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不機嫌な騎士団長


このところクリスは自分でもわかるほどイライラしている。

理由は…自分の参謀役のことである。

今はグラスランドとゼクセンがひとつになって戦わねばならないときで、
ゼクセン側の橋渡しを行うのがその参謀役のサロメの一番の仕事であった。

それは困難極まりないことであったが、
シルバーバーグという世界にとどろく名門の血筋を引く一人の軍師のもとにみなが知恵を持ち寄り、
討論を重ねることはゼクセンの一軍師であるサロメにとってまたとない充実した機会であった。

それゆえ多少の忙しさなどサロメにとってはたいしたことではないのだが、
それがクリスの不機嫌を誘っているのであった。

「…今夜もまた会議なのか?」

夕食の後クリスの私室で一日の報告と今後の予定等を報告するのがサロメの日課であった。
そしてその後の会議もまた、最近ではほぼ毎日のように行われていることであった。

「はい。こちらのほうは私にお任せください。クリス様はどうぞお休みください、お疲れでしょう?」

「私は、疲れてなどいない…。おまえのほうこそ大丈夫なのか!?
先日も評議会のほうへ顔を出しに行ったと聞いたが。」

「わたくしのほうは大丈夫です。どうかお気になさらぬよう。」

サロメにしてはクリスに要らぬ心配をかけまいと思っての一言だったが
クリスはこれが気に入らないのだ。

「……もう、よい。下がってよい、会議のほう任せた。」

クリスは目をとじ冷たく言い放つ。

「……は、はっ…、失礼します。」

一瞬の間の後あわてて部屋を後にするサロメ。

「………???」

自分の何がクリスを不機嫌にさせたかわかっていないサロメである









「まったく、まったく、まったく〜!!!!」

バフバフバフ

「ちょ、ちょっとクリスっ〜そのぬいぐるみお気に入りなんだから八つ当たりはやめてよ 〜!!」

「ん、す、すまない。」

「んも〜せっかくのかわいいおなかがボロボロだわ」

そういってリリィはいびつに変形した‘だっくぬいぐるみ’(リード作)のかたちを
なんとか整えようとしている。

「…、で、何をそんなにイライラしているの?」

「わたしは部下の体の心配をしてはいけないのか!?」

「へ…?」

「‘お気に為さらず’などと…どうして気にしないでいられる!?」









「なるほどね〜、クリスはサロメさんのことが心配なわけだ。」

気のせいかうれしそうに聞き出すリリィになぜだかクリスは不安になる

「おかしい?リリィはリード殿やサムス殿が激務に追われていたら心配になるだろう?」

「う〜ん。どうかしらね〜あんま心配しないかな」

サムスやリードが聞いていたら肩を落としそうな台詞である。

「そ、そうなのか??」

「そうね〜,その相手が特別な方だったらやっぱり心配するけどね」

「特別な?…わたしにとってサロメは……」

腕を組み考え込むクリスにぐっと身を乗り出して近づくリリィ

「サロメはっ…!?」

「…まあ、部下の一人…だが、一番信頼がおけるくらいだな」

「…あっそ、」

肩透かしを食らうリリィであった。

「まあいいわ、クリスに聞いたわたしが悪かったわ。
そうね〜クリスはサロメさんが会議にばっかり出席してるのがいやなんでしょ?」

「いや、そこまでは言ってないが…まあもう少しゆっくりしてくれればいいと…」

「だったら簡単よ!わたしがいうとおりにサロメさんに言ったらバッチリよ!」

「え…そ、そうか?」

「そうよ!!クリスは口下手だからうまく伝えられてないのよ〜。
こういうときはわたしにまかせて!」

その自信は何処から来るのかと聞きただしたいものである。

リリィは辺りを見回し人がいないのを確認し、そっとクリスに何やら耳打ちした。







「……本当にそんなことでうまくいくの?」

あから様に疑いのまなざしをリリィに向けるクリスである。

「ぜぇ〜ったい大丈夫よ大船に乗ったつもりでgo!go!よっ!!」

そんなまなざしをものともしないでリリィはノリノリであるが…
それはまったく根拠のない自信でありクリスはますます不安が募る。

「やっぱりやめとこうかな…」

「何言ってるの!?ここはちゃんと言っておかないとサロメさん過労死しちゃうかもよ!?」

「か、過労死??」

(そ、それは困る…)

