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     左官



 建築工事の見積書を見ると、ちょうど中段のあたりに
必ず出てくる項目に、「左官工事」があります。

 同様に、その前後に出てくる「屋根工事」や「塗装工事」
などは、読んで字のごとく、工事の内容がすぐに理解でき
ますが、建物の壁や床などを、鏝(こて)を使って塗り上げる
 仕事が、なぜ左官と呼ばれるのか、よくよく考えても想像が付きません。


  そんな左官の歴史は古く、縄文時代に、団子状にした土を積み上げて土塀を作ったのが
 始まりだと言われ、その後は、石灰や色土など様々な自然素材の発掘や、それらを表現に
 生かすために、実践から生まれた巧みな工法を取り入れながら、発展を続けて来ました。

  中でも、見た目に美しく、耐火性にも優れた、あの漆喰(しっくい)仕上は、江戸時代に開発
 されたものだそうです。

  よく大きな民家の蔵の外壁で見かける、張付けた瓦を、漆喰で井桁や菱形状に塗り固めた
 「なまこ壁」や、花鳥風月や、富や福の願いをこめた題材を、色彩も豊かにレリーフ状に描い
 た「鏝絵 こてえ」、また、町家の2階によく見られる、格子の陰影が印象的な「虫籠窓 むしこまど
 など、単なる機能に留まらず、素材を生かしたそれらの美しいデザインは、芸術的にも優れた
 ものだと言われています。


  また、左官の魅力は、何と言っても手仕事から生まれる「自然の味わい」と「優しさ」です。
 それ故、実際の現場で、鏝を巧みに操って、職人により壁が美しく仕上げられていく様子を
 目にすると、何とも心地よく、思わず自分でも試してみたくなるものです。


  最近は、工期短縮やコストの削減を目的に、下地の石膏ボードに、薄塗りで直接塗壁を
 仕上げる事が多くなりました。古くから行われている竹小舞に荒壁と呼ばれる粘土を塗り、
 そこから調合を変えながら壁土を塗り重ねて出来上がった壁面と比べると、その落着きや
 奥ゆかしさは、違いが一目瞭然です。しかも、いざと言う時の強靭さにも大きな違いがある
 と言われています。


  瓦を一枚一枚張り合わせ、その継ぎ目をひとつひとつ漆喰の帯で塗り固める「なまこ壁」の
 途方も無い作業工程や、伝統工法による味わい深い壁の中に隠れて、幾層にも塗り重なる
 下地壁に思いを馳せると、実際には目に見えないものの、その場に立つ者に、自然に伝わる
 魅力を醸し出す源泉が、そこに潜んでいるかの様に思えます。

  昔は当たり前であった手間ひまをかけるそんな左官仕事が、残念ながら一般的ではなくなり、
 今では「上級仕事」と呼ばれる状況ですが、一見、結果が全てに思えるものの、何事も優れた
 功績の影には、そこに至る多くの下積みが隠されており、それこそが人に感動を与える輝きの
 原動力である事に、間違いはありません。


  鏝先の技を磨くだけだけでなく、多くの壁にぶつかり、それらをひとつひとつ丁寧にこなして
 こそ、初めて一人前になれるのは、何も左官の世界に限った事ではないのかも知れません。



  さて、冒頭の話の続きですが、左官の語源は、奈良時代に宮中の塗り壁の修理を担当
 していたのが、属(さかん)と呼ばれる部門の役人であった事に由来すると言われています。

  よく左官を、「しゃかん」 と訛 (なま) って呼ぶ事がありますが、「さかん」 に比べると、
 こちらの方がいかにも職人的で、粋な感じを受けます。 もしかすると、何かとお堅い
 役人のイメージを嫌って、いつの間にかそう呼ぶ様になったのかも知れません。

  やはり、昔から「お役所仕事」は「上級仕事」とは無縁だったのかも知れません。



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