君と一緒に歩きたい
次の朝,朝食を食べる兄の頭を後ろから,はたいてみた.
「なっ,何するんだよ!?」
ぎょっとして,兄は振り返る.
「いーなー,」
私は,じっとーとした目を作って言った.
「お兄ちゃんには新しい彼女が出来て,……私なんか,一生彼氏ができないかも.」
すると怒るかと思った兄は,なぜか優しく微笑んだ.
「いつか,……お前にもできるさ,」
お兄ちゃんと呼んでも,実際には彼は私のいとこだ.
「心から愛し,愛される存在が.」
今,心から私を愛してくれているのは,この兄ではないだろうか.
ふいに心の中に,そんな考えがよぎる.
けれどその考えは荒唐無稽すぎて,私の心に根付かなかった…….
十年後,
「ハイ,チーズ!」
カメラを構える兄に向かって,私と両親は微笑んでいた.
「緊張するなぁ,」
と,タキシードを着た父が笑う.
「お父さん,」
私も笑った.
「しっかりしてよ.お父さんと一緒に,バージンロードを歩きたいんだから.」
この純白のウェディングドレスを着て.
「こけるなよ,美紀も父さんも.」
兄も笑う.
叔母の恵子(けいこ)さんがやってきて,兄のカメラを取り上げた.
「私が撮ってあげるわ,裕二君も入りなさいよ.」
「いや,でも……,」
兄は,らしくない遠慮をする.
私は手を振って,兄を呼び寄せた.
「お兄ちゃんも入って! 式の前に,家族みんなで写真を撮ろう!」
大切な,大切な家族写真を…….
――END(家族写真)
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