第2回:平成14年5月8日
日韓共催ワールドカップ直前企画・予選各グループ順位予想
グループB
ゲスト:らくさん

ゲスト略歴
福岡県出身。仏教からNBA、大分トリニータまでを気軽に語るサイト
「らくのSports CAFE」の管理人。大のプロレスのファンでもあり、レスラーフィギュアの収集をするにまで至っている。最近では同サイトでワールドカップリポートを始める予定で、その動向が注目される。
らく
次は、B組だね。さてさて、順位予想。1位パラグアイ、2位スペイン、3位スロベニア、4位南アフリカ。
佐伯屋主人・丸木音二(以下、主人)
お、スペインを1位から外しましたか。僕もワールドカップのスペインには不信感を抱いているのですが、熟慮の上、結局、1・スペイン、2・パラグアイ、3・スロベニア、4・南アフリカになりました。とりあえず、スペインではなくパラグアイ1位の理由を聞きましょうか?
らく
パラグアイをなぜ1位で、スペインは2位なのか。それは、チーム事情の良さで判断したから。確かにスペインはタレントも豊富で優勝候補にも挙げられる。しかしレギュラー選手の固定ができていない。ラウルとイエロだけが、固定されて、あとの選手は、使ったり使わなかったりだ。
スペイン予想布陣:4−4−2
● ● ラウール モリエンテス
● バレロン
● ● ルイス・エンリケ ホアキン
● バラハ
● ● ファンフラン プジョール
● ● ナダル イエロ
● カニサレス
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主人
スペインのカマーチョ監督もメンバーはある程度は固定したいはずなんだけど、それができない理由が3つあるんですよね。
一つ目は怪我人がいること。元々レギュラーに予定していたマヌエル・パブロ、セルジ、そしてグァルディオラが皆、故障による長期欠場を強いられています。
らく
特に今季のグァルディオラは厄年だったよね。
シーズン開幕後も移籍先がなかなか決まらず「無職」状態。結局イタリア・セリエAのブレッシアに移籍したがドーピング疑惑に巻き込まれ4カ月の出場停止。それからやっと復帰してサッカーができると思った矢先に右膝の故障による長期欠場。2002年日韓共催ワールドカップ欠場が決定的なのは勿論だが、現在31歳という年齢だけに、これが最後のワールドカップとも考えられている。今までグァルディオラ抜きで戦ってきたが、やはり選手、国民の間で期待するところは、計り知れないだろう。日本で言えば中田英が出ないのと同じくらいのことじゃないかな。
主人
らくさん、グァルディオラのところにお経を読み上げに行きますか?
それはさておき、カマーチョ監督がメンバーを固定できない理由その2は、レギュラーに予定していた選手が所属チームで軒並みポジションを失っていることですね。ユーロ2000で名を挙げた左ウイング、ムニティスはレアルでフィーゴ、ジダン、サビオ、ソラーリ、マッマナマンといった強力な外国人選手たちとのレギュラー争いを強いられ、ラツィオのメンディエタはセリエAのリズムに馴染めずベンチを温めてしまっています。これが試合勘やフィジカルコンディションの調整を狂わせていますね。
らく
メンディエタは、コンパクトな守備に速攻が武器のバレンシアという、華やかなサッカーが好まれるリーガ・エスパニョーラの中でもセリエA的なチームに所属していたし、メンディエタ自身も運動量豊富でパスが正確、そしてミスも少ないと、セリエA向きの選手と思われていたけど、リーガとセリエAではサッカーのリズムとか考え方の部分で大きな隔たりがあるんだろうね。
主人
三つ目は、カマーチョ監督が選手の見極めを誤ったこと。スペイン代表はこれまで通りの4−2−3−1を否定するみたい。というのも、最近のポルトガル戦で両サイドに攻撃的なウインガーを置くスタイルが強豪相手には通用しないことをカマーチョ監督は悟ったようで、ラコルーニャのテクニシャン、バレロンをトップ下に置くダイヤモンド型の中盤に変更するらしいのです。これによりカマーチョ監督は中盤の人選を1からやり直すみたい。特に守備的MFは、トップ下のバレロンが攻撃的だから、シャビやエルゲラといった攻撃センスに優れたパッサータイプは否定され、バレンシアのバラハやラ・コルーニャのセルヒオといった、運動量豊富で守備力の高い選手が選ばれるだろうね。右サイドは最近台頭してきたベティスのサイドアタッカー、ホアキンで決定的だけど、左の方は難航しそう。というのも、オランダのダービッツのような攻守に貢献できるバランス感覚に優れた左サイドハーフというのは思い付かない。リーガでそういう選手の需要があまりないという事情が原因ですが。メンディエタやルイス・エンリケといったユーティリティープレイヤーの起用で落ち着くと思われますが、まあ誰が起用されるにせよ、ムニティスやバレンシアのビセンテといったウインガーにスタメンの芽が無くなったのは確かです。
