佐伯屋
スペクタクルより勝利が好き
第9回:平成14年8月17日
ミランのライバルを追う@
セリエA優勝候補編

優勝候補を悩ますW杯疲労
 ここからは、ミランのライバルとなるチームを、長所と短所を簡単に○×方式で抽出しつつ、検証していきたい。
 その前に今季のセリエAの展望を。ワールドカップ後の翌シーズンは開幕前には優勝候補にも挙げられていなかった意外なチームが優勝しがちである。86−87年はベローナ、90−91年はサンプドリアといったように。94−95年のリッピ監督率いるユベントスにしても、ミランという当時、絶対的な優勝候補がいた中で、ビアリやラバネッリ、デル・ピエロらW杯不出場組の台頭によって得たスクデットであり、開幕前にユーベの優勝を予想する声は大きくなかった。98−99年は逆にユベントス有利と言われながらもミランが優勝を果たした。
 何故、こういうことが起こるかというと、ユベントスやミランなどビッグクラブのレギュラーの多くは代表選手であり、W杯で精神と肉体の両方とも燃え尽きた状態で所属クラブに帰ってきてしまい、コンディションが回復しないままシーズンに望まなければならないからである。しかし、今季に限ってはW杯疲労の影響はほとんど無いだろう。というのも、イタリア代表は日韓W杯をベスト16で敗退し、フランスやアルゼンチン代表に至ってはグループリーグすら突破できなかったのだ。だから当然、例年のW杯よりは早くバカンスに入っており、休養十分というわけである。しかも、不本意な形で敗北しただけに、むしろ雪辱を晴らそうとモチベーションが上がっているのではないか。
 しかし、ミランのリバウド、ロッキ・ジュニオールといったW杯優勝のブラジル代表勢は、シーズン序盤はコンディション調整に苦しむかもしれない。ただし、今季のミランは選手層の厚いチームだ。リバウドがたとえ不調だったとしても、トマソンやピルロといった実力者が控えており、ロッキ・ジュニオールにしても、ネスタ加入が決定した今となっては積極的に起用すべき理由はない。よって今季に限ってはW杯疲労の影響は少ないように思える。

保守路線というのは決して間違いでは無い
ユベントス
○昨季とシステムもメンバーも変わらず熟成に専念できること
×主力の高齢化


 さて、ディフェンディング・チャンピオンのユベントスには目立った補強は無かった。世界最高のゲームメーカー、ジダンこそ放出したが、GKブッフォン、DFテュラム、MFネドベドらを、復帰した90年代半ばに黄金期を実現したリッピ監督のために獲得した昨季に比べれば、非常に大人しい。これまでに獲得した選手を見ると、左サイドバックのモレッティ、右サイドハーフのカモラネージは故障で開幕に間に合わないペッソット、ザンブロッタの代役としてであり、バイオッコ、フレージらもレギュラーとしてではなく(勿論、すぐに開花してくれるにこしたことはないが)、むしろ選手層を厚くするためといった性格の強い補強である。サレルニターナやパルマといったチーム状態が悪く、後方からのフォロー&サポートが少ない中で毎シーズン10点以上挙げてきた十分な実績があるディ・バイオが加入したと言っても、彼に合わせてシステムや戦術といったチームコンセプトが変更される訳でなく、デル・ピエロ、トレゼゲといったレギュラーの控えとしてのスタートになる。つまり昨季の優勝チームを熟成させる方向を選んだということである。すでに各国の代表クラスが昨季の段階ですでにズラリと揃っているのだから、この保守路線というのは決して間違いでは無い。

ユベントス2002−2003予想布陣

          ●       ●
       デル・ピエロ   トレゼゲ

              ●
            ネドベド

    ●                    ●       ダービッツ           ザンブロッタ

               ●
           タッキナルディ

    ●                    ●
  ペッソット               テュラム

          ●       ●
       ユリアーノ   モンテーロ

               ●
            ブッフォン

                         

