加奈〜いもうと〜
D.O.
’99/06/25 発売
「ハンデを持って生きる」と言うテーマの名作
山田一様です・・・。

・・・ってイキナリ何を言っているんでしょうか(^^;
後にD.O.の「山田一3部作」と呼ばれる作品群の第1作です。
ちなみに集大成とも言える3作目が「家族計画」になります。
この作品のレビューに入る前に少しだけ「3部作」の話をします。
特徴的なのは「3作品ともスタイルが違う」と言う事です。
あえて変えているのか、スタイルを模索していたのかは分かりませんが、
(恐らく後者ではないかと思います)
現在の「山田節」と呼ばれている「前半ギャグを交えて軽快に進めてテーマに突入」
と言うスタイルが確立されたのは「家族計画」からで、
「星空ぷらねっと」ではその片鱗を見せるに留まっています。
そしてこの「加奈」ではギャグが入る事もなく序盤からテーマと向き合います。
個人的にどのスタイルが好きかと問われれば、
躊躇する事なく「家族計画!!」と答えますが、この作品も
全編に真摯な雰囲気が漂っていてとても良いと思います。



さて、この作品のシステムですが
「全画面ノベル」を使用した「よくあるノベルもの」です(^^;
Hシーンのリプレイも付いていませんし、ボイスもありません。
とてもシンプルな内容です。
この作品に限って言えばこれで正解ではないかと思います。
先に書きましたが序盤から重いテーマと正面から向き合うシナリオなので、
じっくりと文章を読みたいと思うのです。
テキストも「冗長になる一歩手前」で踏みとどまっていますので、
読んでいてもさほど気になりません。
こちらの方がシステムよりも重要かな〜と思うのです。
ただ実際ゲームをしている気分にはならないかな?
むしろ文字通り「小説」を読んでいる感じです。
・・・・・
・・・

それではまず初期設定から見ていきます。
舞台は現代日本。主人公には病弱な妹がいる設定です。
この作品ではエピソードが時代別に3つに分かれています。
主人公がそれぞれ「幼少〜小学生」「高校生」「大学生」の頃のストーリーです。
ほとんどの時間を病院で過ごす妹「加奈」とのふれあいを
それぞれの時代の視点で見ています。
そのテーマから外れない為に登場人物も極端に絞っています。
メインになるのは「加奈」と幼馴染の女の子の2人のみ。
その他には脇役として叔母の「霧原 須摩子」とその娘「香奈」
そして看護婦の「近藤 美樹」の3人がいるだけで、アトの登場人物は
「チョイ役以上脇役未満」になっています。
あまり世界を広げすぎないと言う意味で、
この設定は成功していると思います。
ちなみにこの「脇役」の定義は「ストーリー展開に関わっているかどうか」
をポイントにしています。

次にシナリオですが、
前述した様に真っ直ぐテーマと向かい合った内容です。
その為「恋愛話」は加奈の他には幼馴染の「鹿島 夕美」との
内容があるだけで、基本は「現在の医療体制と理想的な死」
をテーマに突き進んで行きます。
元々難しいテーマなので「寄り道」しない展開は、
「エロゲー」としては間違っているかもしれませんが
私はとても好印象でした。

「ホスピス」(直る見込みの無い患者の苦痛を弱めつつ最後の時を過ごす病棟)
の記述も出てきますが、これに私は感銘を受けました。
自然な老衰の次に理想的な死かな?と思います。
実際望んでもなかなかこう言うシチュエーションにはなれないんですよ。
私は母を既に亡くしていますが、急死だったので
臨終には立ち会えませんでした。
事故や犯罪に巻き込まれたのではなく病死だったのが救いですが、
やはり最後に顔を見せたかったと言う想いがあったので
これが「理想的な死」の1つの形だと思います。

・・・かなり「ネタバレ」ですよネ、スイマセンm(_ _)m

最後にストーリー展開ですが、
病弱で入退院を繰り返す妹を持つ主人公は、最初はその妹を疎ましく感じていましたが
ある事件をきっかけに「彼女は僕が守らなきゃ!」と思う様になりました。
それからは私生活の大半を彼女のお見舞いに費やす程になり、
そのまま高校生になっていく過程を描いた作品です。
ポイントになっているのは妹を何よりも大事に想っていても、
主人公にも自分の生活がある為その柵(しがらみ)から逃れられない
所から発生するすれ違いや葛藤です。
本作品中にはあまり主人公の私生活は出てきませんが、
普段から常に苦悩しながら生きているだろう事が
シナリオににじみ出ています。
その上「生命」と言う重いテーマの為に中盤辺りから、
「おらっ!泣け!」と言わんばかりの「反則技」が次々と繰り出されます(^^;
私は(涙腺)弱い子ちゃんなので、あっさり泣かされました(笑
そして本編中はほとんどが共通パートになっている為、
2回目以降のプレイは敬遠されがちだと思いますが、
それを押してでも見る価値のある6通りのED。
大きく分けると3パターンのED(ハッピー、夕美、True)があり、
その内の夕美EDが2パターン、TrueEDが3パターンあります。
この中でも特にオススメなのが「TrueED」(正確には知的EDと呼ばれる)です。
他のEDも悪くないんですが、この破壊力の前にはもう何も言えません!(^^;
作品全体を細かく見ると「書き込み不足」も目に付きますが、
概ね気にならないレベルですので安心して泣いて下さい・・・。

やはり「山田シナリオ」はこのリアルな心理の動きが良いです♪




人の人生は重いもの

それを背負うのは並大抵の苦労ではない

それでもそれに幸福を感じる

自己満足ではない

互いに支えあえば良いだけだから