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 ビオトープとは
  学校ビオトープづくりの基礎・基本(概要)   学校ビオトープづくりの基礎・基本(本論

 学校ビオトープづくりの基礎・基本(本論)
              学校ビオトープ・ネットワーク研究会 副会長
              滋賀ビオトープ研究会副会長
              元西浅井中学校校長            村 上 宣 雄

1.学校ビオトープの捉え方

1)はじめに
 学校ビオトープは近年多くの学校において関心がもたれ、実践が広まりを見せている事はうれしいことです。特に今年から始まった「総合的な学習」の時間の活用場面として脚光を浴びてきています。体験を伴う活動であり、保護者や地域住民と一緒に取り組める活動であるというスタイルが時代の流れに乗って、学校ビオトープブームを生み出しています。
 しかし、学校ビオトープのねらいや理念が正しく理解されているかについては疑問です。多くの実践を見てみると、学校の空き地に池を掘り、水をためたビオトープが多く出現するようになってきました。中には数十万、数百万の費用をかけて作られたものもあります。そして池の中にはメダカやトンボが棲息しています。外観はたしかにビオトープであり、たしかに生き物も生きています。しかし、このビオトープが「学校ビオトープ」としての機能を本当に果たしているかどうかについてはすべてがGoodという調子にはいかないのです。どうしても「ビオトープ」と「学校ビオトープ」の違いの理解が必要なのです。
 
2)環境破壊の気づきから生まれたビオトープ

 日本の経済発展は、当時の総理大臣田中角栄の列島改造論からスタートし、所得倍増と引き換えに、豊かな自然を多く失ってしまいました。道路建設、ダム建設、圃場整備、森林の伐採と人工林の植林などの公共事業によって、多くの生物が姿を消してしまいました。しかしいつまでもこうした経済発展は続かず、バブルの崩壊を境に日本の経済は下降路線を進んでいます。そして、逆に自然を破壊してきたことに気づく国民が多くなってきました。経済発展でお金に目を奪われていた国民は、その景気が止まったとき、改めて自然破壊の大きさに気付くようになってきたのです。失ったのは自然破壊のみではありません。長い問培われてきた日本人の自然と調和した生き方、自然を敬い、大切にしていく生き方や考え方も崩壊してしまったのです。そして農作業の共同体としての組織の崩壊につながり、現在は厳しい段階まできているのです。たった数十年間で先祖が残してくれた自然を破壊してしまったことに悔いを感じ「もうこれ以上自然の破壊をしてはいけない。残された自然は大切に次の世代に引き継いていかねぱならない。引き継ぐことが私たち世代の役割であり、任務である」というふうに考える人が増えてきました。私が教職についた昭和40年代には、自然保護や環境教育という言葉を発しても耳を傾ける人はほとんどありませんでした。逆に時代の流れを止める人物として、冷たく見られる時代でもありました。

 しかし、今の時代は環境の時代に突入しており長年環境保全の啓発に関わってきた筆者にとってはうれしい限りです。しかし、マスコミや行政サイドからその重要性が主張されていますが、具体的な場面や行動となると保全の道はなかなか難しいものがあります。確かに行政も大きく変わってきました。環境省、国土交通省、農林水産雀も事業の推進に生態系保全の姿勢を打ち出し、河川法も森林法もビオトープの考え方を取り入れ、生態系保全を重視した施策や工法を提案し推進するようになってきました。すでにモデル事業としていつくかの立派な事業が完成していますし、その方向は強くなってきています。しかし、国の直轄の事業は別して、都道府県や市町村段階の事業については、今も従来の手法と依然変わっていないのも事実です。
 すべての工事がビオトーブの姿勢で取り組むまでには、今後まだまだ多くの年月を要すると思われますが、時代の流れは確実に生態系保全の方向に向いている事に間違いありません。

3)ドイツに学ぶ日本
 日本がこうして、ビオトープの道を歩むようになったおもな理由は、国外に学ぶべきモデルがあったからです。それはドイツにおいて、先駆的な取り組みがなされていたからです。ドイツでは1976年に「連邦自然保護法」が制定され、今まで開発によって失われた自然を取り戻す試みが始まりました。この法律は、行政、企業、市民が一体となって自然保護に取り組み、一度作った人工のコンクリートの川や排水路を取り壊して、もともとそこにあった本来の多様な自然や生き物の棲家を呼び戻す取り組みを目指して作られたものでした。いわゆるビオトープづくりの提唱でした。
 一度作った人工物を壊すという取り組みは、当時の日本では考えられず、斬新な取り組みとして、新鮮な感覚で受けと止められ急速に日本に紹介され、多くの視察団が現地に学び、日本の環境保全活動の新しい見本となってきたのです。そして今日本では新しい法律である「自然再生推進法案」が今年(2002年)の秋の国会で審議されようとしています。ドイツに20年以上の遅れを取っています。いかに日本の取り組みが遅いかがわかります。
   
環境教育に関する国内の流れ
 ●開発を規制する動きは、公害が発生した1965年(昭和40年)代に入ってからである。
  1970年代--公害教育
 ●1973年(昭和47年)日本列島改造論(開発中心)が発表される。自然環境保全法が制定される。
 ●1974年(昭和49年)画期的な「自然保護憲章」が制定される。
 ●1993年(平成3年)に「環境基本法」が制定される
 ●2000年になってから、新しいか環境保全・環境教育に関する法律が次々と生まれてきた。

