足の指の間が痒くなる心意気

2002年6月10日(月) 小咄その1・地獄めぐり」


昔々、ある一人の悪党が死んで、地獄の閻魔様の前に引き出されました。

閻魔「お前は生前、とんでもない大悪党だった。相違ないか?」

悪党「へ、へぇ」

閻魔「しかしお前は唯一つだけ、良いことをした。
   踏み殺そうと思えば踏み殺せた虫を助けてやったな。
   しかと相違ないな?!」


悪党「へ、へぇ。」

閻魔「お前の地獄行きは、最早避けられぬ。
   しかし、たった一つとは言え、お前のその善行に免じて、
   落ちる先の地獄を選ばせてやる。よいな?」


悪党「地獄を選ぶ…?」

閻魔「そうじゃ。3つの地獄の中から、好きなところを選ぶがよい。
   おい、鬼。こいつに地獄を案内してやれぃ」



鬼に連れられて地獄めぐりをする悪党。

まず最初は針山地獄です。

見れば鬼に追い立てられた亡者どもが針の山に無理やり登らされ、

あちらこちらで串刺しになりつつも、なかなか死ねない…

悪党(う〜ん…こいつは、痛そうだな…パスパス!)


次に連れて行かれたのは灼熱地獄。

轟々と燃え盛る炎の中に次々に放り込まれる亡者ども。

絶叫とともにその体は一瞬で灰に帰りますが、またすぐに生き返ってまた焼かれる…

悪党(うひゃぁ。これはたまらん。熱くてヘンになりそうだ…次!次!)


いよいよ最後の地獄です。

悪党「うわぁ、くせぇくせぇ!鬼さん、ここは…?」

鬼「ここは糞地獄じゃぁ!」

門の外からでも鼻が曲がりそうな猛烈な悪臭。

逃げ出したくなる気分をおし殺し、鼻をおさえながら中を覗きます。すると…

悪党「あ、あれれれ?」

見れば中は一面のクソの海。

しかし亡者どもはクソの海に浮かびながら、のんきにタバコなんか吸っちゃってます。

また、向こうのほうでは亡者同士、楽しそうにおしゃべりに花を咲かせています。

悪党(な、なんだここは?…待てよ…クサイのさえ我慢すりゃぁ、
   案外に住み心地いいんじゃねぇのか??……ヨシ!)



地獄を一巡りして閻魔様の前に悪党が再び引き出されます。

閻魔「どうじゃ?決まったか?」

悪党「へぇ。閻魔様…どうかあっしを『糞地獄』へ落としておくんなさい」

閻魔「な、ナニ!糞地獄だと?お前、本当にそれでよいのか?」

悪党「へぇ!決して二言はございません」

閻魔「本当に、本ッ当にそこでよいのか?後悔しても戻れぬぞ!?」

悪党「へぇ!あっしは糞地獄が気に入っちまったんで!」

閻魔「そ、そうか…そこまで申すなら…。鬼ども!こやつを糞地獄へ!」

鬼「おおぉーーーーーぅっ!」


かくしてクソ地獄へ送られた悪党。

早速えりくびを捕まえられ、クソの海へと放り込まれます。

必死にもがいて浮かび上がり、周りを見回すと…

相変わらずアッチコッチで亡者どもが、

タバコを吸ったりのんきにおしゃべりしていたり…

悪党(よしよし…これでクサくなけりゃ最高なんだがなぁ。へっへっへっ)

ニヤニヤしながら懐を探り、自分のタバコを取り出し口にくわえます。

となりでタバコをふかす男に「ちょいと火を…」と声をかけようとしたそのとき、

岸辺に鬼が現れて笛を吹き鳴らします。


鬼「ピーーーーーーーーッ!
  はいぃ!休憩終わり!
  沈んでーぇっ!」



ドブン!……ブクブクブクブクブクブク………………プクン…

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