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     偶 然


 京都五山の上位とされる、南禅寺の塔頭 金地院(こんちいん)
に、長谷川等伯(はせがわとうはく)筆の、「猿猴捉月図」(えんこう
つきとらうのず) と言う名の襖絵があります。

 野猿が池の水面に映る月をつかみ取ろうとしている水墨画で、
煩悩(ぼんのう)の愚かさや、その姿のはかなさを表現していると
言われています。

  間近で見ると、猿のふさふさとした体毛が、墨の濃淡で巧みに描かれているのがよく分かります。


  徳川幕府の上洛の居城、二条城 二の丸御殿には、狩野探幽
(かのうたんゆう)筆の「松鷹図」(しょうようず)があります。

  眼光鋭い鷹がとまった巨大な老松が、襖を飛び出し、長押を乗
 り越え、天井にまで及んでいます。

  実物を前にすると、その迫力に圧倒され、将軍権力の強大さを
                ひしひしと感じます。

  これらは、いずれも国の重要文化財です。


  さて、勝手な推測ですが、ひょっとすると、長谷川さんは当初、登った木から落ちそうになり、
 びっくりして毛立った、間抜けな猿を描くつもりだったのかも知れません。

  一方の狩野さんは、一瞬の気の緩みで、筆を滑らせ、はみ出てしまった部分の手直しが面倒で、
 そのまま続けて描いてしまったのかも知れません。


  もの創りには、偶然のハプニングが思わぬ良い結果を生む事があります。
 また、何気ないところに、格好のアイデアや、問題解決のヒントを発見する事もあります。

  しかし、それらは単なる偶然ではなく、日々積み重ねてきた研鑽と、たゆまぬ努力が導いた
 結果であり、一朝一夕に起こるものではありません。

  傑作を生む偶然に出会うには、長い道のりが必要ですが、その時の一瞬の喜びは、何事にも
 かえがたく、それまでの苦労を一掃してくれるものかも知れません。


  ちなみに、このコラムは「猿猴捉月図」を前にして、偶然思いついたものです。

  偶然は偶然を呼ぶのかも知れません。


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