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     床の間


 和室の上座と下座を決めるポイントは「床の間」だと
言われ、その手前が最上席とされています。一段高い
その空間は座敷の中で最も神聖な場所で、伝統的に
位の高い人物が座するところとされています。

 また、「床の間」には書画や骨董、掛軸などが飾られ、
そこは美術工芸品の鑑賞空間でもあります。さらには、
季節の花などを取り合わせる事により、家主にとっては
 客人へのもてなしの気持ちを表現する大切な舞台となり、家の見識や感性を問われる
 重要な場所だと言えます。


  そんな「床の間」には様々な形式があり、座敷の様式を大きく区分する、「真」、「行」、「草」の
 表現が古来より用いられています。最初の「真」の様式は、ちょうど書における「楷書」にあたり、
 そこから「行書」、「草書」へと崩していくところは、形態が変化していく基本的な流れに共通する
 イメージがあります。

  最も格式が高い「真」の座敷には、長押( なげし )が設けられ、床柱( とこばしら )には必ず角柱
 が用いられます。天井は厳格な格天井( ごうてんじょう )とし、黒漆塗の床框( とこがまち )の内に
 一般のものとは畳表も畳縁も異なる特別な床畳( とこだたみ )が敷かれます。格調が高く、権威を
 感じる「書院造り」が基本です。

  一方、「草」の座敷は対極的に、格式にとらわれず自由な発想でデザインされます。堅苦しい
 長押( なげし )は設けず、床柱( とこばしら )には野趣あふれる丸太などが用いられます。竹や
 小丸太の竿縁( さおぶち )に天井が張られ、遊び心も持ち合わせた繊細優美で柔らかい空間が
 特徴です。草庵茶室などの「数奇屋造り」に代表される形式です。

  そして、残る「行」の座敷は、それらの中間を示すものとされ、「真」ほどに厳粛でツンとすました
 緊張感はないものの、決して端正・優美な趣は失っておらず、その空間からは心なごむ爽やかな
 印象を受けます。


  さて、この様にそれぞれ特徴付けられる、「真」、「行」、「草」ですが、それらはあくまで各人の
 主観に基づくもので、そこに明瞭な基準がある訳ではありません。ものづくりの世界においては、
 考えるほどにデザインの可能性は無限であり、とりわけ、多種多様な素材や意匠、そして工法を
 巧みに構成し、絶妙のバランスでデザインするところは「建築」のおもしろみでもあります。また、
 感性を研ぎ澄ませ、自由な発想でより洗練されたものを創造することは大きな喜びでもあります。

  日本の伝統木造建築には、「木割り」と呼ばれる標準的な割付があり、「床の間」もそれに基づ
 けば、おのずと調和の取れたものが創造できますが、設計者たるもの、少しは自分のオリジナル
 を表現したくなるはずで、それはごく自然な事なのかも知れません。


  しかしながら、「真」、「行」、「草」を意識すれば、そこから「基本の大切さ」も見えて来ます。
 優れた建築デザインを目の前にすると、とても斬新であるのにどこか落ち着きを感じたり、時に
 歴史を刻んだ伝統的なものから何かしら瑞々しさを感じるのは、いずれも根幹にしっかりとした
 「基本」があるに違いなく、そこが決してぶれていないからなのかも知れません。


  和の空間に取り組むにあたっては、学んでおくべき事がたくさんありそうです。
 しっかりと研鑽を積み重ね、上品な和室に美しい「床の間」を創造したいものですが、
 とりあえずは、「間」が抜けて、単なる「床」になるのだけは避けたいものです...。



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