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     忘れ物


 古来より、墨壷(すみつぼ) 、 差金(さしがね)、そして
釿(ちょうな)を合わせて、これらは「大工道具の三種の
神器」と呼ばれています。

 昔、建築に携わる家々では、年の初めに、そこに墨差
(すみさし)を加え、「水」という文字を型取った飾付けをし、
安全祈願や一家の隆昌を祈念する慣わしがありました。

 「水」は水平を意味しており、その飾付けは、建築工事の基本を象徴しています。


  さて、そんな三種の神器の中でも、墨壷(すみつぼ)は、少しばかり特別です。
  
  墨壷は、その名のごとく墨が入った壷で、その中で染めた糸をはじいて直線を引く道具
 であり、それは、大工にとっては絶対欠かせない、最も身近なものと言えます。
 
  それ故、現代の携帯電話にも似て、それぞれの職人が、こだわりや愛着を感じ、そこに
 精緻な彫刻を施すなど、形や意匠に「個性」が見られる唯一の大工道具です。

  その起源は、古代エジプトとも言われ、法隆寺の木材に墨線が残っている事から、日本
 における、その歴史を伺い知る事ができます。 また、現存する最古の墨壷は、正倉院に
 保管されているそうです。

  実用の道具でありながら、長い伝統に培われ、優れた意匠さえ持ち合わせた墨壷は、
 美術工芸品の一面も備えており、鑑賞や研究の対象としても、なかなか味わい深いもの
 でもあります。


  ところで、墨壷と言えば、「忘れ物の墨壷」 の話が有名です。

  奈良 東大寺の南大門の梁上で、建築当時の墨壷が発見され、棟梁が、自らの身代わり
 として、末永くこの門を守ってほしいとの願いを込めて、故意に忘れたのではないかと言わ
 れています。


  当時の職人の心意気を感じさせる話ですが、何かとせわしない現代人なら、それを
 真似ても、忘れた事さえ忘れて、翌日には道具箱の中を探していそうです。

  でも、心配は無用です。 その程度の話なら、工事の完了検査終了後、きっと
 本来の「忘れ物」として、手元に戻って来るに違いありません...。



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