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     「大黒柱」


 築百年、二百年の歴史を刻む古民家の玄関に足を踏み
入れると、まず最初に目に飛込んで来るのが、土間の奥に
どっしりと構える「大黒柱」です。

 他の柱に比べて明らかに太く、存在感のある大黒柱は、
構造的には家の中心にあって大きな荷重を負担しており、
その姿から想像される通り、家を支える重要な役割を果た
しています。

 大黒柱に使用される木材は、主にケヤキ、ナラ、クリ、カシ
 などが多く、それら広葉樹特有の堅固で強靭な木肌からは、見た目にも、より一層
 力強いイメージを受けます。


  実際、一見すると鉄やコンクリートに比べてはるかに脆弱に思える木材ですが、現実
 には、意外と大きな強度を持ち合わせている事が知られています。

  例えば、10p角の柱が支える事のできる力(圧縮力)は、6トン程度とされており、仮に
 よく見かける8尺サイズ(24cm角)の大黒柱であれば、その耐力は34トン余りとなります。
 通常、木造2階建で延30坪程度の住宅であれば、総重量が約30トンとされているので、
 にわかには信じられない話ですが、計算上はその大黒柱1本でその建物を支える事が
 可能となります。


  ところで、「大黒柱」は「大極柱」とも表記される事から、その語源は古代朝廷の正殿で
 ある「大極殿」の柱に由来するとの説もありますが、一般には、七福神の一神としてよく
 知られ、食物・財福を司る「大黒様」に因縁すると言われています。

  また、「大黒様」はインド・中国においては、その関連から厨房の守護神として扱われて
 いるそうで、日本でお寺のご住職の奥様を「大黒」と呼ぶのはそこから来ているそうです。
 ちなみに、大黒柱から見て、土間を挟んで向かい側に位置しているひと廻り小さい太柱を
 「小黒柱」と呼びますが、それらがちょうど一対になる事から、同じ七福神の中で一組とし
 て信仰される事の多い「恵比寿様」にちなんで、「恵比寿柱」の別称もあります。


  こうしてみると、大黒柱は家の構造の中心を担う機能だけに留まらず、その家の
 信仰の対象ともなり得る存在であり、単に空間的なものだけではなく、精神的にも
 一家の象徴であると言えます。

  確かに、「大黒柱」と言う言葉は、社会や組織において、全体を支える中心人物を
 暗喩して用いられる事が多く、そこが家族であれば一家の主人を示す事となります。

  現代の住宅の中に大黒柱がすっかり見られなくなったのは、建築工法や様式の変化も
 理由にありますが、今や家族の中における主人(父親)の存在感が希薄となっている事と、
 何かリンクするものがあるのではないかと思えて来ます。


  そう考えると、これからの住まい創りにおいては、我が家のシンボルとして、さらに家族の
 拠り所として、たくましい大黒柱を設ける事は、ひょっとすると主人を中心に家族をまとめる、
 絶好の手立のひとつであるのかも知れません。

  ただし、日々の生活に密着している住宅建築においては、素材選択や空間デザインは
 計画の重要なポイントであり、何度も熟考を繰り返す事が不可欠です。それは、とにかく
 何でもよいから単に太くて大きな柱を設ければ済むほど、単純な話ではないはずです。

  これまた象徴的ですが、昔に比べて狭小な現代住宅の中にあっては、「大黒柱」も
 ただの「メタボ」では、きっとただの邪魔ものであるに違いありません...。



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