木の温もり
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木の温もりが伝わってきませんか

 郡上八幡から北に少し行ったところに木工品の店があったので入ってみた。様々な木工品が展示されていたのだが、やはり私が惹かれたのは木の机である。仕事柄広い机は必需品であり、阪急宝塚線曽根駅の近くに事務所を構えたとき(現在は退去済)に、あるメーカーのスチール製の事務机を購入して、現在もそれを使っている。頑丈だし、手入れも殆ど必要ないし、仕事に不便はない。

 しかし中野孝次氏の「趣味に生きる愉しみ」というエッセイ集のなかに「橡の一枚板の机」という章があって、そこで信州小諸の木工家の作った橡の一枚板の机が紹介されていて、何となく頭の片隅に残っていた。氏はその木工家に作ってもらったその机を昨年ご逝去になるまで愛用されていたと思われる。そしてその机の製作者にこう言ったそうである。「完全に気に入った」。

 日ごとに冷たさが増す季節になった。そして仕事を始めるべく机に手を触れると、まさに鉄に手を当てるような感触がある。もう十年以上付き合ってきて、お世話になった机ではあるが、正直言って氏と同じような気持ちになってしまう。「ああ、こんなものを自分はこれまで使ってきたのか」と。

 できればこれからの仕事は木の温もりが伝わってくる本物の机とともにやってゆきたいものだと思う。でもその木工品の店でプライスカードを見て、もうしばらくは我慢しなければと思わざるをえなかった。何せゼロの数が少し多すぎた。