足の指の間が痒くなる心意気
2003年5月2日(金)「ご懐妊」 |
「今日、仕事中に急にお腹が痛くなって…」 遅い夕食を食べながら妻がぽつりと話し出す。 「手が離せないときで、とっても苦しかったわ」 「熱とかは? 大丈夫?」 夫は右の耳では妻の話を聞いてるようなふりをしているが、左の耳は“タイガース、巨人を3タテ”のニュースにダンボ状態になっている。 「ううん。そんなんとちゃうねん」 そんな夫の気配を悟ってはいないのか、妻の声はますます消え入りそうに小さい。 「そう? じゃ、大丈夫かな」 「でも、赤ちゃん、できたかも、って思った」 夫の箸がぴたり、と止まる。 「あ、赤ちゃん?」 そんな、そんなバカな……! 結婚してまだホンのちょっとしか……あー、つまりその、なんだ、ほら、うん。だから避妊をせずにイタシタのは、たったの、たったの一度か二度なのに……。そもそも俺は子種の薄い方じゃなかったのか? 今まで一度たりともヘマをしたことはなかったのに! あ、いや、結婚してるからヘマじゃないのか、今は。でもせっかくだからもっともっと避妊っちゅうのを無しで思うさまに楽しみたかったなぁ、あ〜あ。これでまたしばらくオアズケかぁ……。 夫はこんな考えをわずか0.6秒ほど自分の頭の中を駆けめぐらせ、おもむろににっこりと満面に笑顔を浮かべてみせる。さすがにタイガースのことなどは消し飛んでしまっている。 「出来たの? いやぁ、うれしいなぁ! あっはっは」 ウソじゃない。この気持ちは決してウソじゃない。笑いながら徐々に徐々に、自分のテンションを高めていく。そうか、俺も父親になるのか。そうかそうか……。じわじわと本物の喜びが湧き上がってくる。涙がこぼれそうだ。 「ううん。ちゃうねん、トイレ行ったら治ってん」 危うく「あらぬモノ」の父親になってしまうところだった。この湧き上がりきった喜びをいったいどうしろ、と。 |