最近の環境に関する法令の動向
@生態系保全という観点の重視 2002年
 ■新・生物多様性国家戦略
 ■生物多様性の確保、 景観保全⇒生態系保全
A積極的な環境保全対策の展開
 ■自然再生推進法案成立 2002年
B環境教育(学習)のさらなる推進 2003年
 「環境保全のための意欲の推進及び環境教育の推進に関する法律」
C外来生物法 2004年

  

4)「ピオトープ」と「学校ビオトープ」
 ここで「ビオトープ」と「学校ビオトープ」について整理しておきたいと思います。すでにご存知のように「ビオトープ」とはもともとドイツ語でBIO(生物)とTOP(場所)の合成語で、野生の生き物が生まれ育つ、ある地域の生態系のことです。ここで大切なことは、「生き物が生まれ育つ」という概念です。ある池にいくら多様な生き物が棲息していたとしても、その池において、生き物が増えない所であれば、それはビオトープとしては良い場所とは言えないということです。そこにすむ生き物が次の子孫を増やすことの出来る環境であるかどうかがビオトープでは重要なポイントです。次にビオトープという概念が、生き物の棲める空間を新たにつくる一連の作業に限定してとらえている人が多い点も問題です。
 ビオトープという概念には自然の「保全・復元・創造」の3つを包含しています。近くに生態系の豊かな環境があり、それを大切に保護する取り組みは、まさにビオトープとしての取り組みです。すでに破壊されてしまった自然環境を少しでも生き物が住みやすい環境に復元する取り組みや、生き物がいない場所に、人工的に川や池、湿地をつくり近くの生き物をすまわせる取り組みもビオトープです。
 今全国の学校に広く広がっているのは、学校の空き地に人工的に池をつくり、地下水を汲み上げてトンボの池やメダカの池をつくる活動です。
 さて「学校ビオトープ」という概念はどのように考えれば良いのでしょうか。人によって解釈は異なるかもしれませんが、私たち「全国学校ビオトープ・ネットワーク」では次のような共通理解をしています。すなわち学校ビオトープとは、すでに学校の敷地内や学校のまわりにある豊かな自然環境の他、それらを復元したり、新しく創造したりすることによって生まれた自然環境が、子どもや生徒たちの学習や遊ぴにかかわりを持つ場合、その場所を学校ビオトープと考えます。すでに学校の中に存在する生態系や新しくつくられた生態系は当然学校ビオトープでありますが、学校の敷地外であっても、児童生徒が係わりをもっている生態系空間があれば、それも学校ビオトープと考えています。逆にいくら素晴らしい生態系の空間(ビオトープ)が学校の敷地内にあったとしても、完全に放置され、児童生徒が係わりをもっていない場合は「ビオトーブ」は存在してはいますが、「学校ビオトープ」とは言えないのではないかと考えています。ですから、ある学校の子どもたちが、学校の近くにある三面コンクリートの川にかかわりをもち川の中に砂や泥が溜まるようにさまざまな工夫をして、少しでも生き物が増える川にする取り組みを行った場合などは学校ビオトープとしての取り組みと考えられるのです。
 国土交通省や農林水産省が推進している「川の学校」「たんぼの学校」「森の学校」なども学校ビオトープとしての取り組みです。学校という限定されたエリアの中のみの事業だけに学校ビオトープを限定すれば、学校ビオトープの将来的な発展はあり得ないと思われます。敷地が狭くて、自然環境がほとんどない学校などは、屋上にビオトープをつくる取り組みも最近なされるようになってきましたが、学校近辺の自然空問を活用してそのビオトープと係わりを持つ学習ができればそれも立派な学校ビオトープとしてとらえていくべきであると考えています。今開かれた学校が求められていますが、それは子どもたちが閉鎖された学校という敷地を超えて、地域の自然や歴史や文化に触れることであり、地域の人々との係わりをもつことです。今後子どもたちは、学校という垣根を超えて、地域に学ぶことがますます重要視されてきます。キャンバスはふるさとであり、テキストは生き物というイメージでしょう。

5)学校ピオトープの導入の2つの側面
 学校ピオトープが重視されてきたきっかけには2つの側面があります。1つは純粋な生態学的な視点です。地域の川やため池が消え、豊かな自然環境が失われ今までどこにでもいた生き物の姿が消えていく中で、何とか生き物を守りたいとする人が見つけた新しい空間が学校という聖域です。そこは公共の場であり、特別な事情がない限り消滅することはありません。そこに豊かな生態系のビオトープをつくれば、永久に保全されていくという考え方です。そして数万という全国の学校にこうしたビオトープがつくられれば、生き物の移動する道コリード(回廊)がつくられることとなり、大きなネットワークが構築されていくという考え方であります。
 2つ目は学校という教育的視点からです。学校におけるビオトープをとらえてみると、今まさに推進がなされている教育改革の目標に一致とする項目が多いのです。「生きる力」「命」「自然体験」「体験学習」「環境教育(学習)」「総合的な時問」「キレル子ども」「学力低下」「開かれた学校」「地域の教育力」「生き物」などのキーワードは学校ビオトープの取り組みによって解消する可能性が高まってきたのです。特に「総合的な時問」の設定は、実質的な時間の確保が保証されていることと、校内で取り組むことの出来る活動とあって、とにかくやってみようという試行錯誤の取り組みが始まりました。
 すでに大きな成果をあげている学校もあります。もちろん、生態的な空間として生き物の保全の機能を果たしていますが、それ以上に学校改革に役立つ面が多いのです。この事例集の中にはそうした取り組みの成果を多く見る事が出来ます。
 「子どもが変わる」「学校が変わる」「地域が変わる」をキャッチフレーズとして推進してきた学校ビオトープは、まさに“21世紀の子供”づくりに大きく貢献しているのです。以上2つの側面を説明しましたが、実際の取り組みは様々で、ウエイトの置き方も様々です。学校ビオトープのスタイルに定型があるのではなく、地域が異なれば生態系も異なるように、学校ビオトープのあり方もケースバイケースなのです。よって、北海道のスタイルをそのまま全国に広めることは出来ないし、する必要もありません。独自性が強いのが学校ビオトーブといえるでしょう。
学校ビオトープ導入の2つの意義
@生態系保全の視点
   生物の多様性と生態系の保全
A「命」の教育
   教育的視点ー新しい教育改革の目標に一致する
   「生きる力」「命」「自然体験」「体験学習」「環境教育(学習)」「総合的な時間」
   「キレル子ども」「ひきこもり」「虐待」「構内暴力」「対教師暴力」「いじめ」
   「学力低下」「開かれた学校」「地域の教育力」「生き物」

