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注)このSSは”アイはうらはら”のおまけSSです。
アイはうらはらを読むもう読んだからこっちを読んでみる





































アイはうらはら
〜クリスの場合



新しい炎の英雄が誕生して、幾日かの日々がたち、
それに賛同する仲間達もどんどんとやってきて、
ここビュッデヒュッケ城も炎の英雄と炎の運び手達の本拠地としてずいぶんと定着してきていた。


これはそんなある日の出来事である。






「う゛〜〜〜〜」

本拠地の一室でうなり声を上げているのはゼクセンの英雄として名高い銀の乙女”クリス・ライトフェロー”である。
この城へ来てからというもの、どうにも気分が晴れないのだ。

ただその理由があまりにも大人気なく…人に話すこともできずにずっと溜めこんでいるのだ。

そんな折、クリスにとって都合のいい来訪者が現れた。






「クゥゥゥ……」

いつのまに部屋に入ってきたのか、クリスを見上げるのは、ビュッデヒュッケ城一頼りになる(?)番犬のコロクであった。

「コロク…」

コロクの目を見ていると、クリスの中にじんわりとあたたかな気持ちが広がっていく。

「なんだ…元気出せって言ってるのか?」

クリスはコロクを撫でてやる。
そうすることによって自分のなかのもやもやも和らぐ気さえしてくるから動物というものは不思議だ。

「聞いてくれるか?」






「クゥ?」

クリスの話がわかっているのかいないのかなんとなく疑問形の鳴き声である。

「だからな…最近、サロメがあんまりここに来てくれないんだ…。イロイロと忙しいみたいで…」

「クゥ…」

「お前もそう思うか?」

「クゥ…?」

コロクは首をかしげる。

「でもな…」

クリスはぽつりぽつりと話し出す。

コロクにそんなこと言っても意味がないということはわかってる筈なのに…
それでも話せばすっきりとする気がしてならなかった。
それほどまでにクリスは悩んでいたのだ。







先日のことだ。

私はパーシヴァルやボルスたちに誘われて酒場に行くことになったんだ。
こんな殺伐とした毎日だから気晴らしに…というみんなの心遣いがありがたくて
一つ返事で承諾したんだが、誘ってくれたみんなの中に…

サロメだけ…いなかったんだ。

「サロメは?」

私はパーシヴァルに聞いてみたんだ。

「そういえば、先ほどから見かけていませんな。」

その後、皆が口々に知らないと言い出して…

「はて…?クリスさまもご存じないと?」

それで…レオがそんなことを聞いてくるんだけど…

「あ、ああ…」

上司って言っても信頼されてないのかな…本当に私は知らなくて、はっきりと答えられなかった。

「珍しいこともあるものですね。」

ルイスがやさしくそう言ってくれたけど…
私は知ってるんだ。

ううん。ここに来て初めて知った。

サロメがいろんな人と知り合いで…いろんな国のいろんなことを知っていて…
そして私の知らないサロメを知っている人がいるってことを…



そんなこんなで、酒場に着いたんだ。
もう日も暮れかかっているから酒場は結構なにぎわいだった。
入り口からちょっと入ったところのテーブルがちょうどあいていたから、皆でそこに座ったんだ。

ふと奥の方へ視線をやるとサロメがいるじゃないか!
私は驚いたけど、声をかけようかと思ったんだ。
せっかく皆で飲むんならサロメもいたほうがきっと皆も楽しいし。


でも…

声をかけられなかった。

よく見たら、ゲド殿と二人でお酒を飲んでるみたいなんだ。
しかも顔を寄せ合って小声でささやきあってるしっ!!

それに、それに…あのゲド殿の表情が緩んでるんだっ!!


……ゴホン。すまない。つい声を荒げて…


結局その後すぐサロメがこっちに気づいてくれて、すぐに来てくれたんだけど、

「何かございましたか?」

…なんて、言われたって

”ゲド殿とはどういう関係なの”

とか

”ゲド殿と何を話してたの”

とか聞けるわけないし…
サロメのせいでこんなに悩んでるのに、
ぜんぜん気づかないで答えられないことを聞いてくるサロメにだんだん腹も立ってきて

「知らない!」

の一点張りで、答えてやらなかったんだ。







「クゥゥ…?」

そこまで聞かされて、コロクはまたもや首をかしげる。

「…それくらいで悩んでるのかって?まだあるんだ…」

どうやら気分の晴れない理由は他にもあるようで、クリスは再び話し出した。







これはまたそれから数日後のことだ。

私は執務室でサロメが来るのを待ってたんだ。
朝からサロメが”今日は2時ごろに紅茶を持ってくる”って言ってくれたから…
ちょっと楽しみにしていたんだ。
最近忙しくてそういう時間もあんまり取れなかったし…

でも時計の針は2時を回っても一向にサロメは来ない。
時間にきっちりしているサロメなのにどうしたのか…

サロメに何かあったのかも!!

