佐伯屋
SAEKIYA TALK
第5回:平成14年5月16日
日韓共催ワールドカップ直前企画・予選各グループ順位予想

グループE
その後、ロイ・キーンの欠場が決まった・・・

ゲスト:らくさん

ゲスト略歴
 福岡県出身。仏教からNBA、大分トリニータまでを気軽に語るサイト「らくのSports CAFE」の管理人。大のプロレスのファンでもあり、レスラーフィギュアの収集をするにまで至っている。最近では同サイトでワールドカップリポートを始める予定で、その動向が注目される。

ラメロウのリベロコンバートの影響
佐伯屋主人・丸木音二(以下、主人)
 やっと日本ラウンドに辿り着きました。ペースを上げていかないと、本大会に間に合いません。このグループの予想は1・カメルーン、2・アイルランド、3・ドイツ、4・サウジアラビアです。

らく
 えっ?ドイツ1次リーグで敗退予想!?そう来たか!俺の予想は、1位アイルランド、2位ドイツ、3位カメルーン、4位サウジアラビア。C組まで、似た予想だったけど、
Dから予想が違ってきて、おもしろくなってきたね。

主人
 僕のドイツ外しの理由を言っていきましょう。
 ドイツは主力の故障が痛いですね。DFではリベロのノボトニーの欠場が決まっています。スピードへの対応に不安はありましたが、高さがあり、そしてリベロに必要な攻撃の起点になれる足技やパス出しの能力を持った、ドイツDF陣にとっては貴重な選手でした。
控えのケールは潜在能力で言えば、ドイツ代表の看板を背負える選手ですが、対人プレーだけでなく、カバーリング、ラインコントロール、サイドチェンジパス、前線へのフィードなど、このデリケートなポジションをこなすには経験不足です。

らく
 ドイツはリベロを誰がやるんだろうね。他のDFベアンスやリンケ、レーマーも対人プレーが強いストッパータイプだからリベロには向いていない。どうやら、フェラー監督は中盤のラメロウをリベロにコンバートするようだ。ボール奪取力とカバーリング能力に長けているだけに、それは妥当なところだと思う。

主人
 でも、そのコンバートは、今やドイツのエースとも言うべきバラックにとっては非常に痛いと思うんですよ。バラックの、中盤の底からいつの間にか前線へ表れ、打点の高いヘッドや、どちらの足でも狙える強烈なミドルシュートでゴールを奪っていく得点能力は相手チームにとって脅威です。しかしバラックの攻撃参加は、レファークーゼンでもドイツ代表でも、守備能力の高いラメロウが後方をカバーしていたことによってできたものでした。ところが、ラメロウ以外のボランチの選手の守備能力を考えると、バラックも折角の得点能力を封印して守備を考えないといけない。

ドイツ代表予想布陣:3−5−2

          ●       ●
        クローゼ   ノイビル

    ●                   ●
 ツィーゲ             シュナイダー

          ●        ●
        バラック    フリングス

               ●
             ハマン

          ●        ●
         リンケ     レーマー

               ●
             ラメロウ

               ●
             カーン


らく
 なるほど。確かに5−1の大敗を喫したイングランド戦では、中盤の底はバラックとハマンのコンビだった。守備的MFの本分はやっぱり中盤での守備だからね。だから、後方の守備に不安があるなら、攻撃の欲求を抑えて黒子に徹さないといけない。ただバラックの攻撃参加は決定力不足のドイツ攻撃陣にとって貴重な得点パターンだからな・・・。そこのところのバランスは難しいよ。

主人
 はいはい。ハマンも中盤の指揮者としては優秀な選手ですが、守備能力ではラメロウほど安心感を与える選手ではありません。バラックの攻撃力を生かすなら、パートナーとしてラメロウが必要だと思うのです。
 トップ下も中盤では唯一攻撃に変化をつけることができたショルが故障によりメンバーにエントリーされず、ドイツ期待のテクニシャン、ダイスラーも再び故障。あと、このポジションを務められるのは、ドルトムントのリッケンしかいません。

らく
 うん、でもトップ下を無くして3ボランチはどうだろう?バラックのトップ下という手もあるが、フェラー監督が何回かテストしたところ、うまくいかなかったんだよね。多分、トップ下だと相手のマークがキツイからだと思うけど。だから、右からフリングス、ハマン、バラックとボランチを3枚並べるんだよ。それなら、バラックの守備の負担は軽減されて、攻撃に力を注げるんじゃないかな。