6)校外で取り組む「学校ビオトープ」
 学校周辺では数多くの公共事業が毎日のように行われています。子どもたちも教師もその姿を横目にして通学、通勤をしています。しかし道路や河川の工事が学校の近くで行われていても、それを学習の場(教材)として取り上げる学校はまだ多くはありません。学校長や関係の教師に行政や地域と一緒に取り組むように話をもっていっても、組織的の面における体制や指導者不足、時間的な制約が原因で実現はなかなか難しいようです。本来学校ビオトープとは、学校の中に池や森をつくる活動に限定しないで、校舎外の自然環境の保全や復元、さらには創造に関わる活動も包含すべき性格のものです。ここで大切なことは、これらの活動に対して学校は主体的に取り組むことです。そして、諸活動がしっかりとした学校のカリキュラムに位置付けられていることが大切です。近くの河川の復元を子どもたちが大人と一緒になって取り組み、ホタルの飛び交う小川に復元した取り組みなどは素晴らしい学校ビオトープの取り組みといえます。ある小学校では、農林水産省がつくったビオトープのため池に最初から係わり、魚の引っ越しから、生き物のモリタリング調査などを行い、そこを総合的な学習の場として年間活用していケースもかなり増えてきました。こうしたこれらの学校の敷地中にビオトープはありませんが、素晴らしい学校ビオトープの取り組みと言えます。

7)子ども・学校・地域が変わる
 都会では周りに自然環境がほとんど無い状況下にあるため、学校の中にビオトープをつくろうとする取り組みが多いのですが、田舎の学校では学校周辺には豊かな生態系のビオトーブ空間が残されており、そうした場所に関わることが学校ビオトープとしては取り組み易いはずです。学校が最初ビオトープに関わる方法は、敷地内であろうと外であろうと大きな問題ではありません。大切なことは、子どもたちの教育にそのビオトープ空間が如何に役立つかということです。そのビオトープによって子どもが変わり、学校が変わり、地域が変わることが大切なのです。

2・学校ビオトープの意義

 次に学校ビオトープを推進していく場合、どのような教育的意義があるのでしょうか。今までの様々な取り組みの事例を見る中で次の4点に要約できるのではないかと考えられます。

1)生き物のオアシスづくりであり、豊かな生態系のネットワークを全国に出現させることができます。
 全国には数万という学校があります。それぞれの学校が校舎の内外にビオトープとしての生態系空間をつくり、生き物を保全していく活動を展開すれぱ、広大なネットワークが構築されます。そしてすべての学校の生き物リストを作成していくならぱ、その活動は極めて大きな成果が期待できます。サンショウウオを中心とした生態系保全にカを入れている学校もあれば、オオムラサキなどのチョウのすむ林を保全している学校もあることでしょう。メダカやタナゴの仲間を池で増やしている学校もでてくるでしょう。消えていくサギソウやトキソウなどの貴重な湿地植物を保全するめために、湿地をつくって人工増殖を続けている学校もあるでしょう。「全国学校ビオトープ・ネットワーク」の活動はこうした取り組みを視野に入れて活動を展開しています。

2)「いのち」とふれ合う学習の場が提供されます。
 今教育の現場でキレル子どもが増えています。様々な原因がありますが、その一つに幼いころの自然体験、特に生き物との触れ合いが無いことも指摘されています。子どもたちの自然離れは急速に進んでいます。今年スタートした学校5日制によって子どもたちの休みは増えましたが、残念なからこどもの休みの利用方法は家の中でも遊びや休憩そして買い物などがほとんどで川や野山での自然体験は数%しかありません。寂しい限りです。
 こうした現実を少しでも解決するために、校舎内もしくはその周辺のビオトープに関わることによって、子どもたちは野生の「いのち」と直接触れあうことが可能となります。学校の空き地を堀り、水を入れて簡単な池をつくれぱ、数ヶ月後にはトンボの姿を見ることが出来ます。子どもたちはビオトープを通じて、自然の仕組みを体験し、命の大切さを学ぶだけではなく、他者への思いやりの心を学ぶことができます。やがてビオトープに取り組む学校から、いじめや他の友達に危害を加える生徒が減少していくというデータが蓄積されれば素晴らしいことであります。
 学校ビオトープの取り組みによって、全国の子どもたちが近くの川や池、さらに里山に足を運ぶようになることが私たちの夢でもあります。学校ビオトープに取り組んだ子どもたちが、卒業後も近<の自然や生き物に関心を持ち、一住民としてその地域の環境の保全活動に取り組む人間に成長していってほしいと願います。そうでないと21世紀の環境問題に取り組む国民は生まれてきません。環境問題は国民的課題であり、今はすべて国民が学ぶ時代であり、もっと強く、その必要性が叫ばれなければなりません。

