サヴォア邸
パリ郊外のポワシーという小さな街に、「サヴォア邸」
という名の、まるで宇宙船の様な姿の住宅があります。
20世紀を代表する建築家 ル・コルビュジェ の設計に
よるもので、モダニズム建築を代表し、その原点に位置する、
1931年竣工の建築物です。
ル・コルビュジェ (1887-1965) は、建築を志す若者はもちろんのこと、多くの著名な現代の
建築家にも少なからず影響を与えている巨匠であり、昨今世界各地に現存する彼の作品を、
世界遺産に登録しようという動きもあります。
「サヴォア邸」においては、彼が提唱した「近代建築の5原則」 ( ピロティ、屋上庭園、自由な
平面、水平連続窓、自由な立面 ) が具現化されています。
まず印象的なのは、「ピロティ (支柱)」によって建物が空中に浮かんでいるかの様な軽快感が
生じている事です。そして横長の「水平連続窓」からは、たっぷりと光が取り込まれ、室内空間の
透明性が高められています。
「自由な平面」や「自由な立面」もそうですが、それらは全て、鉄筋コンクリートという新しい素材
を用いて彼が考案した手法により、建築物が従来の組積造における構造の制約から開放された
結果もたらされたものです。それに「屋上庭園」は、まさに現代の屋上緑化を先取りしています。
それらが巧みに構成された「サヴォア邸」は、装飾的で重厚な、それまでの伝統的西洋建築とは
大きく異なるもので、その出現は当時としてはかなり衝撃的であったに違いありません。
この様に、コルビュジェは既成の概念を打ち破り、全く新しい建築様式を創造した偉大な建築家
ですが、その意味では、日本において草庵茶室を創設し、現代の数寄屋建築にも大きな影響を与
えている 千利休 (1522-1591) とよく似通っている様に思えます。造形の手法や様式が異なる全く
別世界に生きた二人ですが、合理性を追求した点など、根幹のものづくりの精神において、どこか
共通するものが存在するかも知れません。
仮に二人が同時代に生まれ、どこかで出会う事が出来たならば、すっかり意気投合し、互いに
大きく影響し合ったに違いありません。それがもし実現していれば、ひょっとすると、「サヴォア邸」
の内装に詫びた土塗壁が観られたり、まさかとは思いますが、「待庵」が高床式で、その下地窓が
三つほど連窓になっていたかも知れません。
コルビュジェはその著書 「建築をめざして」 の中で、「住宅は住むための機械である」 と言う
有名な言葉を述べています。
彼の建築は時代を超えて大いに注目され、そこにある思想は世界中に浸透し、デザイン手法は
ひとつの模範となっており、さらに何時も多様な議論を巻き起こすきっかけとなって来ました。
彼のその言葉通り、コルビュジェは建築を考えるにあたって、真にいい「機会」を
私たちに残してくれたと言えそうです。
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