第5回:平成14年5月16日
日韓共催ワールドカップ直前企画・予選各グループ順位予想
ゲスト:らくさん
ゲスト略歴
福岡県出身。仏教からNBA、大分トリニータまでを気軽に語るサイト
「らくのSports CAFE」の管理人。大のプロレスのファンでもあり、レスラーフィギュアの収集をするにまで至っている。最近では同サイトでワールドカップリポートを始める予定で、その動向が注目される。
佐伯屋主人・丸木音二(以下、主人)
いよいよ今大会の目玉とも言うべき最激戦区、Fグループです。南米予選を圧倒的な強さで勝ち抜いた今大会優勝候補の一角アルゼンチンに、W杯優勝2回の「サッカーの母国」イングランド、アトランタ五輪優勝メンバーを揃えるアフリカの強国ナイジェリア、そして94W杯3位の実績を持つ北欧の雄スウェーデンと、何が起こるかわからないグループと言えるでしょう。しかし、僕は極めて順当な予想をしますよ。1・アルゼンチン、2・イングランド、3・ナイジェリア、4・スウェーデン。
らく
俺は1位アルゼンチン、2位スウェーデン、3位イングランド、4位ナイジェリア。
イングランドは、ベッカムとG・ネビルが怪我でW杯出場が危ぶまれている。右サイドが崩壊したと言われるイングランド。特にベッカムはイングランドの核。ベッカムがいるといないとでは、大きな違いだ。全試合フル出場が難しい今、果たしてイングランドは、この激戦を勝ちぬけられるだろうか。そういう点を踏まえて、イングランドの1次リーグ落ちを予想した。
主人
さすが、スウェーデンファンですな。
それはいいとして、確かにイングランドはここまで怪我人続出ですね。ベッカムのチャンピオンズリーグでの骨折に始まり、ダイアー、ジェラード、G・ネビルと立て続けに故障欠場が決定。ベッカムは本大会に間に合うようだけど、フル出場は難しいと考えるのが妥当。主力の怪我によって、イングランドの評価が下がるのは仕方ないが、控え選手も決してレベルが低いわけではないですよ。
ベッカムの代役として考えられるマーフィーは、高精度のスーパークロスは無いけど、ベッカムより縦へのスピードは備えているし、リバプールではボランチをこなすことがあるように守備も悪くない。
G・ネビルはサイドバックとしての評価は元々決して高くはない。どちらかと言えば守備的な選手で、攻撃力は弟のF・ネビルの方が数段上です。ただし、ベッカムとの絶妙なコンビネーションがあるから選ばれていたようなものです。だからミルズでも決して力が落ちるということは無いと思います。
イングランド予想布陣:4−4−2
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ヘスキー オーウェン
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J・コール ベッカム
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スコールズ バット
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A・コール ミルズ
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ファーディナンド キャンベル
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シーマン
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らく
じゃあ、イングランドの左サイドはどうだろう?プレミアリーグの左サイドハーフは、マンチェスター・ユナイテッドはギッグス、リバプールはリーセ、リーズはキューウェル、アーセナルはリュングベリ、ニューカッスルはロベール・・・と外国人が多い。エリクソン監督期待のダイアーは本大会メンバーにはエントリーされたけど、故障を抱えてのプレーになるし、ここ数年、イングランドの左サイドを務めてきたマッマナマンに至ってはエントリーすらされていない。イングランドの弱点は放置されたままだ。
主人
しかし、3月27日のイタリアとの親善試合でジョー・コールが台頭してきた。この試合で見事な得点と同時に、モンテーラにボールをかっさらわれるミスを犯したように調子にムラはありますが、元々、かつての名MFガスコインを彷彿とさせる足技と創造力は評価されていただけに、調子の波さえ合えばセンセーションを起こす可能性もあります。
らく
守備的MFジェラードの故障もイングランドにとっては痛いね。フランスのビエイラ、ドイツのバラック、スペインのエルゲラなどと同様、大型でフィジカルコンタクトに強く、運動量豊富で、パス展開力があり、攻撃力も備えているという、世界最先端のボランチとも言うべき一人だったのに。
主人