3)環境学習の場です。
 環境教育(学習)のねらいは「身近な環境に関心をもち、自ら環境保全のために行動を起こす人間を育てる事です。」極端な言い方をすれば環境問題に具体的に立ち上がる人間の育成です。国民全員がこうした人間になることが求められているのです。すでにいろいろの取り組みが行われてきましたし、環境学習の教材も指導者も随分ふえてきましたが、日本ではその推進は遅々たるものです。日本の環境保護団体の会員数もまだ数万台です。外国の数百万という会員を有する組織から比較すれぱ、まだまだの感がします。しかし、具体的な生き物を対象とした学校ビオトープの取り組みは、今までの日本の環境教育の推進に新しい方向と具体的な方策を提示しており、一挙にこの学習が推進する起爆剤になると考えられます。
 そして繰りかえし述べているように、学校というエリアを超えて、身近な地域の環境の保全に大人と一緒になって関わる子どもたちの姿が見られることが何よりも大切なことです。環境学習は生涯学習の最たるものなのです。

4)地域と一緒に歩む学校づくりに役立ちます。
 学校ビオトープづくりは、単に学校だけではなく地域住民の理解と協力、さらには行政や企業の協力も必要です。そのため、学校ビオトープは地域ぐるみのパートナーシッブ実現のきっかけとなったり、街づくりにも貢献し、コミュニティづくりに結びつくのです。今全国各地で取り組まれている学校ビオトーブづくりは、何らかの形でコミュニティと深く結びついています。今までの学校での取り組はほとんどが学校内の教師で対応が出来ました。そうでない活動であっても数名の講師を招請することで解決できました。しかし、学校ビオトープの取り組みはそうはいきません。教師の力量を超えた取り組みが不可欠です。勿論学校によっては、生物に詳しくて生態学を身につけた教師もいますが、そうした学校は希です。地域の自然に詳しい人がどうしても必要となってきます。新しく池や森をつくるためには庭師の協力も必要です。具体的な作業はすべて子どものみでは限界があります。こうして様々な立場の関係者が関わって学校ビオトープはできあがって行くのです。出来てからも大変です。維持管理やモニタリングの問題が続くからです。学校経営のトッブにいる学校長の姿勢も大きく変換が求められます。今まであまり関わったことのない行政担当者、企業関係、ボランティア関係者などをうまくマネージメントしていかなくてはならないからです。

5)学校ピオトープがコミュニティと関わっている理由
 ではどうして学校ビオトープが地域のコミュニティと係わりを持っているかについて述べてみます。
 その理由は次の4点にあると考えられます。

@学校ビオトープづくりに登場してくる動植物は、その地域で生き続けてきた生き物でありそれらは地域みんなのものであるということです。住民が今まで環境問題に関わる姿勢が弱かった理由はこの考え方が浸透していなかったからです。
 村にある池や小川について、人々は「自分たちのものである」という認識が極めて弱いのです。村のリーダーの指示によってその方向が決められ、一人や二人の意見は重要視されないシステムになっているのです。これからは学校内のビオトープは当然として、地域の自然についても自分たちのものという認識を強めていかないと関心も出てきません。そうした意味で、学校ビオトープが関わるところはみんなのものであるという共通認識の出来やすい対象物なのです。

A今まで閉鎖的であった学校は新しい教育課程の推進によって(総合的学習の推進等)、地域社会と手を結ぼうとする取り組みが活発化してきました。住民はボランティァ活動として学校の取り組みを支援し、協力することに意欲的であり、逆に学校はそうした協力なくしてこの事業の推進は難しくなってきていきます。

B学校ビオトープづくりは、学び合いの原点です。
 子どもたちにとってみれぱ、学校ビオトープづくりは新しい体験学習であり、初めての学びの場です。目にする生き物は当然としても、資材やそれを使っての作業も初めてのケースが多いと思われます。すべてがワクワクドキドキの体験学習です。完成後とて同じです。季節と共に変化していくビオトープは命と生態系の学びの場です。一方指導やお手伝いに関る大人にとっては、この取り組みは、幼い頃に川や里山で体験した懐かしい思い出であり、立派な指導者として子どもたちの前に立つことができます。「川づくりは川に聞け」「森づくりは森に聞け」と言われるように、その土地に長く住んでいる人で、昔から川や山の中でいろいろな経験のある熟練者の声をしっかりと聞く姿勢を堅持することが童要です。今までそうしたケースは多くありませんでした。地域の実態を良く知らない専門家の声を中心に進めてきたきらいがありなす。そのために、形としてはできあがっていても、地域との係わりかないために、その後のアフタケアーのフォローもないケースが多く見られます。
 これからの学校ビオトープは地域の人との学ぴ合いの場が形成されていてこそ新しい形の教育の場づくりにつながるのです。

C学校ビオトープづくりはコミュニティづくりです。
 多様な生態系の保全や創造を目指すビオトープづくりは、様々なノウハウを必要とします。一業者にすべてを任せる方法もありましょうが、私たちが求めているのは、地域の多様な人の支援と協力を得てつくりあげていく学校ビオトープです。よって学校ビオトープづくり、その取り組みそのものがコミュニティづくりなのです。
 

