを見返した。辛うじてオウム返しで言葉を返すのは堪えた。
「だから…、そばにいて欲しいとか、手を握っていて欲しいとか、あるだろ?」
エイダは軽く目を見開くようにレオンを見た。その表情でわかったんだろう、レオンが憮然と横を向いた。
「まるでそんなこと思ってもみなかったって顔だな」
エイダはその様子がおかしくて、思わず微笑んだ。
(可愛い人ね)
仕事で男と接する時は手に取るように相手の考えがわかるのに、彼相手ではまるで通用しない。相手が何をすれば喜ぶのか、何を欲しているのかを読むのは仕事で慣れているはずなのに――
そこまで考えて、エイダは息を吐いた。ああ、そうか。

――レオンは"仕事"じゃないから――

甘える、という行為をエイダは今までしたことがない。ハニートラップを仕掛ける時に"甘える"のは、相手を落とすための手管だ。そこには計算しかない。だが、計算を必要としない"甘え"など、考えたこともなかった。そんな相手もいない上に必要もなかったから、具体的にどうすればいいのかもわからない。
(手を握っていて欲しい?そばにいて欲しい?)
――正直、ゆっくり寝たいから一人にして、というのが本音なんだけど…きっとそれは甘えるとは言わないわよね?
エイダは考えた末にゆっくり口を開いた。


**

「甘えるってどうすればいいのかしら」
エイダがいつものポーカーフェイスでこちらを見ながら聞いた。
ああ、そうか。甘えたことなどないから――レオンはエイダの額に手を伸ばして、張り付いた髪を丁寧に払った。そのまま頬に指を滑らせる。
そんな風に素直に聞いてくること自体、天変地異の前触れかもしれない。普段の彼女なら有り得ない。
「別に難しいことじゃないだろ。お前が俺にしてほしいことを言えばいい」
レオンは彼女の目を覗き込んで、そのまま額に額をくっつけた。やはりまだ熱い。
至近距離の瞳を見つめながら、「別にゆっくり寝たいからあっち行って、って言うなら退散するけど?」とおどけた口調で言う。口調は砕けていたが、有り得ない話ではないな、と内心思った。
いつもよりも潤んだ瞳で頬は赤く上気しているエイダは、気怠そうに微笑むと小さく「行く気もないくせに」と呟いた。
「お前が望むなら何でも」
「じゃあ、」

――「キスして」

まさかそうくるとは思わなくて、レオンは瞠目した。「いいのか?」と我ながら情けない問いを無意識に発して、更に彼女に笑われた。
そんな風に笑う彼女に誘われて、レオンはエイダの脇に手を突いた。ベッドのスプリングが鳴る。
頬も額も熱かったが、唇も熱かった。エイダの熱がレオンに伝染するように頭が真っ白になった。本能で自分の欲しているものを追う。いつの間にかレオンの首に回った細い腕がエイダの意思のようで、レオンは夢中でエイダの唇を貪った。名残惜しげに離す頃には浅かった呼吸が更に苦しげで、レオンは思わず「悪い」と謝った。エイダはフッと笑って――

「キスしたら移るんでしょ?」

レオンは一瞬唖然として、ニヤリと笑うと再度顔を近づけた。

「ああ、移ると治るだろ。俺が引き受けてやるよ、その風邪」
言うが早いかもう一度口を塞ぐ。だから、遠慮はしなくていいってことだろ?


そして次の日、見事に風邪を引いたレオンを横目にすっかり普通に戻ったエイダがニッコリ笑った。
「ありがとう、レオン」
優雅に腰を振りながら部屋を出て行くエイダを見ながら、レオンは天井を仰いだ。
看病してくれないのか、という問いは「仕事だからごめんなさいね?」とアッサリ蹴られた。


――泣けるぜ。


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