曽野 十瓜『シークレット ヘブン』二次創作

  しーくれっと☆へぶん  

 あたし、真百合。十六才。ちょっぴりワケありの高校二年生、お寺の一人娘なの。
 この前、たまたまエッチした男性が、新任の歴史教師として学校にやって来ちゃった。びっくり!
 こういう偶然ってあるのねぇ。わが目を疑ったけれど、やっぱりこの顔よ。薄い色の目に茶髪で、なかなかのイケメン。
 でも向こうは、あたしに気づかない。
 一ヶ月間、あっつーい視線を送って、テストもがんばったのに、気づかないなんて鈍感なひと!
 だから、あたしから声をかけちゃった。
「先生」
 あたりに誰もいない廊下で、神経質そうな細い背中に声をかける。
 彼は、ほかの先生がいないのか確かめるように、首をきょろきょろと動かした。
「長森、先生」
 あなたを呼んでいるのよ、と名前をつけて、あたしは呼んだ。
「はい?」
 少し緊張して、うわずった声。あたしは思わず、笑ってしまった。だって、『先生』と呼ばれ慣れていないことが、よくわかる。
 かわいいひと。
 でも口に出しては、まったく逆なことを言っちゃった。
「莫迦なひと」
 ぞっとしたように、体を震わせる先生。
 やだ、あたしったら、さっそく嫌われるようなことをしちゃった。どうしてもっと素直になれないのかしら、あたしのバカバカ。
 体からはじまった関係だけど、とにもかくにも、あたしと先生は学校で再会したの。



 どうしても素直になれないあたしは、先生のためにお弁当を作ってきたの。
 あたしったら、ケナゲ〜! 今どき、こんな女子高生はいないわよ。
 サンドウィッチなんてしゃれたものは作れないけれど、煮物料理は得意なの。胃の弱そうな先生のために、ちゃんと薄味にしたわ。
「お弁当作ってきたの。食べてくれるわよね」
 ツンツンしたもの言いしかできない自分が恨めしい。本当は昨日の夜から下ごしらえして、朝の五時に起きて一生懸命に作ったのに。
「……何を企んでるんだ?」
「え? 何?」
 あたしはきょとんとした。
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってくれないか」
「別に何も」
 先生の方が、意味わかんない。
「こんなの、やめよう」
「どうして?」
 お弁当の中身も見ていないうちから、ひっどーい! あたしがどれだけの時間をかけて、肉じゃがを煮こんだと思っているのよ!?
「先生、あたしのこと嫌い?」
 せめてお弁当のふたを開けて、一口だけでも食べてから言ってよね!
「好きとか嫌いとか以前に、わかってるだろう?」
 あたしは、ほおをふくらませた。
「僕は教師で君は生徒だ。こんなことは許されないんだ」
 ぶーぶー。そんなセリフ、建前にしか聞こえません! 恋する乙女は、こんな程度ではめげないのだ。



 燃える燃える、炎が燃える。教室の中央で、火の粉をまき散らして、巨大な赤い柱が立つ。この世の邪悪を打ち払うために。
「うふふふふふふ」
 満足できる出来栄えに、あたしは笑った。
「ねぇ、綺麗でしょ?」
 熱風を浴びて、背後の先生に問いかける。
「崩れないように積み上げるの、たいへんだったのよ」
 もう、ちょー重労働だったわ!
 先生が眠りこけている間に、机の中から教科書などの本類を取り除いて、九つの机を積み上げて、――絶対に明日は筋肉痛よ! その後、教科書や体操服などに灯油を染みこませて、くさくて鼻がねじ曲がるかと思ったわ。
 教室のカーテンも焼こうかなと考えたのだけど、学校のカーテンって防炎カーテンなのよね。おもしろくないわね、ぷんぷん!
「……何してんだ!?」
 何って、決まっているじゃない。あたしは振り返って、にっこりとほほ笑んだ。
「学校、燃えるぞ……!」
「燃えちゃえばいいのよ」
 あたしは先生と向き合う。こんな愉快な気分は初めてだった。
 灯油缶をつかみ、さらに液体をぶちまける。もっと、もっと大きくなる浄化の炎。ぞくぞくする。
 先生はあたしの体を引きずって、教室から連れ出した。炎に追い立てられるようにして、学校からも逃げる。そうしてこの社会からも、転がり落ちていく。
「莫迦なひと」
 あたしはつぶやいた。でも、本当はうれしいの。あたしってツンデレだから、こういう言い方しかできない。
 あたしは先生に腕を引かれて、喜びにほほ笑みながら、夜のやみにのまれていった。

この小説は二次創作です。原作の小説はこちらです。R18指定ですので、18才未満の方はご遠慮ください。

文責:宣芳まゆり

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