奴隷市場
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’00/12/22 発売
卓越した時代考証が魅力の名作
この作品は中世のヨーロッパを舞台にしていますが、
よくありがちな「上辺だけ」を真似たシナリオではありません。
しっかりした時代考証をした上で、当時の考え方や価値観を使って
それを現代人でも分かりやすいテーマに当てはめた傑作です。
時代によって人々の特に価値観が変わるのは当たり前なので、
こう言った「歴史モノ」はあえて現代風にアレンジをするか、
この作品の様に当時にそぐわない考え方の主人公を登場させるかが常套手段です。
(史実モノはこの例ではありませんが・・・)
私としては「リアリティ」を重要なポイントにしているので、後者の方が好みです。
つまり正に私のツボだった訳ですネ♪

そんなこの作品ですが、発売当初は「すわ、鬼畜ゲーか!?」と思って購入しました(^^;
そちら方面の作品ではありませんので御注意下さい(笑
どちらかと言えば、エロは薄いですので・・・。



さて、まず私のこの作品における見解で象徴的なものが、
「この作品には悪役は出てきても、悪人はいない」
と言うものです。
むしろ「悪役」として出てくる人物の方が当時としては
普通の考え方であって、正に主人公こそ「異端」なのです。
これこそが私がこの作品を評価している最大のポイントです。
当時は一言で言えば「存在するだけの価値を人に求める」時代でした。
今の価値基準では「差別、偏見」と見えるものが当時は普通だったのです。
それを象徴するのが、この作品のテーマ「奴隷」です。
階級制度において「最底辺」にいる存在に愛情を注ぐのは
当時としては「既知外(^^;」であって、
主人公や彼を損得抜きで助けてくれる「ファルコ」の方が「おかしい」のです。
階級制度とはそう言うものだったのですから、その前提を知っていないと
この作品の魅力は半分も伝わらないと思います。
・・・・・
・・・

それでは、まず初期設定から見ていきましょう。
舞台は17世紀のヨーロッパ。主人公は貴族階級の家に生まれた
ヴェネツィア生まれの共和国陸軍の青年将校。
そこに絡んでゆくのが、
学生時代の旧友でこの国で財を成している「ファルコ」
同じく、旧友でヴェネツィア共和国書記の「マルコ」
ヴェネツィア共和国全権大使の「バルバリゴ」
と言うのが「こちら側」の主要キャラ。
「あちら側」としては
アイマール帝国宰相の「イーブンジク」
表向き「保険屋」裏は「ヤクザの親分」(^^;の「ジッバウ」
奴隷商人の「パイトーン」などなど・・・。
そして、最も重要な愛すべき奴隷たち
無邪気で快活な「ビアンカ」
気丈で勝気な「セシリア」
ミステリアスな「ミア」
・・・え〜と、何人書いたかな?(笑
かなり端折ってもこの人数。
実際は「立ち絵」のある人物だけでもこれの倍以上です。
こう言った「歴史モノ」は言うまでも無く初期設定が命ですから、
あらかじめ時代背景と照らし合わせながら
キャラ設定を一通り見ておいた方が良いでしょう。
途中でストーリーに置いてかれない様にネ♪(^^;
マニュアルにも(実際の)ヨーロッパの歴史が載っていたりしますので、
「ダルい・・・」と言わずに読んでみて下さい。

次にシナリオを見ていきます。
主人公は「開戦間近」とまことしやかに噂される「敵国」アイマール帝国の首都
コンスタンティノヴァールに使節として降り立つ所から物語は始まります。
そこで再会した学生時代の旧友に連れられて訪れた場所は
「奴隷市場」だった・・・。
プロローグからして、「政治ドラマ」の様な趣がありますが
実際にその前提を生かしたストーリー展開になっています。
そして、それを更に盛り上げるのが異国との「文化の違い」です。
宗教の違いから派生するものがほとんどですが、
そこから生まれる価値観や思考の違いによって
物語の「厚み」を増すのが狙いです。
これが見事に的中していて、主人公の困惑や葛藤を必然的に
現実感のあるものに演出しています。

実はココで個人的に気になる部分がありまして、
私は脈絡のないシナリオが大嫌いで
特に「イキナリ超常現象シナリオ」には付いていけません。
この作品にも「ミアシナリオ」で一部そう言った所があるのですが
全く気にならず、終わってから「そう言えば・・・」となったぐらいでした。
この原因を考察してみると、ストーリー展開に害を成す程では無かった事と
ただでさえ困惑している主人公に感情移入していて些細な事には
気が回らなかったからだと気付きました。

決して意図していた訳ではないと思いますが、
「人は困惑していると何でも受け入れてしまうものだ」と
無言で教えられた気分でした。

最後にストーリー展開ですが、
根幹にあるのは「高度な政治ドラマ」です。
これは異論も多いでしょうが、私には「人間ドラマ」より上に見えました。
元々「政治ドラマ」の醍醐味は「人の葛藤」ですから、当然とも言えます。
もっと掘り下げて言うと「政治ドラマにおける人の”繋がり”」ですね。
こう言った作品はエロゲーでは他に見当たりません。
それだけにスタッフの方の熱意も並々ならぬものだったでしょう。
それが伝わってくる作品に仕上がっています。
「シナリオ」で書いた通り、この作品は主人公が「異国の首都」に着いた所から始まりますが、
初っ端から「ココは異国の地なんだ・・・」と主人公と言うよりも『あなた』
語りかける様に情景描写が展開されます。
そして気を持たせる事なく速やかに「奴隷市場」と言う異文化に遭遇する訳です。
実際、現代日本人である我々も「それ」を教科書や歴史書でしか知らない訳ですから、
立場は主人公と同じだと言えます。
この時点で既に主人公との「シンクロ」は完成している訳です。
そしてその興奮覚めやらぬ内に、敵国との政治かけひきの渦中に飲み込まれる・・・。
「奴隷である彼女らを救う」と言う人間ドラマをメインテーマに掲げながら、
それすらも「政治ドラマ」のエッセンスの1つに組み込んでしまう・・・。
そして更にそのどちらの要素もおざなりにする事の無い
「絶妙のバランス」こそがこの作品の魅力でしょう!

そして「リメイク」として後発された「奴隷市場ルネッサンス」でその全てが完結します。
私は元の作品の各EDも納得出来て好きでしたが、
(特に「セシリアTURE」が好きです♪)
このルネッサンスEDが「完結」と言う意味において
最上級のものだと思います。
特に主人公が行う「彼女らを安全に国外に連れ出す方法」や
バルバリゴが行っていた「政治かけひきのからくり」などは、
原作発売当初からちゃんと企画されていた事を示していて
随所にその伏線が散りばめられていた事がココでハッキリする仕掛けになっています。
この構造は「世界ノ全テ」でも使われていますが、
個人的には「元作品で満足出来たかどうか」のポイントにおいて
この『奴隷市場』に軍配が上がります。


現在は「奴隷市場2」が企画されていますが、
発表から随分時間が経っている事もあって
「期待半分、不安半分」と言う心境です。
スタッフの皆様、ぜひ頑張って下さい!!




都合の良い偶然など存在しない

あるものは全て必然である

それを望まれる方向に向けるのは

全て「行動」の「結果」次第だ

そんな当たり前の事を成す為に

人は人生を賭ける

それこそが「人生」と言うものである