らく
一つ目と二つ目の理由は仕方ない面もあるが、三つ目は明らかにカマーチョ監督の資質の問題だからね。競争心を煽ったり、若い選手を成長させたりと、メンバーをいろいろ使うのもいいが、W杯目前になってどこに誰を使うか、FWラウ−ルとリベロのイエロ以外は、定かではなく、ほとんどのポジションで誰を使うかすら、悩んでる状況だからね。事は深刻だよ。
主人
競争と言えば聞こえはいいけど、絶対的存在がいないことの裏返しでもあるんですよね。つまりドングリの背比べ。
らく
ディフェンダーもリベロのイエロはともかく、その他の3つのポジションが決まらない。プジョールをセンターバックに置こうか右サイドに置こうか決まらないし、左サイドは、最近抜擢されて活躍したファンフランが果たしてW杯でも活躍するか疑問だ。控えには、左にはアランサバル、右にはミチェル・サルガドやクーロ・トーレスとそれぞれに特徴を持ったメンバーはいるいるけど、皆、現時点では候補者の1人にすぎないんだよね。W杯メンバーにはエントリーされないかもしれない。
レギュラーが固定されず、レギュラー争いのために気力、体力ともに激しく消費し、いざ本番となってから、チームがいいコンディションでいられるかどうか。かなり、疑問視してしまう。
主人
ただしラウールのパートナーとなるセンターFWの争いは本当にハイレベルですね。これは誰が監督でも迷うでしょう。モリエンテスとトリスタン、両者とも186センチの長身で当たりに強いけど、前者は勝負強さ、後者はボールテクニックの巧さ(ひるがえって、それがボールの持ちすぎを指摘される原因でもある)を持っていて甲乙付けがたい。ゲームメーカー・バレロンのパスを生かすならラ・コルーニャでもチームメイトのトリスタンを起用すればいいし、エース・ラウールとのコンビを考えればモリエンテスを使うべきです。どちらにしてもコンビは確立しているから、このポジションだけはカマーチョ監督は本番まで迷っていいと思う。
らく
一方、1次リーグ1位通過と予想したパラグアイは、チームとしての円熟味がある。特にDFラインは、前回W杯のメンバーと変わらず、経験、コンビネーションは文句がない。4年前よりも、さらに熟成しているだろう。南米最強のセンターバックと評されるガマラ、アジャラにサイドのアルセ、カニサ。おそらく、失点はほとんどしないだろう。そして、守護神であり、チームの指揮官でもあるチラベルトがいる。初戦の南アフリカ戦は、欠場するが、その欠場がチームの士気を高め、勝利へと導くのではないか。チラベルトの欠場が大きなプラスとなると読んでいる。そして、次戦の勝負所のスペイン戦では、チラベルが戻り、鉄壁の守備陣で、スペインの攻撃を完封すると読んだ。
それから、なんと言っても新監督に前回イタリア代表を引き連れたマルディーニを迎え、パラグアイ版のカテナチオを形成。さらに。デイフェンスは強固なものとなるだろう。今のパラグアイから点を取るのは、至難の技だ。負けることはないから、確実に勝ち点を重ねるだろう。
パラグアイ予想布陣:4−4−2
● ● カルドーソ サンタクルス
● ● アクーニャ キンターナ
● ● パレデス ストルウェイ
● ● カニサ アルセ
● ● ガマーラ アジャラ
● チラベル
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主人
確かに、パラグアイの守備はかなり固い。だから僕は迷いましたよ。僕もかつてスペイン代表は、ファンタスティックなリーガ・エスパニョーラの性格上、ひるがえってW杯独特のプレッシャーや戦い方への適応に難が出てくるということを『スペクタクルより勝利が好き』第1回で書いただけに、W杯のスペインは信用できないところがあるのですが、パラグアイも同様に信用できない点はあります。
らく
というと?
