世界ノ全テ
〜remid of you〜
たまソフト

’02/12/13 発売

少年期の葛藤を見事に描いた秀作

この作品は同年4月に発売された「世界ノ全テ」のリメイク版です。
オリジナル発売から僅か8ヶ月でリメイクが製作された背景は、
やはり「大人の事情」と、それに我慢出来なかった真の職人の熱意と
何よりもユーザーの熱い声援(苦情とも言う(^^;)があったからです。
実際私も前作のEDは納得出来なかったんですヨ(^^;

「自分達の主張を力いっぱい実行しても結局は世間には適わない」

そんな現実を描いただけで、ストーリー自体は完結出来ていない。
普段から言っている様に「物語」である以上は「起承転結」がしっかりしていなければ
いけないのは最低条件であって、きっちり完結させるのはライターの責任なんですよ。
このEDではストーリーが宙に浮いたままだと思います。
誤解の無い様に言っておきますが、私は「後をひくED」や「後味の悪いED」を
非難している訳ではなく、テーマが完結していない終わり方を指摘しているんです。
だってあの時点で主人公はヒロインをあきらめていないでしょう?
大騒ぎしただけで、無力だった自分を思い知っただけでしょう?
それはとても完結とは呼べないEDだと思います。
正直な所私は前作をプレイした時「たまソフト」を見限っていました。
何せ私は「完結しないフィクション」は「スタッフの責任逃れ」としか見ないので・・・。
・・・・・
・・・

そこで登場したのがこの「remind of you」です。
メインヒロインである「智子」との後日談を第3者の回想の形で
描いた本当の完結編として発売されました。

先に結論を言っておきましょう。
「オレはこれが見たかったんだよ!!」
完璧です。グレイトです。絶賛です。
はっきり言いまして、「こちら」が最初から発売されていれば
私の「泣きゲーランキング」上位の地位は約束されていたでしょう。
しかし現実には、これは「リメイク」であって「オリジナル」ではありません。
一度冷め切ってしまった心はもう元には戻らないんですよ・・・。
と言う事で第5位としてのランクインです。



それでは順番に見ていきましょう。
まずは初期設定からですが、
舞台は現代日本。主人公は高校2年です。
よくある学園モノの設定で、おかしな所はありません。
脇を固めるメンバーも皆普通の人達なので
等身大の青春群像劇が期待できます。
強いて言うならヒロインの「智子」だけは普通ではないんですけど(^^;

この作品は「8年ぶりの街に主人公が帰ってきた」所から始まるのですが、
そこが関西のとある街と言う設定なので、登場人物は
全員関西弁を使います。
方言と言うのは違う土地の人が喋ると違和感があるもので、
この作品でも主に女性キャラのイントネーションが気になりました。
しかし、その試みは正しく評価するべきな完成度を引き出しています。
ヤッタぜ!万歳!関西弁!

次にシナリオですが、
このバランス感覚と言うか「現実感」はどう形容すればいいんだろう?
思春期の若者の心の「揺れ」を実に実直に表現しています。
皆様は学生時代に「僕には何が出来るんだろう?」と言った
「言い知れぬ不安」を感じた事は無いでしょうか?
まだ見ぬ社会、まだ知らぬ「自分」、他人の評価・・・。
自分がいかにも「井の中の蛙」になった様な気がして。

そんな時人は「あがく」か「無関心になる」かしか対処のしようが無いのではナイかと・・・。
(仕事もせずにフラフラしてる人は無意識に「後者」を選んでる)
これは「逃げている」のでは無く「抵抗してる」のだと思います。
自分で自分を「肯定」出来るだけの「材料」も「経験」も無ければ、
そうするしかないんですから。

この作品はそんな「不安定な時代」の自分を思い出さないと、
「理解」も「共感」も出来ません。
正に「生きる事ってそんなに難しい事かな?」と思えるのは、
「今」自分が生きているからであって
「生きていけるかどうか不安」だった頃に「大丈夫だよ」と言われても
「大人は分かってくれない」としか思えなかった訳です。(←経験談

こう言うシナリオはなかなか書けるものではありません。
何故なら書いているのは「既に大人になってしまった」人なんですから。
そんな現実感がある上に、この作品はBANDを取り上げています。
私はミュージシャンなので本当に自分の学生時代が
書いてある様な気がして、とても他人事には思えませんでした。

最後にストーリー展開ですが、
8年ぶりの故郷に帰ってきた主人公は、
両親とうまくいっていない事もあってとても排他的な少年になっていました。
そんな中偶然小学生時代の旧友と再開した事から、
周囲とのコミニュケーションの足がかりが出来ていきます。
更にその旧友達がやっている「軽音楽部」のBANDに参加する事で、
「必要とされる喜び」を知り心の交流を深めていく。
と言ったストーリーです。

この作品の「核」となっているのは、思春期の心の葛藤です。
この心理描写が等身大の彼らをうまく表現しています。
主人公は「仲間」を知り、勇気付けられていく前半戦から
その効果は全開です。

そして名実共に「仲間」となった軽音楽部のメンバーは、
その1人であるメインヒロインの「智子」が
大きな問題を抱えている事に気付きます。
それは生活能力の無い学生ではどうする事も出来ない程のものです。
それでも、自分達の考えを主張する為に
彼らは力を合わせて「大いなる無茶」を決行します。
何時かは破綻すると分かっていても、智子の為に全員が1つになります。
しかし、現実の壁はやはり厚く・・・。

この力を合わせてもどうにも出来ないもどかしさが、
更に現実感を深めていきます。
もしすんなりとうまくいってしまったら、この作品は台無しになっていたでしょう。
そして離れ離れになるヒロインと主人公。
と言う所でオリジナル版はEDを迎えますが、
この「remind of you」はここからが本番です。

ヒロインをあきらめられない主人公が、
全てを失ってでも彼女との約束を守ろうとします。
ここからが「泣き」の本番で、主人公もさることながら
彼を救おうとする仲間達の気持ちが涙を誘います。
「大人になって忘れてきたもの」を見事に表現しています。

自分の幸せの為に相手の幸せを願う

そんな純粋な想いを見る事が出来る作品は
とても貴重な存在だと思います。




「想いを遂げる」

それは1人では出来ない

「相手」が必要なものだから

相手の幸せが己の幸せ

それが「想いを遂げる」と言う事

理想でしかない存在

でもそれが真理

私達はどこまで近づけるのだろう

彼らに教えてもらいにいこう

彼らはきっと知っているから・・・