はい。一人で様々なプレーをこなせるジェラードの存在は貴重でした。そのジェラードの代役は危機察知能力の高いバットが有力みたいだけど、むしろ僕はバイエルンのハーグリーブスを推しますね。昨年のチャンピオンズリーグ決勝の活躍で一躍有名になり、パワーではジェラードに負けるが、ロングパスの精度は非常に高いものを持っている。前線にオーウェンという圧倒的なスピードを持つストライカーがいるだけに、ロングパッサーがいるということはイングランドにとって重要ですよ。
僕はイングランドのキーマンはベッカムよりもオーウェンだと思っていますからね。オーウェンさえフルコンディションなら、イングランドはイタリア的なカテナチオをやっても良いんです。実際、エリクソン監督はセリエAでの監督経験が長く、今のイングランドは、DFラインと中盤を間延びしないようコンパクトにし、攻撃はFWを含めた少人数によるカウンターという、ガチガチのカテナチオとは言えないが、セリエA・ローマのカペッロやACミランのアンチェロッティ監督がやってるような現代的イタリアサッカーです。
らく
オーウェンのパートナーはどうなるだろう?ヘスキーが第1候補だが、ヘスキーを左サイドハーフに回して、シュート技術の高いファウラーやオーウェンに匹敵する運動能力を持つバッセルを起用する手もあるね。
主人
ただヘスキーも見た目は186センチ89キロの巨体を見ればその高さ、強さに期待してしまうところですが、ヘスキーは実はディフェンスラインの裏を突くスピードに特徴のある選手です。だから、ベッカムのスーパークロスをフルに生かすなら、所属チーム、ユナイテッドのセンターFW、ファン・ニステルローイのようなヘッドの強い選手が欲しかったですね。しかし、それは叶わないことですので、ベッカムがクロスを上げる位置やタイミングを熟知している、ユナイテッドでの元チームメイト、アンディ・コールがいれば良かったのですが、エントリーはしていません。
まあ流石にイングランドは伝統国だけあって、バックアップは揃っていますよ。
らく
バックアップがいるのは確かだけど、ベッカムを本番直前まで休ませて、試合ではスタメン起用するという腹積もりなのだろう、エリクソン監督は。フランスのジダンとか、ブラジルのリバウドのような真の中心選手の代わりはやっぱりいないよ。やっぱりベッカムと心中しようというのが、今のエリクソンの思いじゃないかな。
主人
らくさんご推薦のスウェーデンですが、ヨーロッパ地区予選は組み合わせに恵まれたと思いますね。
らく
確かにそうだ。予選10試合で、失点3の好成績も、同グループにはマケドニア、アゼルバイジャン、モルドバと圧倒的に力が下のチームがいて、対抗と言えるのはトルコだけだった。そのトルコには2試合とも失点をしている。また、過去3試合の親善試合でも、失点0の試合はない。堅守が特徴だけど、あまり過大評価はいけない。
しかし、それでも、5月25日の日本戦では、センターバックがP.アンデションとミャルビー、右サイドバックのメルベリ、左のルチッチ、ボランチはアンデルス・スベンソンとリンデロードなどで構成される守備陣は、特に前半、よく機能していた。プレシッシングが厳しく、パスのスペースすら与えない。統率の取れた4バックが柳沢や森島の動きに合わせてラインを上下し、ロングボールに対応していた。センターバックは、共に185センチの長身だし、GKセドマンは195センチの長身だから高さには全く問題ない。後半は日本のアレックスの精度のいいクロスに中田英がつっこみ、その時、DFがグラグラしたり、アレックスのドリブルに3人つられたりと混乱は少しあったが、本番までには疲れも取れ、時差にも慣れ、チームとして最高の状態に望むだろう。やっぱりW杯は守備の強いチームが勝つ傾向にあるよ。
スウェーデン予想布陣:4−4−2
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アルバック ラーション
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リュングベリ アレクサンデション
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A・スベンション リンデロート
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エドマン メルベリ
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ミャルビー P・アンデション
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ヘドマン
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主人
なるほど。僕も日本戦を観ていて、サイドを崩してクロスを放り込んでも、センターバックの高さによって跳ね返されてしまうから、日本のように身長の低いチームがスウェーデン守備陣を崩そうと思えば、94年W杯準決勝のスウェーデン−ブラジル戦のロマーリオの決勝ゴールのようにピンポイントで合わせないとキツイと思いました。