3.学校ビオトープづくりの準備

 学校ビオトープづくりの準備には、その規模や目的によって異なります。ほとんど準備のいらない場合もありますし、かなりの準備が必要な場合もあります。ここではいずれの場合であっても、学校ビオトープをつくると場合に必要な準備について述ぺます。
 ビオトープは次の5つのステップで完成していきます。

1)予備調査の段階
2)具体的な基本計画作成の段階
3)実施設計の段階
4)施工の段階
5)管理とモニタリングの段階

ここでは最初の1)と2)の段階の準備について整理しみました。
1)予備調査の段階
@目的を明確にする。
 最近はビオトープの必要性も手伝って、予算が先にありきの場合や、学校ビオトープの建設が先にありきというケースが増えてきました。関係者が1年や2年間かけてゆっくりと考え、論議している余裕がないのです。とにかく姿として何かビオトーブをつくるというケースです。こうした場合は、しっかりした理念がないために、担当者が代わったりすると最後は学校の荷物としてやっかいもの扱いされてしまう場合もあり、巨額の費用をつかって極めて残念な場合があります。そうならない為にはどうしても前もっての十分な検討が必要なのです。
 学校ビオトープの必要性や理念はある程度決まっていますが、その学校としてどの目的にウェイトを置くかを明確にしておく必要があります。そして、その目標達成の準備を早めにしておく必要があります。
 とくに、教職員、保護者、教育関係行政機関(教育委員会)が相互に良く理解しておく必要があります。今までの体育館や図書室などの施設をつくるシステムとは大きく異なるのです。
 あくまで目的は、自然生態系の創造であり、今まで取り組んだことのない事業なのです。専門的な人がいれば確かに推進しやすいことは間違いありませんが、その前に全教職員や子どもたち、そして保護者が良く理解していないと先々課題が残っていくことになります。

A校舎内外の自然調査の実施
 学校の敷地内外のミニ環境アセスメントの実施が必要です。今まで本格的なアセスメントを実施したような学校はほとんどないでしょう。しかし、学校に新しい生態系を創造するわけですから、行政が開発に先んじて環境アセスメントを実施するように、学校もアセスメントが必要なのです。学校内に棲息している生き物をすべて知ることは、たとえビオトープづくりを行わなかったとしても意義のあることです。リストを調べ、生態的な考察を加えると、予想外に生態的に安定したシステムがすでに存在していることが判明する可能性は高いのです。とくに農山部の学校ではそうしたことが言えるでしょう。学校にある一角をそのまま維持管理するだけで、学校ビオトープといえる所が見つかるかも知れません。農林水産省や国土交通省管轄の事業推進の場合には、必ず環境調査が実施されます。しかし学校という環境は、そうした調査は予算をかけて実施していません。何よりも大切なことは、現在の学校の生き物調査を実施することです。専門家の依頼も必要となるでしょうから、学校経営者においては予算措置も考えておかなければなりません。

 必要な調査項目は概ね次のような内容です。
a.植物については高等植物は当然ながら、水環境があればプランクトンまで調べておく必要があります。
b.動物については、昆虫(水生昆虫含む)の他魚類。両生類、は虫類、烏類、ほ乳類(ネズミなど)です。そして、できれぱ春・夏・秋一冬の4シーズンが必要でしょう。
 この場合、大切なことは校舎の中に限定しないことです。近くの川や水田や林も調査しておく必要があります。そのことは、敷地内にビオトープがつくれない場合でも、学校近くにビオトープがあり、それに学校が関わるというスタイルが生まれてくる可能性が十分にあるからです。
 一方、学校近くに川などがある場合、すでにいろいろの生き物調査がなされているケースが多いのですが、残念ながらそれらの資料は教育関係機関に知らされていくケースはほとんどありません。多額の税金を投入して実施した調査です。もっと地元関係者に知らされていく必要があります。資料は一部の関係者が知っていれば良いといった時代は終わりました。学校ビオトープの晋及のためにはこうした基礎的な資料がどんどんと公開されていく必要があります。
 皆さんの学校周辺において、こうした生き物調査がすでに行われているかとどうか調ぺてみる必要があります。河川に改修などが行われている場合、大なり小な・り、環境調査が行われていますので、何らかの資料は入手できます。

B調査もみんなで実施する
 学校や地域の生き物について調査を事前に実施することの重要性については説明しましたが、専門家に依頼すれば多額の費用がかかります。まとめた報告書まで求めるとかなりの金額が必要となります。そこで、環境調査も子どもたちと保護者と一緒に実施することです。親子の活動として大変有効です。簡単に方法を説明します。
 イ.学校敷地内外の「自然総合調査実施計画」を作ります。
 ロ.子どもや保護者の活動は生き物を採集することが主です。
 ハ.植物、動物(昆虫一魚類。両生類、は虫類、烏類、ほ乳類など)いくつかのグループに分けるために事前に希望調査を行い、グループ分けをしておきます。調査に必要な持ち物等については事前に指導をしておきます。植物については、学校の敷地内、水田、畑、川原、アカマツ林、道端、植林というように環境の異なる場所を調べるようにグループ分けをします。
 二.生き物にくわしい専門家の人を、必要に応じて講師として依頼します。
 ホ.当日は全体説明会の後に、それぞれの場所での生き物調査を実施します。
 とにかく見つけた生き物はすべて持ち帰ります。(同じ生き物は数匹にとどめ他は逃がします。殺さないで持ち帰る事が大切です。)
 へ.学校に持ち帰り、専門の先生に名前を調べてもらって写真をとった後逃がします。
 ト.それぞれの班でまとめを行い、全体会をして終了します。
 チ.後日学校の教師がすべての生き物をリスト化してまとめます。
 筆者が関わってきたいくつかの実践の結果から、こうした野外調査は1時間から2時間程度で、まとめも含めて3時間程度の作業となります。子どもたちの集中力を考えれば適当な時問といえるでしょう。費用も講師の謝礼程度あり、これらの調査で植物なら400〜500種類程度のリストが完成します。そして、魚類等の生き物についてはほとんど調べることが出来ます。大切なことは、魚類にしても昆虫にしても、環境の異なる場所にグループを配置することです。事前にこれらについては専門の方の指導を受け、現地視察をして確認しておく必要があります。
 

