耳の穴がカユクなる恋愛絵巻   

先に言うときますけど、絶対に参考にはなりません・・・すべてはたわごとです、タワゴト・・・

第一夜 小学校2年
初恋と初失恋・・・女はたとえ子どもでも女である




 みなさん初恋といえば何歳くらいですかねー

 まあ早い人もいて、遅い人もいて・・・

 そんなモンやと思います。

 早いから、ええ言うことはない。遅いからええ言うこともない。

 ひとそれぞれ、それでいいのです。


 
が! 
 隣の芝生は青いですな。

 
もうムチャムチャ青いです。

 いわゆる「初体験」が遅かったもので、

 それまではもう、身の周りのやつらがみな青く見えて青く見えて

 ・・・少しニュアンスが違てきましたな




 初体験のお話はまた次回以降ちゅうことにしといて

 今回は初めての恋「はつこひ」のお話です

 私の初恋自体は比較的早うございました・・・

 


 
しか小学校2年生の年末だったと思います


 当時仲良かった男子2人女子2人の4人組で

 近所の裏山に探検に行ったんですな

 結構きつい斜面の裏山で知らず知らず私が


 
A子ちゃん手を引いてあげて上まで登ったんです

 頂上は結構見晴らしがよく、4人でぜぇぜぇ息を切らしていると、

 その荒い呼吸の下から

 A子ちゃんが誰に言うともなく


 「わたし、バレンタインにチョコあげる人、決まったで・・・」ってボソッと・・・

 バレンタインデーなんて2ヶ月以上も先です


 第一、昔の小学校2年生の男の子はバレンタインデーなんて鼻にもかけてません

 まだまだ銀玉鉄砲の戦争ごっこと

 夏ならカエルの解剖(というか分解)やトカゲの尻尾切り、ザリガニ釣り、

 冬なら駆けっこ鬼ごっこが一日の日課

 夏でも冬でも汗だらだら鼻水テカテカで外で遊びまくっていた、そういう男の子に対して、

 女の子っちゅうのはたとえションベン臭い子どもであっても

 なんてまあロマンチックでデリケートでふわふわしてて
まるで角砂糖みたいなんでしょう!
 

 その日から私はバレンタインデーを待ち焦がれる、

 男の子にあるまじき男の子になってしまいました

 お小遣いがなく、100円だって大金だった当時の小学生2年生男子にとってのバレンタインデー・・・

 それは


 タダでチョコレートが食べれる日! 

 という程度の「認識のうろこ」が、目から剥がれ落ちた

 その年のバレンタインデーは待って待って待ちぬきました

 そしてそのとき私は初めて、
 
 チョコレートよりも
甘い気持ちを、心に抱く悦びを知ったのです
 

 ・・・そんな2月の初旬

 A子ちゃんが学校に来ていません。気になります。 そら気になります!

 どうやら当時流行していた「水ぼうそう」らしいのです

 ご存知のように「水ぼうそう」というのは伝染ります

 ですから
「水ぼうそうで休んでいるこの家には、遊びに行ってはいけない!」という

 鉄のオキテが昔も今と変わらず、子どもたちの間に存在していました

 私はA子ちゃんを気にかけながらもオキテに逆らうことができず、

 彼女の水ぼうそうが癒えるのをただひたすら、人知れず待ちわびました・・・

 
 ・・・そして数日後・・・

 待ちに待ったA子ちゃんが出席してきました

 かわいそうに、顔にはまだ水ぼうそうの作ったカサブタが痛々しい・・・

 ああ、ボクがペロペロしてあげたら治るかしらん・・・

 矢も楯もたまらず彼女のそばに満面の笑みで駆け寄ります

 すると・・・


 「あんたなんかキライ!」プイっ スタスタスタスタスタ・・・・

 ・・・へ? なに? なになに? ボクなにもしてないよ・・・

 頭真っ白、顔には縦線出してボーゼン状態の私を見捨てて

 A子ちゃんはあまりにも早くどんどん向こうに行ってしまいます

 ナニがなんだか判らなかった混乱状態がほどけはじめると、

 耳の奥にガンガンと響く後悔の叫び声・・・


 
「お見舞いや! お見舞い行けへんかったからやあぁぁぁぁぁ・・・」

 A子ちゃんだって水ぼうそうのオキテを知らないわけはないのに・・・

 などといってもアトの祭りです


 そう、私はそのとき、はっきりとこう悟ったのです

 女は、たとえ子どもでも女なのです

 ・・・彼女はオキテを破ってでも自分のためにやって来て欲しかったのです

 幾多の障害を乗り越え可哀想なアタシを病魔から救い出してくれる・・・きっとあの人が・・・白馬の王子様が・・・

 布団の中で熱にうなされながらそう思っていたに違いありません



 それ以降、もう完璧に無視されました

 図らずも、齢7歳にして、私はひとつの真実の泉に触れることができたのです・・・



 かくて私はまた、バレンタインとは無縁の鼻水テカテカのガキンちょ生活に復帰することとなりました・・・が・・・・


 これ以来まったく何かに見放されたように、

 バレンタインデーと無縁な状態がよもや15年間続くことになろうとは・・・
 
 疱瘡の神の祟りだったとしか思えません・・・


    まだあげ初めし前髪の
    林檎のもとに見えしとき
    前にさしたる花櫛の
    花ある君と思ひけり
 
    やさしく白き手をのべて
    林檎をわれにあたへしは
    薄紅の秋の実に
    人こひ初めしはじめなり ・・・
   

                島崎藤村「初恋」(若菜集)より抜粋


    ・・・・合掌

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