スーパースターがいてこそのゲルマン魂
主人
 それはいい案だと思いますよ。ただし中盤の創造性はほとんど無くなってしまいますけど。FWが強力だとそれでも点は取れるんです。しかし最近のドイツにはかつてのカール・ハインツ・ルムメニゲやクリンスマンのような柱がいない。ノイビルはストライカーというよりはチャンスメーカー色の強い選手ですし、圧倒的な高さを誇るビアーホフもモナコで出番がなく、ドイツ代表でもキャプテンの座を失ってしまっている。クローゼは今季のブンデスリーガで16点を挙げた期待の新星で、エースとして期待されているようですが、パートナーに頼れるベテランがいるのならともかく、経験不足の若手をエースとして頼らなければならないというはドイツFW陣の人材不足を物語っていますよ。

らく
 ドイツFW陣には、ヤンカーがいるじゃないか〜。193cmの長身で、センターFWとしては最高のフィジカルをもっている。ただ、決定力に難アリと言われているが、今のところ彼に頼るしかないよ。化ける可能性も無いとは言えない。

主人
 ・・・ヤンカーは使えないですよ〜。スピードの無さ、シュートの精度の低さは致命的です。しかも長身とはいっても、ヘッドの強さ、ジャンプの力があるわけではないから、後方からのロングボールのターゲットマンとしての起用もどうかと思う。使うなら、最前線で身体を張らせてポストプレイヤーにするしかないでしょう。
 そもそも今のブンデスリーガのFWと言ったとき名前が浮かぶのが、エウベル、ピサロ、アモローゾ、コラー、マルセリーニョ・バライーバ、サンドといった外国人ばかりです。この辺がドイツサッカーの凋落の原因のような気がしますね。
 それに10年ほど前はドイツ代表選手と言えば、イタリア、スペイン、イングランドのトップチームから引く手数多だった。マテウス、ブレーメ、クリンスマンがインテル・ミラノでドイツトライアングを構成し、ユベントスにはコーラーとメラー、ローマにはフェラーとヘスラー、ラツィオにはリードレとドル、フィオレンティーナにはエッフェンベルクが在籍していた。でも今では海外チームにいるドイツ代表選手と言えば、ハマンとツィーゲぐらい。やっぱりドイツ人選手全体のレベルが以前よりは下がっていることは認めざるを得ないですよ。

らく
 まあ、今回のドイツは選手が若い。フェラー監督も優勝はまず有りえないと言ってるし、メディアはドイツは2004年のユーロに向って、チームを作ってる途中だと言ってる。低迷はまだまだ続きそうだ。それでも、現メンバーには1次リーグを突破する力はあるだろう。過去1度も1リーグ敗退がないドイツ。今大会でも、ドイツの底力が見られると思う。ゲルマン魂と言ってしまえば非科学的だが、ドイツのここぞの強さは、これまで何度も見せてきた。初戦のサウジ戦に順当に勝ち点3を得れば、あとの2戦厳しいが、なんとか勝ち点は取れるのでないだろうか。

主人
 いや、選手のモチベーションがパフォーマンスを左右するというのは確実にあるから、精神論は非科学的だからと言って排除すべきとは思いませんよ。ただ最後にすがるべき伝統のゲルマン魂も、ここ数年、98W杯、ユーロ2000、そして今回のW杯地区予選も最後の最後での粘りに欠けてるんですよね。以前のドイツは点差を開けても開けても追いついてくる嫌らしさがありました。しかし、その不屈の闘志もタレントが揃っていてのものだと思うんですよね。70年代ならベッケンバウアーやゲルト・ミュラー、80年代ならカール・ハインツ・ルムメニゲやマテウス、90年代ならクリンスマンやザマーなど、ドイツには常にゲームを支配できる世界最高クラスの選手がいて、彼らが何とかしてくれるというチーム内の期待感が最後まであきらめない精神力を引き出していたと思うのですが、今回は残念ながらそういう選手がいない。GKのカーンだけが世界最高クラスですが、GKだけで、ゲームがどうにかなるものではないですし。

らく
 初戦のサウジ戦に順当に勝ち点3を得れば、あとの2戦厳しいが、なんとか勝ち点は取れるのでないだろうか。


主人
 う〜ん、故障者の続出、守備は絶対的な堅さを持つわけではなく、中盤もショルとダイスラーの不在によって創造性は無く、そしてFWの決定力不足・・・。バラックの得点力にすがって、決勝トーナメントに行けたら御の字という気はしますね。あ、初戦でサウジアラビアと当たれるのは唯一の救いですか。

死の予選グループを突破してきたアイルランド
らく
 そのドイツを押しのけて1位突破を予想したのがアイルランドだ。W杯予選では、ポルトガル、オランダと同居しながらも死のグループを突破してきた。そのポルトガル、オランダには一度も負けてないのが光る。特に、失点が欧州予選10試合で5と少ない。守りが非常に堅い。

