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     「階段」



 洋館の豪邸と言えば、広い玄関ホールの吹抜けの中で、
少しカーブしながらドンと構える、豪華な階段が付き物です。

 しかし、日本ではどんなに大きな旧家の屋敷でも、それは
比較にならないほど簡素で、まるで梯子(はしご) と呼んでも
いいぐらいの、狭くて急な階段ばかりです。

 全国各地にある城郭の、立派な天守閣で目にする階段も
例外ではなく、本来そこに求められているのが防衛機能だ
 とは言え、着物や袴姿の当時の人達は、昇り降りの際には、さぞかし困っていたに
 違いありません。


  日本では、明治になるまで、農家はもちろん町家でも、当時の身分制度を要因として
 2階建が制限され、上階はせいぜい物置として利用する程度に留まっていたそうです。
 それ故、階段は重要視されず、仮設的な物として扱われ発展が遅れてしまいました。

  晴れて自由に2階を設けられる時代となり、町家に登場した「箱階段」にしても、今や
 アンティークなインテリアとして、もてはやされていますが、まだまだ本来の階段としては
 お粗末です。

  そんな歴史が背景にあるせいか、安全性は別にして、現在も階段は住まいの計画に
 おいて一般的にはあまり注目されず、建築主のこだわりも比較的少ない様に感じます。

  実際の建築現場でも、段数を設定し幅や高さの寸法採りを済ませると、一週間後には
 プレカット加工された部材が届けられ、後はそれを組み立てるだけと言うのが現状です。


  しかしながら、階段はデザインに注目すれば、住まいの中で最も形に変化が見られる
 とても特異な部分で、設計者にとっては、見逃すことのできない絶好の素材です。

  そこに注ぐ光をコントロールすることで、リズム感のある陰影を生じさせたり、昇降時の
 視線の変化を考慮し、窓越しの風景を上手に取り込むなど、アイデアしだいで、様々な
 魅力あふれる空間演出が可能な場所でもあります。

  例えば、「らせん階段」などは、その回転上昇する三次元曲線がまさしく芸術的であり、
 それだけで存在感は十分で、その形を想像のみでスケッチする事など難しいものです。


  また、階段はよくよく考えてみると、上下階を斜めに、そして堅固に結合させている訳で、
 大きな筋交いであるとも言え、適切に配置すれば構造的な働きを持たせる事も可能です。

  それに、もちろん忘れてならない事ですが、日常的に各階を垂直に連絡する通路である
 階段には、安全性や快適性、そして機能性は不可欠です。

  最近は、デザイン重視で、階段の手摺などは極力簡素化され、安全性に疑問を感じるもの
 も見受けられますが、そのあたりは設計の力量やバランス感覚が大いに試されるところです。


  階段には、まだまだ多くの潜在的な魅力が隠されており、それを引き出すデザインの余地は
 たくさん残っているに違いありませんが、安全や機能をしっかり織り込んで設計をまとめる事は
 一筋縄ではいかず、なかなか手ごわい相手だと言えます。

  しかしながら、逆に言えば、そこが心をくすぐられる部分で、故に設計者は、新たなデザインを
 創造する醍醐味を、大いに感じる事ができるのかも知れません。


  ところで、「人生の旅路」は、しばしば「階段」に例えられます。

  単純な「直階段」では何とも味気なく、とは言え複雑な「らせん階段」もちょっと考えものですが、
 プレカットなどできるはずもなく、私達にとっては、これまたデザインの難しい「階段」のひとつです。


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