ディフェンスラインの老朽化には手付かず
 ただし、気になるのは主力選手の高齢化である。特にディフェンスラインの老朽化には手付かずだった。テュラムが30歳、フェラーラが35歳、モンテーロが31歳、ユリアーノが29歳、ペッソットが31歳とベテラン勢が中心で、セリエAとチャンピオンズリーグという長丁場を戦い抜かなければならないだけに、スタミナの面で一抹の不安がある。計算できるDFのリザーバーとして考えられている、かつての「将来有望株」フレージにしても29歳とそれ程若い訳でなく、しかも4バックでの起用は以前から不安視されており、前所属のボローニャでは5バックだったため活躍したが、フレージの課題は放置されたままになっている。4バックのユベントスに適応できるかは未知数と言わざるを得ないのだ。またフェラーラとモンテーロのセンターバックコンビはディフェンス技術では文句ないが、年齢からくる衰えにより走力が不足している。この問題点は昨季から指摘されていたことだ。スピードへの対応に不安があるということは、相手選手に裏を取られて走られてしまう心配からディフェンスラインの押し上げが億劫になってしまうということである。

若手の成長が必要
 ただし、運動能力抜群のテュラムを本人がかねてから希望しているように右サイドからセンターへコンバートすれば、スピード不足は解消されるはずだ。しかし、このコンバートにもまた問題があるのだ。昨季、リッピ監督は当初テュラムをセンターバックとして考えていた。ところが、新加入の若手右サイドバック、クリスティアーノ・ゼノーニが攻撃面はともかく守備面で期待を裏切り、テュラムを右サイドバックに移さざるを得なくなったのである。テュラムを中央に戻すには、代役の右サイドバックが必要だったところだが、このポジションに新戦力の加入はなく、ゼノーニの成長に期待するしかない。
 ユーベは若手の成長が必要なのだ。中心選手は昨季と変わらず不動であり、新戦力や新システムのテストに時間を割く必要が無く、現行システム及び戦術の熟成に専念できる点はユーベの大きな強みである。しかし、強固に確立した組織は流れが悪くなると、一転して硬直する可能性があるだけに、先に挙げたゼノーニだけでなく、トゥドールやモレッティら期待の若手が新風を吹き込むことは、長い戦いにおいて必要な要素である。それがあれば、若手の台頭次第でユベントスは隙のないチームになるはずである。

意外とも言える保守路線
インテル
○近年のインテルでは希な継続性
×依然として残る左サイドの不安


 ユベントスほど保守的ではないが、インテルもまた昨シーズンのクーペルのサッカーを熟成させる方に向かっている。毎年、監督の首をすげ替え、大物選手をしかも大量に補強したがるインテルにしては意外とも言える保守路線である。勿論、昨季、優勝まで後一歩のところまで行った好成績の影響が大きいが、この眠れる獅子にようやくながら継続性が出てきた。
 新戦力の補強は、昨年の弱点の穴埋めが中心であり、今のところは無駄がない。昨季のインテルの弱点はセンターバックの層の薄さと左サイドの選手の質にあった。センターバックのレギュラーのコルドバとマテラッツィの二人の能力は十分だったが、彼らが欠けた場合のバックアッパーに不安があったのだ。控えのソロンドは190センチの長身ぐらいが特徴の選手で、クーペル監督は数試合起用したが使える目処が立たず、結局、他のポジションのサネッティやディ・ビアッジョをセンターバックで起用しなければならなかったのだ。その反省からインテルはパラグアイ代表で南米屈指の実力派ガマーラを獲得し、それだけでも十分なのに、ミラン行きが有力とされていたイタリア代表の重鎮ファビオ・カンナバーロまで手に入れた。193センチの長身ながら柔軟な足技を持つマテラッツィ、スピードへの対応を得意とするコルドバ、マーキング能力の高いガマーラ、そして運動能力抜群のカンナバーロとインテルのこのポジションは昨季とは一転して、3バックにしても人数が余る豊富な陣容となった。