2)具体的な基本計画作成の段階

@環境調査からどんなビオトープにしていくか検討する。
 次に必要なことは、どんなビオトープにしていくかです。これについては学校教育の方針や各職員の希望もあるでしょう。しかし、ほとんどの学校では経験のない教職員がほとんどですから、ビオトープづくりは生き物に詳しい職員がリーダーとなるのが普通です。いない場合は、近くの生き物に詳しい人を頼むしか方法はありません。昆虫を中心としたビオトープなのか、水生動物や植物を中心としたものなのか検討が必要とります。できれぱその地域に生きている生き物を増やし、維持していくことのできるビオトーブが望ましいと思います。気候も風土も同じ環境には、同じ生き物が棲息するという生態学の基本的な考えに立てば、当然地域に生育する生き物のすみかをつくるのが望ましいのです。ただ単に学校周辺と同じ環境を再現したいのであれば、池や裸地を作り、主な魚類を移植し、近くの表土を裸地にまけぱ良いのです。他の動物は近くの場所からやってくるでしょうし、植物は自然と生えてきます。
 一番いけないことは、温かい地方の学校が、無理して寒い所を好む生き物を飼育したりする事です。学校ビオトープのねらいは、自然環境のネットワーク化であり、消えつつある地域の自然の生態系の再生であることを忘れてなりません。

Aまずは止水のビオトープから
 すでに何らかの予算措置がある場合は別として、これからビオトープをつくるという場合、いろいろの工夫が必要です。ほとんど費用を使わないでつくる場合と予算が数万円の場合と数十万円ある場合、更には数百万円ある場合といろいろのケースがあります。
 私はいろいろのケースを見てきましたが、業者に委託する場合は数百万門相当の多額の費用を覚悟しなくてはなりません。子どもたちや保護者と一緒になってつくる場合は(これがベストです。)は材料費のみで済みます。まったく費用が無い場合は、現在あるものを最大限に利用することです。現在ある庭や空き地を草を刈らずに放置し、適度の管理をすれば立派なビオトープが完成します。小さな水たまりが欲しいのならば、土を掘ってシートを敷けぱよいのです。
 水は雨水か水道水を利用すれぱよいでしょう。また池のビオトープをつ<るのであれば、ほとんどの学校にあるコンクリートの池を利用することです。現在コンクリートの池がある学校では、残念ながらコイか金魚を飼っているケースが大半です。この池の一部をコンクリートブ□ツクで仕切って土をいれたり、プランターに水生植物を植えて水中に沈めるだけで、メダカやトンボの池に変身します。費用はほとんどいりません。土も水深30p程度あれぱガマやショウブ、イグサの仲間はしっかりと根付きます。生き物は私たちが考えている以上に生命力が強く、その力に驚く場合が多いです。どこからも水が入ってこない止水の池であってもかまいません。全国の多くの学校に過去に造られたコンクリートの池が何の生き物もいない、死んだ池になっている場合が多く見られます。まずはこの池を生物の宝庫にすることです。私の実験で4年間止水の池でありながらきれいに澄んだ水の中でメダカなどの安定した池となっています。これは年間ほとんど世話を必要としないビオトーブです。晴天が続き池の水が極端に減った場合にも水道水を補給する程度の世話です。どこの学校でも実践可能ですし、費用はゼロに等しいのです。まずはここから取り組んで欲しいと願っています。

B揚水ポンブつきのビオトーブ
 数十万円の予算があれぱ、池を掘って水を供給できるシステムにすると良いでしょう。「多様な環境には多様な生物が棲息する」という生態学の基本に学び、止水あり、流れありの多様な環境を作ることです。水温の差も生じてきます。池の中には浅いと所と深い所を作るのです。
 面積の大きい池であれば、底質も変えてみたいものです。例えば泥の所もあれば、砂の多い所、砂利の蒔いてある場所も作ると良いでしょう。水源のあるポンプから池までは極力長い小川にするのが良いでしょう。しかも直線ではなく、〈ねった小川が良いのです。更にこの小川にも泥や砂などいろいろと異なった環境のものをつくります。
 子どもたちに「多様な環境に多様な生物がすむという」基本原理を指導すれぱ、どんなビオトーブにすべきかについては、泉のようにアイディアは湧いて出て来ます

C100万円台のビオトープは庭である。
 300万〜500万円のビオトーブになると当然業者の手が必要となります。規模も大きいし、池などの周りの植樹などに費用が投入されます。(この場合も年間のシーズンに野鳥の食べる実のなる木を植樹することです。)
 ここで大切なことは、ビオトープはデザインが中心ではないという事です。多額の費用を投入して、いくら見た目に美しくても、多様な生き物の生態系がつくられていない場合はビオトープとしての価値はありません。見た目にきれいなビオトーブであっても生き物が貧弱であるケースはよく見られます。それは庭としてのデザインが重視された場合です。
 最近学校ビオトープのコンクールが開催されています。審査の要素には、子どもたちの参画度合いや、完成までの取り組みや費用なども重要なファクターとなっていますが、一番大切なことは、やはり多様な生き物の空間が形成されているかということです。

