【Music Holiday】   ボロボロの挑戦状〜 ダメぽラスト・アルバム『It's Hard』
      =やや大型連載企画 『The Story Of WHO's Memories』 Vol.1=    

2005/10/30

itshard.jpg (8187 バイト)    『It's Hard』 1982年09月発売  / Produced by Glyn Johns

【Siide A】  (1)Athena  (2)It's Your Turn   (3)Cook's County  (4)It's Hard  (5)Dangerous  (6)Eminence Front
【Siide B】 (1)I've Known No War  (2)One Life's Enough  (3)One At A Time  (4)Why Did I Fall For That  (5)A Man Is A Man  (6)Cry If You Want

 洋楽を聞き始めたのは結構遅くて中三の頃だった。その時代の洋楽といえば、なんと言ってもクイーン! アルバム『ザ・ゲーム』は全米No.1、前代未聞の武道館5Days公演、ミュージックライフの読者投票でも各部門ブッチギリのトップ、てな訳で、僕もクイーンにハマッたのである。それからは御多分に漏れず、MTVブーム&80年代ヒッツの洗礼・・・ 要は薄っぺらいミーハー洋楽ファンに過ぎなかった。ビートルズは大体聴いていた。ストーンズは少し聴いていた。でもフーはまだ知らなかった。

 高校生になると、60年代〜70年代の偉大なミュージシャンをもっと知りたいという欲求が大きくなっていて、雑誌とかチャートに名前の出てくるビッグ・ネームのアルバムを片っ端からレンタル屋さんで借りていた。そして当時毎号買っていた『週間FM』掲載の全米Radio&Recordsのチャートで82年10月に初登場1位で現れた『It's Hard』が僕とフーとの初めての出会いだった。

 イッツ・ハード・・・ なんか知らんが響きがカッコ良かった。「ビートルズ、ストーンズと並ぶ3大イギリスロック・バンド」という常套句、初登場1位になるようなもの凄いアメリカでの人気・・・ 「これはきっと素晴らしいアルバムに違いない」 僕はそう確信してレンタル屋へ走った。

 しかし、大いなる期待は見事に外れた。ロックというよりポップなオープニング・トラック『Athena』、2曲目以降はロックっぽく(?)なるが、さほど冴えないメロディ。B面トップの『I've Known No War』の単調さ、出来そこないバラードの『One Life's Enough』、やかましいだけの『Cry If You Want』・・・奇妙にクールなギター・リフが印象に残る『Eminence Front』以外は全くダメなアルバムだと思った。「なんだ、ビッグ・ネームかもしれんけど、つまらんバンドやなぁ」そんな感想しかなかった。そして録音したカセットは半年も経たないうちに消してしまったのだった。

 僕が本当にフーと出会うのはそれから2年後、高校卒業間近になってからだ。FMでやっていた解散ツアーのライブに衝撃を受けて、同ツアーの模様を収録したライブ盤『Who's Last』を購入、ここからはもう底なし沼モードでこのオッサン達にハマっていった。(『Who's Last』前後の状況は次回詳述予定)『Who's Last』には最新アルバムであるはずの『It's Hard』の曲は何故か全く収録されていなかったが、FMのライブ放送ではタイトルトラックの『It's Hard』をやっていて、これが2年前に聞いたショボいイメージのスタジオ盤とは全く違う素晴らしさだった。スタジオ盤ではヘナヘナと頼りなく聴こえたギターも、遠慮気味だったケニーのドラムスもまるで別の曲のような生命感に満ち溢れているように感じた。

 そして、僕は再びアルバム『It's Hard』を手に取った。2年前の全ての印象は根底から引っ繰り返された。解散を前提として作られた作品、もはやキース・ムーンの不在を補おうともしない開き直りともいえるサウンド・プロダクション、敗北を認め後悔を滲ませながら尚も戦い続ける姿勢を聴く者に叩きつけてくるピートの歌詞。『Who's Last』で出会った全盛期の名曲たちに及ぶべくもないのは明らかだけど、それでも世間でボロクソに貶されているようなダメ作品ではないと思った。

 キース・ムーンの不在を嘆き、フーが変質してしまったことに落胆するのは簡単だ。でも、82年のこの時期までボロボロになりながらバンドを続けようとしたピートの気概とやるせなさみたいなもんが、全盛期を縮小再生産した如きサウンドと一行たりとも斜め読みを許さない歌詞に残滓のように滲み出ている「佳作」なんだろうと僕は思っている。少なくともキースの不在を小手先のサウンド・プロダクション変更でかわそうとした前作『Face Dances』よりは百倍素晴らしい作品だ。

 でも、初聴時にリスナーを捉えられなかったということは、やっぱり一般的にはダメ作品なんだろうな。アルバム中最も優れた楽曲である『Eminence Front』が、ほとんどピートの宅録状態で製作されていること、ほぼ同時期に発表されたピートのソロ『All The Best Cowboys Have Chinese Eyes』が文句ナシの傑作であること、を考え合わせると、クリエイティブなユニットとしてのフーの姿はどこにも見つけることのできない作品と言わざるを得ない。ロジャーもジョンもひたすら影が薄いし・・・・・・

 そんなとてもみんなにオススメできるようなアルバムじゃないけど、人間が一番苦しい時の姿を赤裸々に表現した佳作として、僕は『It's Hard』をとても愛している。それに、ここから今のフーが始まったんだし・・・・・・

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