「帯に短したすきに長し」
 そうそう、インテルはプレマッチでは3バックを試していたのである。クーペルと言えば4−4−2システムが思い浮かぶが、そのクーペルが何故3−4−1−2をやり始めたのか。それはインテルの昨季のもう一つの弱点である左サイドハーフの補強が遅れているからである。確かに左サイドハーフで起用できる選手はインテルには揃っている。レコバ、エムレ、グリエルミンピエトロ、ダルマ、モルフェオらがいるが、皆、本来は違うポジションであり、左サイドハーフとしては「帯に短したすきに長し」なのである。この中で最も才能があるのはウルグアイ代表のレコバだが、左サイドに飽きたらず中央や右サイドに本能的に流れていくフリーランスなサッカーを好む彼を、戦術で縛り付けるのはその特徴をスポイルしてしまう。しかも、左サイドハーフの後ろを守るココもまた攻撃参加の好きな選手であり、その彼がレコバの後方をカバーするためだけの役割に満足できるはずがない。それならむしろ、今のクーペル・インテルのサッカーでは、レコバはサイドハーフよりはまだ自由に動けるFWでの起用が得策だろう。とは言え、FWはビエリとロナウドと入れ替わりで加入したクレスポのコンビで決まりであり、この南米屈指のファンタジスタはリザーブになってしまう。だが、ビエリは能力はあるが、故障の多い選手だけにリザーバーの出番は今季もきっと多いはずであり、その時、レコバほどの実力者が控えていることはインテルにとって心強いのではないか。

キリ・ゴンサレスがいれば
 おそらく、クーペルが欲しい左サイドハーフはバレンシア時代の教え子、アルゼンチン代表のキリ・ゴンサレスのような縦に突破できて守備でも貢献できる攻守のバランスが取れるタイプの選手だろうが、今のインテルにはそうしたタイプの選手は見当たらない。だからこそ、両サイドバックのサネッティとココを中盤に押し上げた3−4−1−2システムをテストしていたのだ。しかし、このシステムは、過去に採用した多くのチームでそうなっているように、守備の人数が一人減ったためにコンパクトなプレッシングを失い、攻撃時には中盤と前線の距離が開き気味になり、FWが孤立してしまう危険性がある。ビエリ、クレスポ、レコバなどインテルのFW陣は個人技で局面を打開できる選手が揃っているとは言え、個人の調子の良し悪しに左右されてしまうのは優勝を狙うチームにとってはハンデとなる。やはり、キリ・ゴンサレスタイプの左サイドハーフを補強し、昨シーズンのサッカーをレベルアップさせる方に向かうべきである。

インテル2002−2003予想布陣

          ●       ●
         ビエリ     クレスポ
        
    ●                    ●      モルフェオ          S・コンセイソン

          ●        ●
       ザネッティ   ディ・ビアッジョ

    ●                    ●
   ココ                サネッティ

          ●       ●
      マテラッツィ  F・カンナバーロ

               ●
             トルド

                         

確かにグァルディオラ個人は好選手である
ローマ
○4年連続のカペッロ政権
×グァルディオラ起用法についての迷い

 ローマもまた継続性がウリのチームである。しかも、サムエル、エメルソン、カフー、カンデラ、トンマージ、トッティと主力は変わらず、4年の長期政権でカペッロ・イズムはチーム全体に浸透しており、その継続性はユベントスやインテルを凌駕している。だが今季のカルチョ・メルカートでこの確立した組織を使いようによっては向上させることも、一転してズタボロにすることもできる選手をローマは獲得してしまった。その名はグァルディオラ。確かにグァルディオラ個人は好選手であることは言うまでもない。中盤の底から左右に正確に配給されるミドルパスは味方のサイドアタックの威力を存分に引き出し、守備でも運動量は多いとは言えないが、抜群のポジショニングで巧みなインターセプトを見せる。しかし優れた個人能力が必ずしもチーム力に還元されるとは限らないのがサッカーの、いやチームスポーツの難しいところである。以下にその説明をしよう。

