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     「錯覚」



 2004年夏のオリンピックの開催地、アテネの象徴とも
言えるアクロポリス丘に、「パルテノン神殿」 と呼ばれる
建物が建っています。

 世界遺産にも登録されている、遥か紀元前の建物で、
「オーダー」 と呼ばれる多くの巨大柱列を、その大きな
特徴とし、そこにちょっとした仕掛けが隠されています。



  その建物の正面に立った時、両端は外に拡がって見えるので、柱列の最も外側の柱は、
 隣の柱との間隔が他の部分より狭くなっていて、さらに内側へ少し傾けてあるそうです。

  また、背景の明暗が影響し、両端の柱は比較的暗色で細く見え、中央の柱は逆に明色で
 太く見えるため、それぞれサイズを調整して造られているそうです。

  これらは、柱列全体を均一に見せるために考えられた、苦心の仕掛けです。


  日本の古建築の中にも、軒下から見上げた時、屋根の両端で垂木(たるき)が重なって
 見えてしまうので、全体ができるだけ等間隔に見える様に、その部分だけ割付幅を拡げる
 工夫がされている例もあります。


  いずれも、「錯視(さくし)」 と呼ばれる 「人間の目の錯覚」 を矯正することで、建築物を
 より美しく見せるためのテクニックです。


  同様の仕掛けは、身近な私達の住まいの中にも見られます。

  室内の天井は、単純に水平に張ると目の錯覚により、垂れ下がって見えてしまうので、
 工事の際に大工さんは必ず中央を少し吊り上げます。 その起くりは、一畳あたり3oを
 目安にしたらいいと言われています。


  この様に、古来より世界各地で、美への飽くなき探求心を持つ人達が、人間の錯覚さえ
 コントロールしてしまう、数多くの優れた技を築き上げてきました。

  そして、その技は現代にもしっかりと息づいていて、デザインの世界の歴史と奥深さを
 しっかりと感じさせてくれます。



  ところで、ならばそれほど優秀な人間が、そもそも何故錯覚などするのだろうか?
 と、少し疑問が沸いて来ます。

  でも、よくよく考えれば、時に敢えて矯正しない方が‘幸せ’と思われる 「人生の錯覚」 など、
 私達には、とりわけ必要な 「錯覚」 もあるのかも知れません…。




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