主人
 アイルランドは今回は守備だけでなく攻撃もいいですよ。94年W杯は名GKボナーを中心とする、ひたすら固い守備だけが持ち味のチームでしたが、今回の攻撃の選手はワールドクラスとは言えないかもしれませんが、曲者揃いです。

アイルランド代表予想布陣:4−4−2

          ●       ●
         クイン    ロビー・キーン

    ●                   ●
  キルベイン           マッカティア

          ●       ●
        ホランド    キンセラ

    ●                   ●
  ハート                フィナン

          ●        ●
       ストーントン   ブリーン

              
               ●
             ギブン


らく
 そうだね。左サイドバックのイアン・ハートのキック力は要注目。前線へのフィード、サイドチェンジパス、アーリークロス、そしてFKと、あらゆる用途に使える。ロイ・キーンは攻守の要だ(編集部注:後にマッカーシー監督との対立によりW杯欠場が決定)。ハードな当たりで相手の攻撃を潰した上、攻め上がりも迫力十分。右サイドハーフのマッカティアは元がサイドバックだっただけに運動量豊富で、ダイナミックな上下動でチャンスをつくる。FWはポストプレーの名手クインに、スピードとテクニック抜群のロビー・キーンがいる。

主人
 守備の固さがウリのチームにとってロビー・キーンのような、単独で相手ディフェンスを切り崩して得点を奪ってくれるタレントがいるというのはありがたいことですよ。ダークホース躍進の法則に当てはまっていますね。

らく
 ただ、右サイドバックのスティーブン・カーの怪我が痛い。彼と左のイアン・ハートでサイドを何度も駆け上がり、攻撃の起点となっていた。その穴をどう埋めるかが、アイルランドの本大会のカギだと思う。そういう問題はあるけど、今のドイツより充実し、熟成してるチームだ。その点を考慮して1位に推した。

英雄エムボマは本大会に間に合うか
らく
 そして俺は3位に沈むと予想しているカメルーンだが主人は1位予想だよね。アフリカ選手権を制し、アルゼンチンとの親善試合では2−2の引き分け。現在アフリカ最強と言ってもいいよね。でも、エースのエムボマが怪我で、本大会出場が危ぶまれて、そこがカメルーンにとっては気に病むところだが。仮にエムボマなしになっても、1位予想は変わらない?

主人
 はい。今回のカメルーンは、最近のアフリカ勢では珍しいくらいまとまりがいい。DFソング、MFフォエ、ウォメ、FWエトーなど若い時からW杯出場しているメンバーがいて、これにMFジェレミ、ローレン、オレンベなど生きのいい若手が加わり、シドニー五輪やアフリカ・ネーションズカップ優勝で、エムボマを中心にした一つのファミリーになっています。メンバーが不変というのは、レギュラーとリザーブの力量差を広げてしまうなど、時として弱みにもなるが、それを補って余りあるチームワークはカメルーンの大きな強みですね。
 選手個人を見ても個性的な選手ばかり。 DFソングの守備範囲は大変広く、持ち前のスピードを生かしたボールへの反応も鋭い。守備的MFのフォエはフランスのビエイラのようなタイプの選手で、長いリーチでボールを奪取し、攻撃時は前線へ正確なフィードを放つ。ユベントスが狙っていると言われる左サイドのオレンベのドリブルは変幻自在。そしてFWエトーは抜群のスピードばかりに目が行きがちだが、他の技術も侮れない、総合力の高い選手ですよ。
 エムボマの故障欠場が決定的なようですが、活動量が少なくゴールエリア周辺で動かずにパスを待っているエムボマと同じくらい、エンディーフィやジョブといった控え選手にスピードと運動量で掻き回されるのも相手DFにとって厄介な気もします。

カメルーン代表予想布陣:3−5−2

          ●       ●
        エムボマ    エトー

          ●       ●
        オレンベ    ローレン

    ●                   ●
   ウォメ                ジェレミ

              ●
             フォエ

          ●        ●
         チャト      ソング

               ●
              カラ

               ●
             アリウム


らく
 そのカメルーンだが、なにやらキャンプ入りが遅れているそうな。俺は鳥栖に取材に行く予定だったが24日に変更になり、どうやら取材できなくなりそう。まあ私事はいいとして、こういうゴタゴタがセネガルやチュニジアにもあるということは、やはりアフリカ人の気質は、かなり荒いと言える。
 エムボマは、なんとか23人の選手登録には、入ったみたいだ。本大会に出られるかは別だが、チームの精神的柱としても、大きな存在だろうから、これはエムボマの加入はプラスだろう。だが、どうしてもメンタルのムラが気になる。

