リオノスの翼 ―少女とモフオンの物語―

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  5−3  

話はシフォンから,保護区で働くほかの人々へ移った.
保護区での仕事は,リオノスの研究をしたり,直接的にリオノスの世話をするだけではない.
えさである下草を管理したり,日差しや雨を避けるための屋根を作ったり,近くにある村の子どもたちにリオノスとの接し方を教えたりと多岐にわたる.
それらをするのは,二十名ほどの心の優しい大人たちだ.
国王は聞き上手で,瞳は存分にしゃべることができた.
さらに彼は気遣いがうまく,同席のほかの人たちに話を振っては,瞳にさりげなく食事を勧める.
カスターは最初は会話に乗り気ではなかったが,だんだんと興味がわいたらしく,
「私もリオノスを見たいな.そして,その背に乗って空を飛びたい.」
と,冗談めかして笑った.
食事の終わりになると,
「私の人生で,君のような存在に会うとは想像だにしていなかった.」
国王が改まって言う.
「異世界からリオノスに連れられてきた君自身が,建国伝説が真実であったことの証拠だ.」
テーブルについた全員がうなずく.
「私たちの祖先は同じ.君を王家の一員として歓迎しよう.」
「ありがとうございます.」
瞳は礼を述べて,夕食は和やかな雰囲気で幕を閉じた.
再びレートに連れられて,客室に戻る.
部屋に入る前に,風呂に入ったら私の部屋に来るんだと強く命令された.
しかし瞳はすっかりと忘れて,風呂から上がるとベッドに直行した.
心地よい達成感が,体を包んでいる.
国王も世継ぎの王子も,リオノスを好きになってくれた.
瞳は自分に与えられた仕事を成功させたのだ!
暖かな夢に潜ると,リオノスと保護区で働く人々が現れる.
みんな瞳をほめて,おめでとうと口にする.
君は一人前だ,保護区の仲間として役に立つ,保護区へ帰っておいで.
瞳は大喜びで彼らのもとへ走った.
光のさす方へ.
そして朝日の中,目覚めた.
すると昨日と同じく,レートがベッドのそばに立っている.
瞳は,はて? と首をかしげた.
とりあえず今朝はよだれをたらしていないので,一安心なのだが.
王子は,ため息を吐いた.
「今日の予定を言う.君は私の友人たちと昼食を取る.場所は後で知らせる.」
「はい.」
ネグリジェで寝起きの髪のままだが,瞳はかしこまってベッドの上で正座する.
そもそも彼には嘔吐もよだれも見られているので,妙に気安い存在だった.
さらに童顔で年下っぽいので,余計である.
「セーラー服を着た方がいいでしょうか?」
「もちろんだ.あれは君が異世界から来たと,分かりやすく教えてくれる.」
確かに制服は,どこの邸に行っても注目された.
「それから,今日会う友人たちは音楽をたしなんでいる.君には故郷の歌を披露してほしい.」
「かしこまりました.」
中学校の校歌や男性アイドルの歌しか思い浮かばない.
だが,まぁ,いいかと瞳は妥協した.
「楽器は演奏できるか?」
「ピアノなら,……でもちょっとしか弾けません.」
バイエルの途中までだ.
「なら,いい.今回は歌のみにしよう.ピアノは教師をつけるから,練習するように.」
瞳は嫌な予感がした.
ピアノを習う?
いつまで瞳は城にいる予定なのだ?
「私はいつ保護区へ帰れるのですか?」
彼は,あきれたように見下ろす.
「帰れるわけがないだろう.君は私の婚約者だ.」
「は!?」
瞳は礼儀を忘れて,声を上げた.
「城についた夜,私は君の部屋へ行き,初夜を迎えた.」
レートは淡々と説明する.
「翌日,私は君を家族に紹介した.父は君を,王家の一員として歓迎すると言った.」
つまり結婚の許可をもらったわけだ,と話す.
「晴れて婚約者となった私たちは,昨夜もこのベッドで愛し合った,ということになっている.」
瞳は思わず,ベッドから飛び降りた.
「なんで?」
信じられない気持ちで,たずねた.
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