奈良新聞(平成11年7月8日版)掲載
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 腸炎ビブリオ感染症  
                      県医師会 下里直行    

 食中毒を起こす菌として、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、病原性大腸菌、サルモネラ菌、
カンピロバクター菌などがありますが、中でも「腸炎ビブリオ菌」による食中毒は、十
年前の五倍以上に増えています。
 腸炎ビブリオは、夏の海水中に発見される菌で、塩水を好み、真水では繁殖できま
せん。
 毒素を出す菌でなく、腸内で多量に増加することで発病します。
 夏季(七月〜九月)の集団発生が目立ちますが、散発的な発生もかなりあります。
 水揚げされたあとの取り扱いが悪い魚介類で、特にアジ、カレイ、イカ、タコ、イワシ、
シラス干しやタイラ貝、バカ貝、岩ガキなどに付いて繁殖し、生で食べると、十二〜二
十四時間ぐらいの潜伏時間をおいて症状がでます。
 上腹部の痛み、はきけ、おう吐、激しい下痢、ときに血便、発熱などが主な症状です。
 脱水症状には、点滴輸液。病原菌には化学療法を行うことで、通常は五〜六日で
治ります。
 死亡することはめったにありませんが、高齢者では重症になることもあります。
 この菌は、大腸菌より増殖スピードが速いのですが、10℃以下では繁殖しにくいと
いう特徴があります。
 ですから、購入後はできるだけ早く冷蔵庫などに保存して、長く置かず、早めに食べ
てください。駐車場の車の中に何時間も置くなどは、もってのほかです。
 腸炎ビブリオは、夏季に多発する食中毒ですから、この時期の魚介類は加熱処理を
して食べるか、生で食べたいときは、流水でよく洗うことが大切です。
 なお、この菌が付着した野菜や、塩漬けなどでも発病しますから、魚を調理したあと
の包丁やまな板は、十分に流水で洗いましょう。
 
               
                 (本稿は、平成11年7月8日:奈良新聞朝刊に掲載されました。)