主人
 アフリカ勢特有のメンタル面の弱さは第1回のセネガルでも指摘されている通りですが、今大会のカメルーンはW杯出場経験者が多く、シェーファー監督もチームをよくまとめているだけに、後は政治家のチームへの介入がないことを祈るばかりですよ、ホント。

らく
 でも初戦のアイルランド戦次第では、カメルーンの2002年W杯は終わるかもしれない。カメルーンいやアフリカ勢は初戦が大事だろう。初戦でこけると集中力をはじめモチベーションががくっと下がる。これはアフリカ人特有と言ってしまったら、差別になるかもしれないが、それだけプレーに影響するほどのメンタルの弱さを克服しなければ、
とても上位に行けるとは言えない。
 カメルーンの初戦はアイルランドだ。堅守のアイルランドから点を取れるかどうか。そこが注目だが、ここは引き分けでも御の字だろう。勝てば一気に1次リーグ突破が見えるが、アイルランドもまたチームワークが良く強い。カメルーンにとって、初戦は是が非でも勝ち点をとらないとダメだろうね。

王族の介入は一概に悪いとは言えない
らく
 アジアの強豪サウジアラビアはちょっと明るい材料が少ないね。

主人
 個人を見ればアジアトップレベルの技術があり、欧州のトップリーグの下位チームでならレギュラーとして出られそうな選手はいるんですね。

サウジアラビア代表予想布陣:4−4−2

          ●       ●
        メシャル    ジャバー

              ●      
             テミヤト

    ●                   ●
   シャルフーブ           ハルビ

              ●
           A・シャハラニ

    ●                   ●
  サクリ            A・ドゥヒ・ドサリ

          ●        ●
    ズブロマウィ   A・ハリル・ドサリ

               ●
            デアイエ


らく
 その一人はGKのアル・デアイエだろう。アジア・ナンバー1GKで、近距離のシュートでも弾き出す抜群の反射神経はまさに猿(笑)。94年W杯では大当たりで、サウジアラビアのリアクションサッカーを支え、決勝トーナメント進出の立て役者となったよね。

主人
 その通りです。それから中盤のゲームメーカーのアル・テミヤトにはヨーロッパのクラブチームのスカウト陣も注目しているようですが、中盤なら私はむしろ、左サイドハーフのアル・シャルフーブの方が2000年のアジアカップでの印象は強いですね。アル・シャルフーブはスピードとボールキープ力を備えたテクニシャンです。アジアカップ決勝の日本戦で、日本は彼のサイドでのボールキープにボールが取れず、「フラット3」の弱点でもあるサイドから決定的なクロスを上げられていました。今のポジションよりもっと前でプレーした方が威力は発揮すると思いますが、アル・シャルフーブにスペースを与えて掻き回されると、嫌なものではないでしょうか。

らく
 あとはFWのアル・ジャバーだな。彼の切り返しはなかなか鋭い。

主人
 いや僕は、FWではエースのアル・ジャバーより、日本とのアジアカップ決勝では途中出場だったアル・メシャルの方が記憶に残っています。彼の特徴は長い足を生かしたボールキープと、左足の強烈なシュートです。日本の「フラット3」は、この2人の個人技に結構苦戦していました。

らく
 しかし、個人技に優れていると言っても、アジアレベルということは差し引いて考えなければならないね。


主人
 そうなんです。個人技に優れているのは良いのですが、世界にはサウジと同レベルかそれ以上の個人技を持つチームだってあるわけですし、やっぱり個人技主体のサウジサッカーにプラスアルファとしてディフェンスの整備とかコンビネーションの熟成といった上積みが無いと世界レベルでは戦えないですよ。

らく
 その原因はやっぱり継続的な強化ができていないというアジア各国が抱える問題に集約されると思う。


主人
 そうなんです。アフリカ勢と同じように中東勢もまた政治が介入してしまうからなんです。特にサウジの場合は王族が代表チームのパトロンをやっていて、代表チームのユニホームを自らデザインしてしまうぐらいの熱心さはいいのですが、多くの場合、その熱心さが裏目に出て、目先の成績によって監督解任ということが日常茶飯事です。94年W杯のブラジルの優勝監督パレイラのような大物でも、98W杯期間中しかチームを指揮できず放り出されてしまっているくらいです。とはいっても、オイルマネーから出る潤沢な資金を使わせてくれるのだから、王族の介入が一概に悪いとは言えないのですが、中東勢の慢性的な悩みと言えますね。
  
〈了〉

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