ここでは、瀬尾千絵が伊丹サンシティホールで定期的に行っているレクチャー付き
ミニコンサートの内容を、解説を中心に要約してご紹介いたします。




第1回目 2002年7月7日(日)


「パイプオルガンてどんな楽器」



挨拶

 こちらのサンシティホールのパイプオルガンは、ベルギー製の楽器で、鍵盤は2段で下にペダルがついています。音色の種類(「ストップ」といいます)は全部で29種類あります。

 パイプオルガンとひとくちに言いましても、様々な種類があります。大きさだけをみても、小さいものはたった一つのストップで、鍵盤も一段、タンスくらいの大きさの小さな箱形で持ち運びできるものから、大きなものになると、音色も90から100ストップ、鍵盤は4段、5段、アメリカなどには7段といった大きなものまであります。7段になるともう上の方の鍵盤には手が届きませんから、水平ではなく、垂直に近い形に取り付けられています。こうなりますと、「楽器」というより、それ自体ひとつの「建物」のようになってきます。ですから、オルガンは設置ではなく「建造」という言い方をします。また、オルガンを作る工房の方もメーカーではなく、「ビルダー」と言います。

 では、いったいどのようにして音が出るのでしょうか。
ごく簡単にいいますと、たて笛がたくさん集まって音をならしていると思ってください。

と、ここで瀬尾さん、リコーダーを取り出す。

たて笛は、口で吹いてやると音が出ますが、パイプオルガンは電気で風をおこします。
その風を溜めておく風箱(かざばこ)というのがあり、その上に笛となるパイプが、逆さまにずらっと並んでいるわけです。そして、鍵盤を押すと、テコの原理で、中の針金が動き、そのキーに対応した歌口(うたぐち)の弁が開き、風箱からの風が送られて音が出る、というしくみになっています。

たて笛ですと、穴がいくつか開いていますから、それを指で開けたり塞いだりすることによって、ドレミファソラシドといくつも音が鳴ります。でも、オルガンは1本のパイプで1つの音しかなりません。ですから、ドの鍵盤を押すとドのパイプが鳴り、別のレのを押すと、ドより少し短いレのパイプが鳴ります。つまり1つの音色に対して、鍵盤の数だけパイプがあるのです。

 ここのオルガンの鍵盤の数は、全部で56ですので、1つの音色につき56本のパイプが必要となります。ということは、この楽器は29の音色を持っていますので、29種類×56本=1696本 なんと1700本近いパイプが、この中に納まっていることになるのです。 それだけの数のパイプを納めなければ行けないので、こんなに大きな、まるで建物のような大きさになるのです。さきほど言いましたように、「建造」と表現されるのも、ここからきているのです。


◎ここで演奏 J.S.バッハ「トッカータとフーガ ニ短調」


では、ここでパイプオルガンの歴史について簡単にお話ししましょう。
パイプオルガンは、キリスト教とともに発展してきた楽器ですが、そのルーツをたどれば、ギリシャ時代、いまから3000年位前に遡ります。

 ギリシャ時代に生まれた楽器で、パンの笛(パンフルート)という楽器があります。
竹で作られており、長さの違う笛が横一列に並んだ小さな楽器で、吹き口もその数だけあって、横に動かしながら一本一本を吹いて、演奏していました。


 このような形の笛は、古くから世界各地にあったようです。日本にも雅楽で使われる笙(しょう)がありますが、これらもオルガンの前身の楽器のひとつ、といわれています。

日本ではそれ以上の発展をしなかったのですが、ヨーロッパでは、その後、口で吹くのではなく、水圧によって風を起こして手で演奏できるようにした「水オルガン」というものが、紀元前3世紀ごろに発明されました。


 その後13世紀ごろまでは、単音で、しかもゆっくりとしか弾くことができなかったので、キリスト教会とともに歌や祈りの声を支える程度のものとして使われていました。
そして「ふいご」というものが発明され、水圧ではなく風圧によって音を出せるようになりました。