D必要な学習プ□グラム
 学校ビオトープづくりには、やはり教育的なブログラムとビオトープそのものをつくるフログラムの2つが必要です。そしてその2つは相互に関係しているのです。
 教育的なプログラムでは、ねらうべき児童、生徒像を明確にすることが必要です。そしてその達成までの段階的プログラムを作ることです。このプログラムはそれぞれの教科のプログラムとスタイルは大差ありません。多くの場合は、総合的な学習の一環として実施されるケースが多いので、総合的な学習プログラムとしての位置づけと、月別のねらいや活動計画が書かれている必要があります。そして、教科ではどのように関わっていくかについてのクロスカリキュラムのスタイルにすると見やすいでしょう。
 学年によっても、教科によっても取り扱いは様々であり、時には道徳の教材として利用可能です。

4.学校ビオトープづくりの留意点

 学校ビオトープづくりの留意点について気づいた点を述べます。

1)池づくりが学校ビオトープではない。
 全国における学校ビオトープのデザインのスタイルがほぼ決まってきたように思います。池を中心に構成されている場合が多いのです。池に棲む生き物は当然異なるし、池への思いや子どもの関わり方も千差万別です。しかしビオトープが池をつくるという基本パターンになっていくのは今後検討を要すると思われます。繰り返し述べていますように、学校ビオトープは復元や、創造も含めた地域の生態系の保全です。イワナの保全もあれば、ウナギやドジョウの保全もるのです。オオムラサキの保全に取り組む学校もあって良いのです。そのためには、森林の復元が望まれます。学校の森づくりと言えましょう。エコトーンの環境も、水田のような環境も、時には畑のような植生もビオトープとして意義を持っているのです。雑草の生い茂った場所も、立派なビオトープなのです。
 私は今から約20年前にアメリカのミシガンに滞在した時、ネーチャーセンターを訪問して驚きました。日本ではこうした施設はきれいに手入れがされていて、芝生や植木に覆われていて、入り口もきれいに草が刈られています。しかし、私が訪れた所は、草ぼうぼうの中にありました。手入れがしていないのではなく、センターの周りは学習の場として、整備しておく必要があるとのことでした。四季折々の花が咲き、昆虫や野鳥がやってくる施設がネーチャーセンターであるというのです。周りに生き物のいないところはネーチャーセンターではないという考え方でした。四季をもち、高温多湿の日本と、放置しておいても遷移が遅々として進まない外国の環境では自然に対す人為行為のあり方も異なるので一概に言えませんが、自然を残そうとする姿勢が徹底していたのには驚きました。
 学校の草は残すべきか、苅るべきかという論議が続いていますが、目的に応じてその是非は言えるのです。学校は学習の場です。必要な教材がなくてはなりません。意図的に毎年手入れをする場所や、1年目、2年目、3年目というように実験的に手入れをした場所との比較ができるシステムが大切と思います。
 ビオトープは様々な環境の保全であり、何を再生するかについては最初に基本的な姿勢が必要です。すでに最初から素晴らしいビオトープが存在する学校もあります。まずは現在の学校の環境調査からスタートするのが基本であると考えます。

2)生き物に詳しいアトバイザーが必要
 メダカの飼育や、トンボの池づくりなどの簡単なビオトープであれば、事例集も多く出ていますし、誰でも取り組むことが出来ます。しかし他の生き物が入ってきた場合にはいろいろな事態が発生します。学校ビオトープは生き物の保全、復元、創造という極めて難しい取り組みです。
 安定した生態系のしくみが正しく理解できていないと、すぐに壊れてしまいます。数種類の生物の棲み家であれぱ問題も少ないのですが、その数が増えてくるとだんだんと難しくなってきます。自然発生的に長年月をかけて自然を復元していくのであれぱ、問題は少ないのですが、出来る限り完成度の速い自然を再生しょうとするとかなり無理が生じます。自然のしくみに反する行為だからです。ヤゴとメダカなどは一緒に入れるとメダカが消えてしまう事例は多くあります。しかし食物連鎖のバランスうまく取れていると、減少こそすれども消えることはありません。
 アメリカザリガニや、ブラックバスの導入に対してどのように対処してよいのか難しい問題です。生き物に詳しいアドバイザーがいないと、特別な変化か発生したときに緊急の対応が出来ず、生態系が壊れてしまいます。近くの人で生き物に詳しい人をアドバイザーとして依頼してお<ことは大切な事です。特に学校という職員の異動が激しい職場では、学校外にアドバイザーを依頼しておくのが賢明です。

3)ビオトープの基礎的な学習プログラムの必要性
 新しい指導要領に代わってから、指導内容がかなり削減されてしまいました。特に生態的な学習については、十分な学習は出来ません。しかし、学校ビオトープは生態学的な知識なくしては理解することは難しいのです。どうしても最低限の学習は必要となります。特に“生産者”、“消費者”、“分解者”の関係は重要です。そして、食物連鎖や植物の遷移の概念も極めて重要です。こうした学習は、ユニット教材として総合的な学習の中で取り入れるのが望ましいと思います。「いわゆる学校ビオトーブの基礎基本」といわれるものです。