モンテーラよりデルベッキオが重宝された理由
 昨季のローマは2つのフォーメーションを使っていた。双方とも3バックなのは変わらないが、一つは2トップでトッティがトップ下に入るパターン、もう一つは2トップのうち一枚外してトッティを前線に上げ、守備的MFを3枚配置するパターンである。両者とも一長一短がある。前者は攻撃にかける人数が多い分、得点力は高くなるが、守備が手薄になってしまう。特にローマの場合、トップ下のトッティとFWのバティストゥータ及びモンテーラの守備意識が低く、しかも両サイドのカフーとカンデラが攻撃参加を好むため、守備的MFは猛烈な運動量でアタッカー達が空けたスペースを埋めるために奔走しなければならなかった。ローマの3−4−1−2は二人の守備的MFにとって負担の大きいシステムなのである。
 しかしカペッロ監督は2トップの一角にバティストゥータやモンテーラより得点力では劣るデルベッキオを起用することで守備的MFの負担を軽減した。というのはデルベッキオにポジションはFWながらも、守備時には中盤まで戻って守備をさせたからだ。しかも決して攻撃でも貢献度が低いわけでなく、前線のスペースへのダッシュで相手DFを引き付け、トッティやバティストゥータ(モンテーラ)にスペースを与えたり、サイドに流れてのボールキープで味方の攻撃参加を促した。得点こそ少なかったが、運動量豊富でチームプレーに徹することのできるデルベッキオはローマには欠かせない選手として評価されたのである。

ローマの3−4−1−2(参考)              ローマ02−03予想布陣

          ●       ●
     デルベッキオ   バティストゥータ

              ●
            トッティ

    ●                    ●      カンデラ                カフー

           ●       ●
        エメルソン   トンマージ

       ●               ●
    サムエル           ゼビナ

               ●
             ザーゴ 
    
               ●
            アントニョーリ

                         

         ●         ●
       トッティ      モンテーラ

         ●         ●
      エメルソン     トンマージ

    ●                  ●
  カンデラ               カフー

              ●
          グァルディオラ

       ●            ●
      デラス         パヌッチ

              ●
            サムエル

              ●
           アントニョーリ


限定された使い方しか出来ない
 とはいえ、この方法はやはり非合理的である。なぜなら、FWにMF的な動きをさせるより、本職のMFを起用した方が合理的であり、そもそも守備的MFのような動きの出来るFWなど数少ない。そこで、昨季の序盤戦デルベッキオが故障欠場していたこともあって考案されたのが、後者つまり3−5−2だった。このシステム変更によって守備は安定感を増し、両サイドハーフのカフーとカンデラは後顧の憂いなく、より積極的に攻め上がることができた。しかし、やはりFWは孤立気味になり得点力は落ちた。
 昨季ローマが使った3−4−1−2と3−5−2システム、他選手のプレースタイル、グァルディオラの特徴を総合して考えると、3−5−2の守備的MFとして配置された方が活躍できるのではないか。理由は、こちらの方が両サイドのオーバーラップは積極的にできるし、それならばグァルディオラのサイドチェンジパスが生きるからだ。またトンマージやエメルソン、リマといった彼の両脇を固める働き蜂の豊富な運動量によって、彼自身の運動量の少なさも補われるはずだ。ただし、このシステムの弱点である攻撃力向上にはMFの攻撃参加が必要である。一方、3−4−1−2での起用は疑問だ。ローマのこのシステムはとにかく中盤での守備と豊富な運動量が求められるが、それはグァルディオラの得意とするプレーをスポイルするだろう。ローマというかセリエAでは稀代のプレーメーカー、グァルディオラも限定された使い方しか出来ないのである。

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