主人
いくらチェーザレ監督がイタリア人で、イタリア的な深いディフェンスラインを敷こうとも、すでに指摘されているようにチラベル、ガマーラ、セルソ・アジャラ、アルセ、カニサといったディフェンスのタレントがいて、イタリアに近い守備ができたとしても、パラグアイはイタリアにはなり得ないんですよね。
どういうことかというと、イタリア独特の所謂カテナチオとは、相手に点を取らせないための守備陣形のことを指すと思われがちですが、同時に、相手が攻め上がってしまったことによってできる広大なスペースをFWに使わせる、効率の良い攻撃戦術でもあるんですよ。だからカテナチオを本当の意味で完成させるには、後方からのフォローが少ない上、僅かなチャンスに、個人技でゴール前まで持ち込んで、ゴールを奪ってみせる強力なFWが必要なんです。その点、イタリアはロベルト・バッジョ、ゾーラ、デル・ピエロ、ビエリ、最近ならトッティといったように優れたFWには事欠きませんでした。
らく
優れたFWならパラグアイにもサンタクルスがいるよ。21歳と若いけど、バレーボールのスパイクを思わせる打点の高いヘッドは日本が出場した99年のコパ・アメリカでお馴染み。しかも所属チームのバイエルン・ミュンヘンでウイングをやらされることがあるようにスピードも侮れないものを持っている。若いながら非常に完成されたストライカーだ。
主人
ポテンシャル(潜在能力)は僕も認めます。しかし今大会はあくまでそれを見せるに止まると思いますね。やっぱり後方からのフォローが少なく、僅かなチャンスを得点に結びつけるのは、どんなFWでも難しいですよ。それでもFWは点を取らなければ決定力不足と非難されてしまう。サンタクルスのプレーは成熟していますが、あの若さでパラグアイFW陣の第一人者として攻撃の全責任を背負わされるプレッシャーに耐えられるのかどうか。他に頼れるFWがいれば良かったのですがね。南米予選でエースを務めたカルドーソは決してワールドクラスではないですし。98年大会でイングランドのオーウェンが18歳ながらブレイクしたのもシアラーがいたことと無関係ではないでしょう。当時はシアラーがイングランドFW陣の柱で、オーウェンへのプレッシャーはまだ軽かった。若い選手に活躍を期待するなら、気楽にプレーできる環境が必要だと思うのです。
パラグアイは、守れるけど点が取れず、ドローゲームが多い、渋い戦いが続くというのが僕の予想です
らく
パラグアイと初戦で当たる南アフリカは、現在、かなりのゴタゴタがあると言われる。
去年までは、怖いチームだったが、監督が急に変わり、メンバーも一新された。しかし、親善試合をするたびに、メンバーが変わるという状況。スペインよりも、さらにひどいチーム状態のようだ。FW陣は、マッカーシー、ノンべテ、フォーチュンとシドニー五輪世代のタレントはいるが、いかんせん、誰が出場するのかすらわからない。とてもW杯を戦えるチームではないね。B組は南アフリカから、勝ち点3を取ることが、1次リーグ突破の条件となるだろう。
南アフリカ予想布陣:4−4−2
● ● バートレット ノムベテ
● ● モーララ ズマ
● ● フォーチュン エムンゴメニ
● ● カーネル エムブレロ
● ● A・モコエナ ブース
● フォンク
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主人
南アフリカというと、シドニー五輪の初戦の日本戦のイメージが強烈ですね。あの試合を観て、ああ、やっぱり日本人にフラット3はきついんじゃないかと思った(笑)。ボランチのフォーチュンとFWのマッカーシーからはボール獲れなかったし、マッカーシーに中田浩のサイドを蹂躙されて、そのクロスを中央で待ち構えていたノムベテに曲芸的なヘッドで先制された。
でも2人ともその後は伸び悩んでいるようですね。フォーチュンはマンチェスター・ユナイテッドでスコールズ、マッカーシーはセルタでカターニャといった絶対的存在の前になかなか試合に出場できなかったというのが原因でしょう。
ただ南アフリカに明るい材料があるとすればジョモ・ソノ監督の就任ですね。この人は南アフリカ代表監督時代のトルシエの前任で、アフリカ・ネーションズカップで敗北を喫したチームを建て直し、トルシエにつないだ実績がある。でも、このままだと、スロベニアの方が組織は整っている訳で、らくさんの言うように南アフリカはB組の草刈り場になってしまう。
らく
スロベニアは、3−4−2−1のフォーメーションでカウンターサッカーを展開する、