しかし攻撃はと言うと、中盤以下の選手の守備マインドが強い分、やっぱり手薄だし、チャンスメイクの創造性に欠けますね。前線のラーションとアルバックのコンビによるカウンターと、左サイドのリュングベリの突破ぐらいですか、攻撃パターンは。
らく
ラーション、アルバックともビッグマン揃いの北欧勢にしては、それほど身長の高さはなく、2人ともキレで勝負するタイプだけにグラウンダーのパスをつないであげないといけない。高さへの対応に難のある日本相手なら、先発から身長194センチのイブラヒモビッチを起用して、DFラインからロングボールを当てていっても面白かったが、流石にイングランド、アルゼンチン相手となれば、そんな単純な戦法は通用しないから、今日の試合は、守備を固めてラーション、アルバックのスピードを生かしたカウンターの練習をしていたということだと思う。でも、若いイブラヒモビッチは高さだけでなく、足下の技術もハイレベルのものを持っているし、今大会でブレイクする可能性もあるね。
らく
アルゼンチンは選手層が厚い。スウェーデンは、ラーションやリュングベリがもし怪我をした場合、その代わりになる選手がいない。一方アルゼンチンは、ポジションごとにスタメンの選手に劣らない実力を持った控えがいる。センターFWにはクレスポとバティストゥータ、右ウイングにはオルテガにカニーヒア、左ウイングはクラウディオ・ロペスとグスタボ・ロペス、それに左サイドハーフもできるキリ・ゴンサレスがいる。ゲームメーカーはベーロンにアイマール、左サイドハーフはソリンとキリ・ゴンザレス、守備的MFはシメオネにアルメイダと。アルゼンチンは、そのネームバリュ-から言って豪華絢爛。もう1チーム代表チームができるだけの層の厚さがある。仮に故障者が出ても、その穴を容易に埋めることができるし、選手間の競争が激化して切磋琢磨できるいい環境にもなる。この選手層の厚さ、レベルの高さを見れば、優勝候補に推されるのは、最もであろう。唯一、DFの層が薄いのが気になるところだが、それを攻撃でカバーするというのが、今のアルゼンチンだ。3トップに司令塔と両サイドを置くシステムを見れば、いかに攻撃的かがわかるだろう。
アルゼンチン予想布陣:3−4−3
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クレスポ
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ベーロン
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ソリン シメオネ サネッティ
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サムエル ポチェティーノ
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アジャラ
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ブルゴス
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主人
アルゼンチンはフランス、イタリア、ポルトガルなど他の優勝候補チームに比べて怪我人が少ないことも強みです。DF陣の層の薄さに欠点があると言っても、サムエル、アジャラなど主力は無事。もしDFの頭数が足らなくなる事態に陥れば、緊急プランとしてDF一枚を外して両サイドハーフのサネッティ、ソリンをDFラインに下げて4バックに変更してもいい。むしろ、この方が3バックよりも安定する気がする。
らく
うん。悪くないメンツだと思うよ。
主人
そこで今更こう言っては何ですが、アルゼンチンに3−4−3は向いてないというか、それをやる必然性は全く無かったと思うんですよね。おそらくビエルサ監督はダービッツやクライファートらがいた頃のアヤックス(ファン・ハール監督時代)を研究したんだと思う。そして、この複雑なシステムをアルゼンチン人に植え付け、先進の組織サッカーで以て南米予選を圧倒的な強さで突破してきたことは大いに評価します。しかし選手のメンツ、プレースタイルを考えればマンチェスター・ユナイテッドのようなオーソドックスな4−4−2でも良かったのではないでしょうか。アルゼンチンの主力の大半は所属チームで4−4−2に慣れ親しんでいるから、適応力に全く問題はないはずです。たとえ今から4−4−2をやれと言われても、おそらく、様になっていると思いますよ。
らく
クラブチームでやっていることをだいたいそのままやればいいだけだもんね。
主人
僕がビエルサ監督の3−4−3で嫌なのは、あの3トップという構成のために、クレスポとバティの同時起用は不可能で、稀代のパッサー、アイマールもサイドに回され、卓越した得点感覚を持つサビオラに至っては使うポジションが無いからエントリー漏れするなど、才能の飼い殺し状態になっていることですよ。これはいかがなものか。