 15〜16世紀にかけて、パイプオルガンはキリスト教の中でどんどん発展していき、今から200年前、17〜18世紀のバロック期において、ひとつの頂点を極めることになります。笛の数もこのころになると、たった1種類ではなく、トランペットとかクロムホルンとかコルネットとか、色々な種類の笛が作られるようになりました。そして、キリスト教の礼拝のなかで歌われる讃美歌の伴奏、礼拝の始まりに弾かれる前奏曲、最後に弾かれる後奏曲など、バッハをはじめたくさんのオルガニストが、礼拝のための曲を多く作曲しました。


ここで演奏 J.S.バッハ「めざめよと呼ぶ声きこえ」「主よ 人の望みのよろこびよ」


 その後は、ロマン派以降オルガンもどんどん大規模なものになり、フルート、トランペット、クラリネット、オーボエはもちろんヴィオラーダ、カンバなどの弦楽器のパイプまで作られるようになり、ストップの数も40、50、90、100と どんどん大きな楽器になっていきました。いわばオーケストラにとって代わることのできるようなパイプオルガンも出現しました。現在では、教会にも勿論ありますが、一方では教会から離れ、コンサートホールやここサンシティホールのように公共の場所にも設置されるようになり、キリスト教国でない日本でも、私たちもオルガン曲に接する機会が増えてきました。


◎ここで演奏 ヨハン・シュトラウス「ラデッキー行進曲」(瀬尾千絵編曲)


次回は11月3日(土)
パイプオルガンの音色の種類を中心にお話したいと思います。





第2回目 2002年11月3日(日)

「パイプオルガンてどんな音がするの」

挨拶

 前回、7月のミニコンサートでは「パイプオルガンてどんな楽器」と題して、パイプオルガンの歴史と構造についてお話をしました。今回はその続きとして、実際にどんな種類があり、どのように組み合わされて音が作られるのか、といったことを中心にお話をさせていただきたいと思います。

 今回初めてお越しの方もあると思いますので、前回お話をしたパイプオルガンの構造について簡単にもう一度おさらいをしたいと思います。(以下略 第1回目参照)

 こちらの演奏者席(コンソール)の左右に並んでいるのが『ストップ』といいまして、音色の種類になっています。これを引くことによって、その音色のパイプが鳴るというしくみになっています。戻した状態では、音は鳴りません。

 サンシティホールの楽器は、全部で29種類の音色があります。つまり、ストップが29あります。
 このスットプは鍵盤に対応して分かれていまして、上の鍵盤が13、下の鍵盤が11、ペダルが5種類のストップに対応しています。

 また、パイプには大きく分けて、2つの種類があります。
リコーダーやフルートのような『フルー管』とオーボエやクラリネットのようにリードをふるわせて鳴る
『リード管』です。

 さらに、フルー管はやわらかな音色のフルー系と、しっかりはっきりした音のするプリンシパル系の2つの仲間に分けられます。

−−−このあたりから、実際の音を鳴らしながの解説になります。
 
 まず、プリンシパル系をみますと、下の鍵盤に『プリンシパル8’(フィート)』というひとつの基本となる音があります。また、これのオクターブ上の音が鳴る『オクターブ4’』、さらに2オクターブ上の音が鳴る『スーパーオクターブ2’』というのがあります。

 そして『Mixtur(ミックスチャー)』というのがありますが、これはもっと高いところの5゜とか3゜とかが混ざってなる音がいたします。
 
これらを順番に重ねていくと、このような・・・・・音が作られます。

 Mixturまで、足された音を『プレノ』と言いますが、バロック音楽でよく使われる音色です。
 
ではここで、このプレノとリード管のトランペットを使って、1曲弾いてみましょう。
イギリス人のクラークが作りました「トランペット ボランタリー」です。トランペットと
Mixturの掛け合いをお聞きください。