 筆者が提唱続けている「金魚鉢の世界」のユニット教材などは生産者・消費者・分解者の理解をさせるのに極めて有効です。是非取り入れてほしい学習プログラムです。
 またビオトープをわかりやすく理解する考え方として「ニッチ(それぞれの生物の固有の生活の場)」の概念がありますが、この考え方は生態系の仕組みを理解するのに大変わかりやすい考え方です。地域の他のビオトープとのつながりを考えたコリードー(回避)という考え方も今後重要になってきます。

4)完成時がスタートである
 今までの事業と学校ビオトープが大きく異なることは、学校の中に池などのビオトープが完成したとき、ハード面の整備は完了したことになりますが、生き物が増え安定した生態系が仕上っていくのはこれからで、今がスタートなのです。生き物が増え、管理をする過程で更なる生き物を棲息させるためには、仕組みを考えたり、必要に応じて草を刈り取ったりして管理をしていかねぱなりません。そして年に数回モニタリング調査を実施することが大切です。

5)評価の必要性
 学校教育の評価が問われる時代でありますが、ビオトープの取り組みも評価が必要です。2つの側面が考えられます。一つは、生態的な評価です。生き物がどの程度いて、どのように増減しているかを明らかにする必要があります。結局モニタリングの実施が評価につながる取り組みです。定性的な調査と定量的な調査の両面が必要です。この評価はこれからのビオトープづくりに大いに役立ちます。専門的な人の協力は不可欠でありますから、講師謝礼等の予算措置は不可欠です。いくら巨額の予算をかけてビオトープをつくっても、モニタリングがなされないとすれば、その値打ちは半減してしまいます。

 次に教育的な評価です。ねらっている教育目標にどの程度近づいてきたかについて明確にする必要があります。もし出来ていないのであれば、その原因を究明し、新しい指導方法を考えていかなければなりません。

5.学校ビオトープの運営と活用

 学校ビオトープの運営と活用については、その学校学校によっていろいろですが、環境保全のために役立つことが何よりも大切です。設置の目的がより豊かな生態系の保全であることから、豊かな生き物の姿が見られることが不可欠です。トンボのビオトープであっても、ホタルのビオトープであってもその生き物が何らかの形で棲息している必要があります。運営の基本はなんといっても、生き物の棲息環境の存続です。そして試行錯誤を続ける中で、1年間の管理マニュアルができるので、それに従って管理を行えば、大きな問題は発生しません。
 次に活用面でありますが、このビオトープからどんどんと情報を発信することです。新聞なら「ビオトープ新聞」、校内放送やホームヘージなら「ビオトープニュース」でしょう。定期的な情報も魅カ的です。昆虫のふ化や花が咲いた時など!の様子を知らせたいものです。保護者の関心を高めるために是非I情報を提供してほしいものです。
 すでに述べましたモニタリングや本格的な生。き物調査が行われた場合には、校内だけでなく関係者にも情報の提供をするのが望ましいです。
 次に定期的な観察会を実施することです。校内の児童、生徒対象の観察会は当然ながら、
 保護者や地域の人を含めたものも行いたいものです。ビオトープに対する啓発に大きく寄与します。子どもたち中には、教師以上に生き物に詳しい子どもがいます。観察会では教師が中心ではなく、子どもたちが主役の観察会にしてほしいものです。また各学年の教科の学習や、道徳の学習、さらには総合学習の中での活用場面は多いので、活用については個々の教師の力量が問われるところでです。

6.終わりに

 学校ビオトープは全国に広がりを見せていますが、その成果と課題についてはこれからです。自然観察会運動が日本のすみすみまでに浸透していくのに約30年以上の歳月が必要であったように、多くの学校でビオトープの実践が行われるようになるには数十年の年月が必要でしょう。但し、いま行政も多くの国民も生き物保全に関’じ、は高くなっています。環境教育(環境学習)が少しずつ効果を呈してきているのかも知れません。いずれにしても、まだ試行錯誤の時代は続きます。地域で、学校で、「学校ビオトープ」の重要性、必要性、そしてそのノウハウについて、関係者が啓発運動を推進していかない限り、この取り組みは進展していきません。
 自然や生き物に関心をもつ人であれぱ、子どもから大人まで、だれでも取り組むことができるのが学校ビオトープです。この運動が、日本の自然を取り戻す国民的な運動に発展していくことを強く願っています。関係者のネッサトワークづくりが強く叫ばれているのは、21世紀の日本の、自然環境の再生や復元の取り組みとして、学校ビオトープに大きな期待が寄せられているからなのです。
■筆者紹介
1965年3月滋賀大学学芸学部卒業
同年4月竜王町立竜王中学校教諭
1977年4月新旭町教育委員会学校教育課長
1998年4月西浅井中学校校長
1980年11月滋賀県自然観察指導者連絡会会長
2000年4月全国学校ビオトープ・ネットワーク設立・副会長
NPO法人自然環境復元協会理事

■全国学校ビオトープ・ネットワーク研究会
事務局 〒113-0033 東京都文京区本郷6-2-10-902
NPO法人 自然環境復元協会内 全国学校ビオトープ・ネットワーク研究会
電話03-3818-0252 FAX03-3818-8530

■滋賀ビオトープ研究会
 連絡先: 今井紘一
    TEL・FAX :077-583-8339
       メール:biwa-imai※dream.jp
なお、この原稿に対する質問等は村上個人の下記あてご連絡下さい。
 村上宣雄  電話 0749-86-2347  FAX0749-86-2152
        メール nm7530@wondernet.ne.jp
 

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