心配でたまらなくなって、とうとう私は部屋を出たんだ。

かちゃ

ドアを開けて、飛び込んできた風景はサロメとナッシュが廊下の壁に向かってなにやら話し込んでいる姿だった。
ドアの開く音に気づいたらしく二人は振り向いてこっちを見て、一瞬驚いた顔をしたけどすぐ平静に戻ったようで、

「やあクリス。」

いつもの調子で軽く手を上げナッシュが話しかけてくる。

「ナッシュ…サロメと何を…?」

「いや、ほんの世間話ですよ。」

そんなはずないのに…ナッシュはそんなことを言ってのけるんだ。

「世間話?」

「そうそう。そんなに睨むと美人が台無しだ。サロメ殿もあきれてますよ」

「なっ!!」

私は本当のことが聞きたくてナッシュをじっと見てただけなんだ!
別にサロメをとられて、それで睨んでなんて……いな…い…
い、いや…その…ちょっとは睨んでたかもしれないけど…

やっぱりサロメ…あきれたかな…

「わ、私はそんな!」

サロメを横目で見ると、あわててそんなふうに言ってるけど…フォローだってわかってるんだ。


でも…

わかってても、否定してくれるサロメが、うれしかった…



え…?早く続きを??…あ、ああ。そ、そうだったな……コホン。


それで、その後ナッシュったらとんでもないこと言い出すんだ。

「では邪魔者は退散しましょうか。どうやらお姫様は待ちきれなかったようだ。サロメ殿はお返ししますよ。」

そんなことを言ってのけて、ナッシュは、ひらひらと手を振って逃げようとした。
ナッシュはいつもいつも私のことをからかうんだ。
…だからってサロメの前で!!

「ナッ、ナッシュ!!!」

逃がすまいと私はナッシュを呼び止めた。
そして廊下の隅で小声でナッシュに抗議した。

「ナッシュ!なにもサロメの前であんなこと言うなんて」

「えぇ!?違ってました?」

「ち、違ってるも何も…!!」

「だってサロメ卿とのお茶の時間が待ちきれなくて、出てみたら私と話していたから気になってしょーがない…と。」

完全に図星を指されて…、
でもからかわれているのに、それを認めるのもしゃくで、私はナッシュの頭を軽くこついた。
言っておくが、本当に軽くこついただけだぞっ。
それなのにナッシュってば、

「あてっ」

大げさに頭をさすりながら立ち去っていった。

「自業自得だ。」

ナッシュを見送りながらついそう口に出てしまう。
ホントに…いつもいつもからかうんだから!


まあ…でも…その原因を作ったのは他でもない私なんだけど…。


グラスランドにナッシュと一緒に行ったとき、野宿をするときがあって…
ちょうどナッシュが火の番で起きていたときに私が寝言で”サロメ…”なんて言ってしまって、それを聞かれたみたいなんだ。

あっ!!こっ、これは絶対秘密だからな!
コニーにも言ってはいけないぞ!
最重要機密事項だ!!いいな?







「ク、クゥゥ…。」

「ふふ、長々とすまないなコロク。…でもおまえに話したおかげでちょっと気が晴れたよ。」

クリスは軽く伸びをして立ち上がった。

「さあ、コロク。話を聞いてくれた礼だ。散歩に行くか?」

「クゥ。」







「やはり外は気持ちいいな。」

「クゥゥ。」

クリスはコロクを連れて、城の周りを散歩していた。
昼下がりの暖かな日差しを浴びると自然気分もすがすがしいものになる。

湖畔へ続く路を歩くと、湖からの風がクリスの頬をくすぐる。

「こんなに気持ちのいい日だったらサロメも誘えばよかったな。」


「ん……あれは……」

和らいでいたクリスの表情が一瞬にして固まる。
メイミのレストランで二人でお茶をしているのはサロメとアップル。
遠目から見るになにやらサロメのほうが熱心に話をしているようである。


「……わたしにはあんなに一生懸命話してくれないくせに……」

ぼそりとつぶやく。

そして、サロメがまさに身を乗り出さんという勢いで向かいのアップルに詰め寄った。
そのとき―

プチッ

クリスの中で何かが弾ける音がした。


ズカズカズカ


「サロメっ!!」


サロメの背後へと近寄り、大声で彼の名を呼びつける。
もう自分でも制御不能の状態だ。

「クリスさま!?」

振り向いたサロメは何が起こってかわからずに目を丸くしている。

「評議会から書類が来ているぞっ!」

無我夢中で、口からでまかせの言葉を言い放つ。

「はい!今すぐ」

条件反射とも言うべきか、クリスの言葉に疑いは微塵も感じずに、
サロメはビシッと姿勢を正し即答した。

「ほら、早く!」

一刻も早くサロメを占有したくて、クリスはサロメの手をとると、くるりときびすを返し来たときと同じく急ぎ足で去っていった。




「クゥゥゥゥ…」


そんな二人を見送った後、散歩の途中でほっぽりだされたコロクが、小さく吠えるのだった。





そんなわけで、(?)

クリスの悩みは自力で解決されそうである。



終わり








サロクリ祭りに”嫉妬”で投稿させていただいた”アイはうらはら”のおまけバージョン。クリス編です。パロディ…というかんじで見ていただけたらと思います…



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