これまたディフェンスの堅いチームだ。3月のクロアチアとの親善試合では、スコアレスドローという結果だった。プレーオフのルーマニア戦では、3・7の割合でルーマニアが押しまくっていたが、堅い守りで、接戦をものにした。しかし、プレーオフではスロベニアには、ラッキーな部分が多かったと思う。W杯本大会で、スペイン、パラグアイと戦うが、守りが堅いので、点はそんなには取られないだろう。しかし、問題は点を取れるかどうか。
スロベニア予想布陣:3−4−2−1
● オステルツ
● ● ルドニャ ザホビッチ
● ● カーリッチ ノバク
● ● パフリン A・ツェフ
● ● クナフス ミリノビッチ
● ガリッチ
● シメウノビッチ
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主人
いや、スロベニアはもしかしたらジャイアントキリング(大物食い)をやるかもしれませんよ。パラグアイと同様、守れるけど点が取れないかもしれないという欠点を持っているのも確かです。しかし期待を抱かせるのは「ダークホース躍進の条件」にスロベニアも当てはまっているからです。その条件とは@堅い守備とAカウンターのチャンスを決められる切り札の存在です。例えば94年W杯のルーマニアとブルガリアは、共に堅い守備と、前者はハジ、後者はストイーチコフという切り札がいました。また98年W杯のクロアチアは守備は勿論、スーケルという絶対的なストライカーがいました。そして今大会、スロベニアの守備の堅さはすでに実証済み。スロベニアのカタネッチ監督はセリエAサンプドリアでのプレー経験があり(しかもスケデットを獲得)、その経験は代表監督としても生かされ、スロベニアに組織ディフェンスを持ち込みました。そして切り札にはザホビッチがいる。ユーロ2000での活躍によってバレンシアに引き抜かれたけど、ボールの持ちすぎを指摘されて都落ちし、今ではポルトにいるが代表では違う。ウルグアイのレコバと同様、制約が全くないというわけではないが自由を与えられ、チームも攻撃はザホビッチの創造性に頼っています。パラグアイとはお互い守備が堅いだけに点の入らない渋い勝負になりそうです。スペインはスロベニアの選手の能力と比較して有利なのは確かですが、草刈り場と思って油断していると、食われる可能性も大いにありますね。

主人
順位予想に戻りますが、各チームへの評価は変わりませんか?
らく
うん、俺のBグループの全体的な評価はこう。
パラグアイ:攻撃B 守備A 経験A
スペイン:攻撃A 守備C 経験B
スロベニア:攻撃C 守備B 経験C
南アフリカ:攻撃C 守備C 経験C
総合力で、パラグアイを1位に推した。スペインとスロベニアは、初戦で当たる。両者とも緊張してガチガチな試合になるだろうからスコアレスドローになる可能性は高いと思う。
主人
僕はスペインの1位を推します。やはりタレントの質という点ではこのグループ随一です。ただ、スペインはチーム戦略が中途半端になってしまうチームなんですよね。それも、自分達はフランスやイタリア、アルゼンチンと同じ優勝候補なのか、それとも数多いる「チャレンジャー」の一つなのか位置付けが難しいからだと思うんです。
らく
はいはい、リーガ・エスパニョーラのレベルや近年のチャンピオンズリーグでのレアル・マドリーやバルセロナといったクラブチームの実績を考えれば優勝候補に違いないが、代表での実績を考えると首を傾げてしまう。かと言ってチュニジア、スロベニア、トルコなどと同じ部類の「チャレンジャー」に位置づけるのは筋違いだ。
主人
ということは、予選では手を抜いてコンディションのピークを決勝トーナメントへ持っていく「横綱相撲」をすべきか、それとも予選から「チャレンジャー」としてトップコンディションで戦うのか、決断しにくいということなんですよ。94年までは「チャレンジャー」でやって来て、決勝トーナメントには確実に上がってたけど、決勝までは行ったことがない。98年は「無敵艦隊」などと騒がれて、グループリーグでは「横綱相撲」をやろうとしたけど、フタを開けてみれば初戦のナイジェリア戦での惨敗が祟って決勝トーナメントにすら行けず。手抜きで勝てるほど成熟していなかったということなんですね。
だから、カマーチョ監督が身体と精神の両面で、どこにトップコンディションを持っていくのか。もし、スロベニアとの初戦で大量ゴールでも出れば、それは「チャレンジャー」として戦うということでしょうし、最少得点で勝つということであれば「横綱相撲」で優勝狙いということでしょう。そういうチーム戦略には非常に注目しています。

