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君と一緒に歩きたい


「私は,お兄ちゃんが好きなの.」
ぽろり,と言葉が零れ落ちた.
零れ落ちた瞬間,自分でもびっくりする.
けれど,すとんと心に落ちるように納得できた.
あぁ,そうか.
私は,お兄ちゃんが好きなんだ.
「嘘だ.」
なぜか,兄は顔を歪ませた.
「嘘じゃない.」
私は言い返す.
「お前は家族愛を,勘違いしているんだ.」
「違う!」
私は叫んだ.
「私はお兄ちゃんが好きなの,ずっと好きだったの.」
「辞めろ!」
小さく鋭く,兄は私の言葉を切る.

「お前が俺を愛しているわけがない.」
兄は,私の告白を真っ向から否定する.
「愛しているなら,なぜ他の男と付き合うことを考えた? 愛しているなら,なぜ俺のことを兄と呼ぶ?」
「それは……,」
私は言い返せない.
「俺はあのとき,ギターを弾きながら,相手の男を殺してやりたかった!」
兄の激情に,私は震えた.
いつも陽気で明るい兄が,こんなことを言うなんて.
兄は今まで見たことのないほど暗い瞳で,私を見つめていた.
――怖い.
私の心を見抜いたかのように,兄は私に背中を向ける.
そして私を置いて,二階へと上がっていった.

私は,ただ立ちつくす.
ごめんなさい.
ごめんなさいと,謝ることしかできない.
私,気づくのが遅かった.
ずっと,何も知らないでいた.
つう,と涙が一つ,流れる.
それを拭ってくれる人は,もう居ない.
――ごめんね,お兄ちゃん.





――END(涙)
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