夏である。夏真っ盛りなのである。
朝にみそ汁を作って、仕事から帰ってくると、鍋の表面を白い膜が一面に覆っている。最初は「アクでも浮いているのか?」と思ったが納豆ばりに糸を引くそのさまは、まごうことなきカビであった。わずか半日で…? 夏を甘く見ていた。その現実をにわかには信じられないが、まさか食うわけにもいかない。表面だけ捨てれば何とかなるか、と未練たらたらの想いを振り切り、君子危うきに近寄らず。奮発した具だくさんのみそ汁を泣く泣く流しに捨てる。
そういったわけでやむなくコンビニ弁当三昧の生活へと傾きつつあるのだが、冷蔵庫には先週買い求めた食材がまだまだ余っている。コレをこのまま捨てるわけにも行くまい。やはり食い尽くす努力をしなければならないだろう。
と思った矢先に冷蔵庫の奥から縮みに縮んだ桃が二つ出てきた。まるで首狩族に刈り取られ縮められてしまった生首=「シュリンクヘッド」を連想させるほどの縮みよう。冷蔵庫の中の乾燥に耐えられなかったんだね…ゴメンよ。泣く泣くコレも捨てる。しかしこのままではいかん。カタストロフは確実に近づいている…
まだあるはずだ。………野菜室に大量にあったのはトマト。ひぃふぅみぃよぉ、ちゅうちゅうたこかいな…10個以上はある。安かったので大量に買い込んだモノの、コンビニ弁当にかまけてすっかり忘れ去ってしまっていたのだ。すでにヘタの部分からうっすら白くカビに覆われ始めている。コレはいかん。カビの部分を慎重に避けながら、かぶりつく。…ウマイっ!完熟を通り越してまさに爛熟。スーパーの店頭に並んだ時点のトマトが青臭くも瑞々しい乙女の味わいであるとするならば、この半ばカビたトマトは香気に満ちあふれた熟女のうまみである。もっともカビきってしまうとトマトですらなくなるのではあるが。
熟れきったトマトをちゅうちゅうとむさぼる。一つはそのままで、二つ目は塩で。三つ目はマヨで。このまま上手く行けば「トマトダイエット」の道を拓くことができるかもしれない。しれないが…しかし三つも食えば飽きてくる。そろそろ腹も膨らみつつあるが、何か根本的に違う味が欲しい。
あった…納豆だ。関西人といえども納豆くらいは食える。
どうしようもないネーミングに惹かれて買った「ガンバレ!夏闘(なつとう)甲子園」。

甲子園の青い空を思わせるバックのブルー。白い球。
そしてオカメ。
賞味期限が若干どうだとかいう話もないではないが。 |
なんでこう、まとめ買いがスキなのか。1パック×3つが5包はさすがに買いすぎではないか、と思いつつ2パックほどを混ぜる混ぜる。この時点で明らかに食う順序を間違っているのだが、敢えて無視する。だがさすがに納豆だけではちょっと食えない。しかし飯はない。今から炊くなんてコトは考えもしない。…こうなったら昨日とある友人に勧められた、アレをやってみるか…
★納豆トーストの作り方★
1.トーストを焼く…いつのモノかは解らぬが冷凍庫の奥から出てきた食パンを使用。
2.バターを塗る…つもりが切らしてしまったのでやむを得ずマヨで代用。
3.同時に納豆を練る。ネギもカラシも、もちろん醤油も入れる。
4.焼き上がったトーストに納豆をこんもりずっしり乗せてできあがり。
5.いっただっきまーす♪
…む。納豆とトーストの味が。見事に分離して。決して不味くはないのだが、はてどうしたものか。ことごとく賞味期限切れのモノを寄せ集めた報いがこの味なのか?
ともかく、トーストからボロボロネチョネチョと糸を引きつつ名残惜しそうにこぼれ落ちていく納豆。これは実に食いにくい代物ではある。
二度とパンに納豆を乗せようなどとは思うまい。膨れすぎた腹を抱えつつ、パッケージのオカメの顔を睨みながら固く誓う。
こうしていつの間にやらまたも食い過ぎ。
しかし明日からも腐敗とのマッチレースが待ち受けている。
ここしばらくは素直にトマトをかじることに専念しておこうと思っている。
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