青海波 (せいかいは)
日本の伝統文様には、細かな文様が繰り返し用いら
れた、その名も床しい「幾何文様」がたくさんあります。
中でも、「麻の葉文様」 や 「市松文様」 などの優れた
文様は、世界でも注目され、英国の名窯ウェッジウッド
の「サムライ」と命名された食器や、あのルイ・ヴィトンの
バッグにもデザインとして採用されています。
また、その名のごとく、大小の波が左右交互に重なる
「青海波」は、和菓子の箱や染織・陶磁器など、誰もが日常生活の中で良く見かける
代表的な伝統文様です。
そこに見られる繰り返しのデザインは、私達に心地よい一定のリズムを感じさせ、その
連続性は、目にする画面の外側にも、無限に広がる空間を想像させてくれます。
また、モティーフを象徴的に単純化し、連続させたそれらのデザインの中に、洒脱で
洗練された、感性豊かな日本人の美的センスを大いに感じます。
しかし、単に同じパターンを繰り返すだけで、優れたデザインがごく簡単に創造できる
とも思えません。
身近な建築の世界をのぞいてみても、よくある普通のコンクリートブロックと窯変レンガ
を比べると、たとえ同様に積み上げた壁面であっても、明らかに表情が異なるものです。
甍 (いらか) が連なる京町屋の家並には風情を感じますが、郊外の分譲地に、全く同じ
形のプレハブ住宅が、何棟も連続して建ち並んでいる姿には、何とも無味乾燥なものを
感じてしまいます。
たくさんの要素が集まれば、全体としてはある程度のパワーを持つものの、真に優れた
デザインを構成するには、そのひとつひとつが、単独でも充分に個性的で魅力的である事
が、欠かせない大切なエッセンスなのかも知れません。
意を尽くせば、何事においてもディテールはおろそかにできず、人に感動を与える本物
を創造する際には、見え隠れや些細な部分にも手を抜かない事が不可欠で、小ざかしい
ごまかしなど通用しない事を物語っていると言えます。
ところで、前述の「青海波」ですが、その名の由来は雅楽の舞人の装束であるとか、
中国の民族文様に由来する山岳文様であるとか、ペルシャ・ササン朝様式の文様が
伝播したものであるとも言われ、諸説みだれています。
事実、同様のデザインは日本だけではなく、エジプトやペルシャをはじめ、
世界各地で見られるそうです。
まったく、「正解は」 深遠なる場所に沈み込んでいる様で、謎に包まれていますが、
それがまた神秘的で、いずれにしても、「並み」 の文様ではなさそうです...。
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