 また、こんな音色もあります。上の鍵盤にあるのですが、Nasat 22/3’(  )といいまして、これは5゜上の音が鳴ります。たとえば、ドの鍵盤を押さえると5゜上のソの音が鳴ります。

 これに基本となる8’の音色を加えると、ちょっと特徴のある旋律を奏でるのに大変適した音を作ることができます。

 またもうひとつ、テルツ1 3/5’というのがあります。これは3゜上の音が鳴ります。これも同じように、ドの鍵盤を押さえると3゜上のミの音が鳴ります。

 先程の8’と2 2/3’にさらにこれを加えると、より際立った独奏(ソロ)用の音色ができあがります。ではこの音色を使ってバッハのコラール前奏曲「主よ人の望みの喜びよ」を弾いてみましょう。


 次にペダルを見てみましょう。ペダルにもトランペットとファゴットというリード管があります。これを単独で使うことによって、ペダルでもはっきりとした抜けるような音のするメロディを弾くこともできます。

 ドイツの讃美歌を使って作られた、バッハのコラール前奏曲「いざ喜べ、我がキリストのともがらよ」という曲には、ペダルにその讃美歌のメロディがでてきますので、これをトランペットの8’で弾いてみます。そして手の方は、2段使って、先程の8と’2’とクインフルートの1 1/3’、それに下の鍵盤が8’と4’の基本的な音を使ってみましょう。

 このように違うタイプの音を右手、左手、足と使うことによって、たとえば3つの違う楽器(クラリネットとフルートとトランペット)で演奏するのと同じようなことを、たった一人で演奏することができるのです。


 ではもう少しいろんなソロの音を聞いてみましょう。

 フランス バロックのダカンという人が作りました「ノエル 第10番」、これはフランスの古いクリスマスの歌をもとにした変奏曲ですが、いろんな音色を使います。上の鍵盤の『オーボエ8’』と下の鍵盤の『コルネ』(これはフランスのバロックでよく使われる管楽器の種類です)この2つの掛け合いや、トランペット、オーボエ、コルネといったリード管やソロ管全てを掛け合わせた大合奏のような部分、また1 3/5を使ったキラキラと可愛らしい音色など、いろいろな音がでてくるクリスマスを祝う楽しい曲です。では、お聞きください。


 ではフルートの音を聞いてみましょう。『フルート4’』たった1本だけで演奏する、こんなかわいい曲もあります。イタリア バロックのツィポーリが作りましたカトリックのミサのお祈りのために作られた曲です。「ポスト コムーニオ(聖体拝領後の祈り)」です。


 それでは次に、バロックオルガンと言えばこの曲といった超有名な「トッカータとフーガ」をお送りします。この曲は、Mixturにトランペット、ペダルにもファゴット16’を加えた荘厳な響きをお楽しみください。


 さて、これからはロマン派の音色をお聞きください。

上の鍵盤に『Voxhumana』というのがあります。これは「人の声」という意味なのですが、こんな音です。どうでしょうか、人の声に聞こえますでしょうか。これにトレモロ(同じ音や異なった2音を小刻みに反復しながら持続すること)を加えるとこんな魅力的な音ができます。

 また、もうひとつ『ガンバ』と『セレステ』、どちらも弦楽器のような音がします。これも合わせてトレモロをかけると、ほんうに弦楽器が鳴っているように聞こえます。

 ではこれらを使ってベルギー人のペータースが作りました「修道院の平和」を弾きたいと思います。はじめにオーボエにトレモロをかけた音もでてきます。とても美しいステキな曲です。


 では最後に、このオルガンのストップを全て使って弾いてみましょう。ベルギー人のカラーツが作りました「トッカータ」です。とても熱狂的な華やかな曲です。


                                       第2回 終わり
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もっとお知りになりたい方は、次のサイトもご参考ください

筑波バッハの森文化財団


初心者 講座
パイプオルガン