act 3 :「おねがい」
高校二年生の冬は、意外に長い。
三年生の先輩方はお忙しい日々を送ってるみたいだけど、二年生は別。
来年は忙しくなるという免罪符を掲げて、遊びまくってる奴らも多い。
そういう連中は、三年生の夏にも”最後の夏”という免罪符を買うのだ。
それでも大学受験に合格したいと思うバカは、もはや救いようがない。
今から少しずつ勉強しておけば、どこかの大学には滑り込めるということを知らないのだ。
ま、このところ成績がうなぎのぼりなこの私にとっては、関係ないことだけど。
「……あ、甘酒あるよ。飲みに行こうよ」
”どうせ彼女もいないんだから”という理由で、と一緒に二年参り。
家の近所の神社だから、それなりに人はいても、歩くのに苦労はしない程度。
今だって、甘酒の暖簾が簡単に見つけられた。
「かまいませんが、先に御参りを済ませませんか」
「後でいいよ。寒いじゃん。先に暖まろうよ」
の腕を取って、先に暖簾をくぐる。
観念したのか、も素直に従ってくれた。
「甘酒二つ」
「はいよ」
店のおばちゃんが出してくれたのは、取っ手付きの紙コップ。
甘酒は熱いんだけど、すぐに冷めていってしまう。
人の流れから少し外れた場所で、二人して甘酒に専念する。
「んー、甘い」
いいねぇ、この甘さ。
少しだけ生姜のピリッとした味がして、あとから甘さが来る。
毎年この時期にしか飲まないから、余計においしく感じられる。
「御参りをする前に出店に入る方は、初めてですよ」
「いいじゃない。どっちにしたって、まだ15分くらいあるじゃない」
そう。
今は、まだ11時45分。
日付は、まだ変わってない。
「そろそろ上がっておかないと、人混みで大変じゃないですか」
「いいの」
そんなに早く帰りたいわけ?
そりゃあ、家庭教師を呼び出した私も私だけどさ。
毎年一緒に来てたミケの奴が、今年はカレと行くんだって言ってきたから……悔しかったし。
「ひょっとして、って人混みダメなの?」
「得意ではありませんよ」
私にしては高めのヒールを履いてきたけど、それでもの方が背は高い。
両手で紙コップを持って見上げている私は、端から見るとどういうふうに見えるんだろう。
いや、私たち…か。
恋人同士? 同級生?
先生と生徒…?
「……あのさ、って身長はいくつ?」
「え……八十くらいですけど」
の顔が、少しキョトンとしてた。
元々大人っぽくない顔つきだから、余計に幼く見えた。
そう、私と同い歳ぐらいには。
でも、180か。
ヒールを履いたって、とても届かないね。
「結構高いんだね」
「それでは、五センチ引いておいて下さい」
「何、それ」
冗談も言うようになったんだ。
自然に笑える私がいた。
がいなかった頃には感じなかった、”毎日が楽しい”ってこと。
気付けば、家庭教師で勉強するようになった以外、何も変わってないのに。
日々の些細なことが楽しくなってきてる私がいた。
「そろそろ12時だね」
「行きましょうか」
「うん」
人の流れに戻って、ゆっくりと賽銭箱の前に進む。
はぐれるといけないからって、が後ろを歩いていた私をそばに引き寄せる。
そんなことしなくても、腕でも組ませりゃいいのにさ。
……なんて、言うわけないけど。
「あ、お賽銭出さなきゃ」
財布を開ければ、それなりの小銭。
やっぱり、ここは五円玉かなぁ。
恋愛は、糸が通るように穴が空いたものがいいって聞くしね。
「……成功しますように」
頼むよ、神様。
こっからが勝負なんだからね。