「…じゃあ、言ってくる」

リリィのとどめの一言でクリスの決心は固まったようである。

「いってらっしゃ〜い!い〜い?上目遣いだからね!」

「…あ、ああ…」

一抹の不安を残しながらも執務室へともどってゆくクリスであった。







「クリス様、お戻りでしたか」

部屋に戻り一息ついているとサロメがやって来た。

「…あ、ああ。サロメ…」

「…??あの、どうかされましたか?」

リリィのアドバイスのことを考えるとついぎこちない受け答えになってしまうクリスを
訝しむサロメである。

「ん、?あ、いやなんでもない。」

あわてて取り繕うクリス。

「そうでしたらよろしいのですが。」

少々疑問に思いながらもサロメはそれ以上の追求はしなかった。

ほっと息をつくクリスであった。









「では、こちらに書類のほうはおいておきますので。」

 サロメはブラス城からの伝達事項を一通り済ませた。

「これから…また、会議か?」

「ええ、いよいよこの戦いも大詰めですからね。」

「……」

サロメの煎れた紅茶を口に運びながらクリスは頭の中でリリィに言われた台詞を反芻していた。

「クリス様?…」

いつもと様子の違うクリスにサロメは再び問いかける。


「か、会議なんかに行かないで…」

「は??」

「も、もう少しここにいて欲しい…の。」

そう言って斜め前のソファに腰掛けているサロメの上着のすそをつかみ上目遣いで見つめる。

緊張のせいかその瞳は潤み、頬には朱が刺している。

「クッ、クリス様〜!?」

あまりの出来事に声が裏返り、硬直してしまうサロメ。

(…やはり、わたしではうまくいかないではないか〜リリィのうそつきっ!!)

「あ、あのっ、すまん。何でもないんだ!お前を困らせるつもりじゃなくて、そのっ、お前の体が心配でだなっ!!」

真っ赤になって弁明をするクリス

(あ〜なんでわたしはこんなにいいわけめいたことをっ!!
もっと堂々と言えばいいのだっ。それをリリィがあんなこと言うから〜)

クリスの頭の中はすっかりパニックである。



パニックなのはサロメのほうも同様だった。

(クリス様っ!かわいらしすぎますっ!!!)

が、ここはサロメのことこの手で抱きしめたい衝動をぐっとこらえ、クリスの肩に手を置き、
彼女の瞳をやさしく見据え、告げた。

「申し訳ありませんでしたクリス様」

「え?」

(うまく、いったのか?)

「なれぬ土地での滞在、クリス様の不安も尤もです。」

「え、え??」

(なんかちょっと違うような?)

「これからはクリス様が安心してお休みになれるよう警備を強化し、
私もできる限り隣室に控えておりますゆえ。」

「え?え、と…?」

クリスもクリスならサロメもサロメで…

せっかくのリリィの画策もこの二人にはまったく効果がなかったようであった。







「今日はよく眠れるようハーブティを煎れましたよ」

そういいながらいつもと違いサロメが2客の茶器を持ってくる。

それは確かに自分と一緒にお茶をするということで…

思っていた経緯とは違うが結果としてはサロメが少しは休息をとるということになったわけではある。

「まあ、いいか」

「…?どうしました?」

「ん?何でもない。いい香りだ早速いただこう。」

そういって上機嫌でお茶を楽しむクリスとそれをやさしく見守るサロメであった。

かくして会議に遅刻しても心なしかうれしそうなサロメの姿が毎晩見られたとか…

後日談へ→



すいません。これでもギャグのつもりです。
しかもわけのわからない展開で…。
サロメはクリスのこと好きだけど
クリスはサロメのことまだ意識していない…
という設定です。
記念すべき!?幻水初創作です





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