らく
まあ、ビエルサ監督の指導で結果は出ているから良いんじゃないかな。結果だけじゃなく見栄えもいいし。W杯は守備が堅ければ台頭できる傾向はあるが、中でもフランスやアルゼンチンは守備も堅ければ、攻撃も強いというバランスの良さを誇っているからね。結局、優勝するのはそういうチームだよ。
それにしても、アルゼンチン−イングランドは決勝トーナメント進出がかかった2戦目ということで激戦になるよ。
主人
アルセンチン−イングランドは間違いなくグループリーグ最高のカードです。両チームがサッカーの強豪であり、フォークランド紛争、マラドーナの5人抜きドリブルとゴッドハンド、そしてベッカム−シメオネの再会など因縁に事欠かないのは勿論、エリクソン監督対ベーロン、シメオネ、クレスポ、アルメイダ、C・ロペスというラツィオ時代の師弟対決も見物。エリクソンは彼らの弱点を熟知しているだけに、イングランドの選手たちにどういった策を授けるのか。
ただし、どちらか一方的な試合展開にはなってほしくないですね。というのも、ブラックリストに載っている真性フーリガンは日本当局のチェックが厳しいからいいとして、試合展開に立腹して暴徒と化する熱狂的サポーター=潜在的フーリガンは事前に取り締まりようが無い訳ですからね。サッカー場=戦場であることを再認識させられる試合になるかもしれません。
らく
あと、ナイジェリアはどうだろう?チームがまとまっていないように見受けられる。オリセーやフィ二デイが、チームから離脱。その穴を若手が埋めているが、相変わらず御家騒動が多発しているしチーム状態は良いとは言えない。
主人
それでも、親善試合は勝っていますからね。そろそろ、御家騒動は当然のように起こるものとして馴れてきたのでしょうか?
それはさておき、僕が気になるのは予想フォーメーションを見ていると、オリセー不在で中盤の底に守備的な選手が全くいないんですよね。4−4−2で中盤はフラット形にするみたいですが、カヌーはリーチを生かした圧倒的なボールキープ力を誇るポストプレイヤーだし、オコチャは言わずと知れた変幻自在のボールコントロールを誇るファンタジスタです。
ナイジェリア予想布陣:4−4−2
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アガホワ オグベチェ
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ババヤーロ イケディア
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カヌー オコチャ
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ウテゼ ヨボ
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オコロンコ ヴェスト
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ショルンム
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らく
親善試合ではカクーという選手がオリセーの代役でボランチを務めていたけど、元々センターバックの選手だ。それに、本大会メンバーにはエントリーされていない。他のメンバーを見ると、オビオラ、ジャスティスあたりが守備的な役割をできそうだけど、彼らを使わないのかな?
主人
勿論、中盤の選手全員に守備の意識が高ければ、前掛かりの攻撃的布陣も良いのですが、オコチャのように攻撃で才能を発揮する選手には守備の負担を減らした方がもっと活躍できるはずですし、相手にとっても、その方が恐いはずです。
でも戦力自体は良いものを持っています。若手はイケディア、アガホワ、オグベチェなど良い選手が出てきている。しかもカヌーやオコチャなど周囲には頼れるベテラン選手がいるから思い切ってやれるでしょう。中でも注目はアガホワです。シャフタール・ドネツクというウクライナのクラブの選手だけに、まだマイナーな選手でもありますが、前線への飛び出しは圧倒的なスピードを持っていますし、得点感覚も素晴らしい。2001年10月7日の日本との親善試合では途中出場で、「フラット3」が捕まえるのに大変苦労していました。W杯という大舞台に緊張しなければ、意外な活躍をするかもしれません。
らく
Fグループのキャスティングボードを握るのはナイジェリアかもしれないね。アルゼンチンとイングランドはやっぱりスウェーデンとこのナイジェリア相手に勝ち点をいかに取るかを計算してるはずだ。しかし、ナイジェリアが意外な抵抗力を示すと、チーム戦略が根本から狂ってしまうし、アフリカ勢は計算できないところがある。まあ何にしても、俺はアフリカ勢のメンタル面は信用できないが。