RETURN OF wooch
act 5



たそがれ

たそがれといえば「愛はたそがれ〜」なんである。
小田和正、OFF COURSE時代の名曲。
K.ODAツアー2002ということで、チケット争奪戦において大阪方面は当然参戦するとして、7月20日の四国はさぬき市のテアトロンという野外音楽堂でのステージがかなり魅力的だった。
わたしは彼の野外ステージはまだみたことがなかったので、(西宮球場でのスタジアムツアーはいったことあるけど)まだ春先だったかなあ?チケット取りに参戦し、みごとテアトロン15列目という席をゲットした。

その前に5月7日の大阪国際会議場での(なんでフェスティバルホールじゃないんだろうねえ)ステージを見た。
音が硬くて耳に辛かった。不思議にあまり心が反応しなかった。客観的にみてステージの完成度は高かったし、自分の心がこれほど酔えないことにびっくりした。
もう、音楽に心を揺さぶられるという感受性が磨耗したのかなあ??そんな風にも思った。
交通事故から約一ヶ月。耳から頭痛がし、肩が重苦しくなっていることに気が付いた。

大阪からさぬき市のテアトロンに向かうには淡路島を縦断し、鳴門大橋で四国へ渡る。
すいてれば全行程3時間はかからなそうだ。
いつもなら、かなりやる気がでるはずが、今回に限ってなんかテンションが全然あがらなかった。
「同じステージ何回もみてどうすんの」・・昔から言われなれた言葉が頭の中をよぎる。
(チケットはK.ODAファンののMLで譲りま〜すと流せば無駄になることはないだろうし)
そんな事まで考えていた。

しかし、一度きめた段取りを覆す元気もなく、ただなんとなく四国行きの準備をすすめ、当日になった。
天気も良く、道も快調!
ただ会場入りするシャトルバスに乗り込む瞬間、集中豪雨ともいえる大雨が降ってきた。
バスのチケットを買おうとして財布をだしたら、それだけで中に入っていた札がみんなびしょ濡れになるほどの大粒の激しい雨だった。
(機材はどうなるんだろ??)そんなことを考えてバスに乗った。雨はかなり長く降り続いた。
K.ODAは雨男さんらしい。でも私は逆転晴れ女。どたんばで絶対晴れる・・・そんなことが結構多い私だった。(まあどうでもいいけど)

会場についたらほとんど雨は上がっていた。
大串半島の突端にあるテアトロンのステージは海を背景にした円形のローマの劇場のような形態で、席も石づくりの風合いだった。
茫洋と沖を横切る船、くれなずむ夕陽の光が海に溶け込むようなステージが始まった。
刻々とその色を移ろわす空と海、鮮やかな朱の空と海はとろけるように藍へと変化していく。
その空気を包むようにK.ODAの声が広がる。
わたしは訳もなく泣いていた。幾度となくみた彼のステージなのに、とめる術もなく泣いていた。いや、自分が泣いているということにすら最初は気がつかなかった。
ガチガチに固まっていた心がその時、崩れ落ちていくのがわかった。乾ききっていた私の感受性がここで破壊され、そして再生されていくのが見えた。大阪国際の時は崩れ落ちることすらできなかった。ここまで磨耗して初めて再生することができたんだ。

しかし、わたしの中の感受性はまだ死んではいなかった。音楽に心酔える感受性があるかぎり、わたしはまだイケているんだ。と思いたい。 父の死に始まり、瑣末な事の連続で心煩う日常、身体の不調、情緒の不安定・・・Badな事ばかりに捕われて、自分の中を外へ開放する術がなかったのだろう。そのことさえにも気づかずスカスカになった心でなんとか日々を繕いながら過ごしていただけだったのだ。

夕日がステージ左端の芝の斜面をやわらかく映し出したとき、そこは映画のワンシーンのような情景となった。歌を聴くことを少し忘れるくらい見惚れてしまった
K.ODAも後のMCで「さっきのあの風景はすごくきれいだった。撮りたいくらいだったよ」と語った。
これって、しんぱしー?ちょっと(いや、かなり)嬉しくなった。

このK.ODAツアー、ステージの事は後日「風の街記念館」の方で詳しく書くつもり

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