佐伯屋
スペクタクルより勝利が好き
第10回:2002年9月9日
ミランのライバルを追うA
優勝候補脱落組編

魅力的なチームになっていたはずが・・・
ラツィオ
○層の厚いセンターハーフ
×チームの財政難


 GKペルッツィ、DFオッド、ネスタ、スタム、ソリン、MFエリベルト、スタンコビッチ、ジャンニケッダ、マンフレディーニ、FWクラウディオ・ロペス、クレスポ。これが新シーズンのラツィオのスターティングメンバーになるはずだった。過去形にしなければならないのが何とも悲しい。かつての名パッサー、マンチーニ監督による新政権はラツィオの財政難の煽りをまともに食らうことになってしまった。アルゼンチン代表の左サイドバック、ソリンはすでに獲得しているが、昨季プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドからスタムを獲得した際の移籍金が未だ支払い終わっていないという理由から、その移籍金の代わりに放出される可能性がある。キエーボのエリベルト、マンフレディーニ、エラス・ベローナのオッドらは移籍こそ内定していたが、移籍金を元所属先に納められず、宙に浮いたままになっていた(後にエリベルトは偽造パスポートが発覚し、プレー停止処分。マンフレディーニとオッドは移籍決定)。ラツィオが世界に誇る攻守の柱、ネスタとクレスポはチーム財政再建のために、いつ放出されてもおかしくない状態だったが、ついにネスタはミラン、クレスポはロナウドをレアル・マドリーに放出したインテルへの移籍が決まった。もし、前述の予想先発メンバーが全員揃っていれば、ネスタとクレスポという大物を中心に、各ポジションのスペシャリストが脇を固める非常に魅力的かつ強力なチームになっていたはずである。

全て貧乏が悪い
 ネスタとクレスポが去り、新たな戦力補強も現時点では見通しが立っていない。DF陣もネスタ放出で一気に老朽化が進んだ。パンカーロ、ファバッリ、ネグロ、スタム、フェルナンド・コウトといった面々の力量は現時点ではある程度の計算はできるが、いずれ近い将来、この問題に手を着けなければなるまい。そして何より、攻守の要だったネスタとクレスポの穴を埋めなければならないが、そこまでハイレベルの選手はなかなかいるわけがない。マンチーニが新監督ながらもラツィオのチーム事情を熟知していること、サンプドリアでの選手時代にキエーザやモンテーラの獲得をフロントに進言したように選手を見る眼があることなど、名将になる資質を備えているが、リッピ、クーペル、カペッロなど海千山千の知将を相手に渡り合って行くには、経験が圧倒的に足りない。つまり今季のラツィオはユベントス、インテル、ローマ、そしてミランといった優勝候補グループからはすでに脱落していると言わざるを得ないのだ。全て貧乏が悪いのである。

豊富なセンターハーフを活かす戦い方
 こうした悲観的な要素が多い中、ラツィオの数少ない明るい材料は、センターハーフの層の厚さである(ミランの攻撃陣と同じく、「豊富」と言うより「過多」の方が適切だが)。ユーゴのテクニシャン、スタンコビッチを軸に、「試合巧者」シメオネ、中盤の汚れ役として欠かせないジャンニケッダ、左足の鮮やかなミドルパスが光るリベラーニ、そして昨季は不調だったフィオーレも実力は十分であり、復活が期待される。しかし、いくら層が厚いと言っても、今のラツィオの4−4−2システムでは、センターハーフの出場枠は2である。各国の代表クラスを揃えたこのポジションは優勝候補グループにも決して劣っていないが、有効活用しないことには宝の持ち腐れでしかない。
 そこで、3−5−2(5−3−2)システムを試してもいいのではないか。その方がラツィオには合っていると思うのである。サイドを担うことになるオッド、ソリンは走力があって攻撃意欲が高く、3バックのサイドハーフでは実績を残しているが、攻撃よりも守備に比重の大きい4バックのサイドバックでは未知数である。また、センターハーフも3−5−2の方が多く使える訳で、このポジションの層の厚いラツィオにとっては有効である。そして、DFラインを深くして守備を固め、C・ロペスやキエーザといった快足FWによる速攻に活路を見出すといった戦い方をするのだ。所謂「カテナチオ」である。
 4−4−2でスペクタクルな攻撃サッカーを好むと言われるマンチーニ監督や、かつてビエリ、サラス、ネドベド、セルジオ・コンセイソン、ベーロンらがいた強い頃のラツィオ復活を願うファンにとっては不本意かもしれないが、チームの現状を考えるとなりふり構ってはいられない。

ラツィオ02−03予想布陣                (参考)ラツィオ3−5−2

          ●       ●
        C・ロペス   S・インザーギ
              
    ●                    ●      マンフレディーニ       カストロマン

           ●       ●
     ジャンニケッダ  スタンコビッチ

    ●                    ●
  ソリン                  オッド

           ●       ●
        F・コウト    スタム
    
               ●
            ペルッツィ

                         

         ●         ●
       C・ロペス     キエーザ

         ●         ●
       シメオネ     スタンコビッチ

    ●                  ●
  ソリン                 オッド

              ●
           ジャンニケッダ

       ●            ●
     F・コウト         スタム

              ●
             ネグロ

              ●
            ペルッツィ


ポストMJのブルズとダブる今のパルマ
パルマ
○若手有望株が大挙集合したこと
×中心選手の不在

 1999年にはベーロン、2000年にはクレスポ、2001年にはブッフォン、テュラムというように毎シーズン、大物選手を放出してきたが、今季のパルマは「最後の大物」ファビオ・カンナバーロが去ったことで一時代を終えた。そしてベテランと入れ替わりにユース年代の代表経験を持つ若手有望株を数多く揃えた。世代交代策を採ったパルマを現時点で優勝候補には挙げられないが、数年後には優勝を狙えるチームにしようという意欲は感じる。ただし、この入れ替わりの様は、競技は違うが、数年前のNBAのシカゴ・ブルズとダブる。「神様」マイケル・ジョーダンが引退、ピッペンやロッドマンといった名脇役も抜けて、代わりに名門大学からヘッドコーチを招聘し、ドラフトで獲得した大学出身の新人を数多く登用した。しかし、将来有望でエネルギッシュな若手を揃えたのはいいが、経験不足は如何ともし難く、「大学選抜」のブルズはNBAを戦えず最下位に真っ逆様となった。「U−21選抜」のパルマも同じ轍を踏む可能性が大いにある。

悠長に成長を待ってもらえる訳ではない
 それはブルズもそうだったが、今のパルマにも確固たる中心選手がいないからである。昨季、中盤を支えたラムシは主役のサポート役としては優秀だが、チームの主役としては役不足の感は否めない。中田は人気、実力共に中心選手になる素質を備えているが、パルマに来てからの中田は中盤の便利屋のような扱いで、サイド、ディフェンシブハーフなど不得意なポジションで起用されてきた。それでも持ち前の器用さで70点から80点のプレーはしてきたが、90点を獲る本職の選手には勝てず、ベンチを温めた試合もあって、絶対的な存在として信頼されていないのである。
 つまり、新加入のボネーラ、ドナーティ、アドリアーノらは、ビッグクラブというチームの性格上、悠長に成長を待ってもらえる訳ではなく、いきなり主力としてF・カンナバーロ、アルメイダ、ディ・バイオといった前任者と同等、いや、それ以上の活躍をしなければならないのである。これは厳しい環境と言わざるを得ない。マスコミやサポーターの非難に晒されて、萎縮してしまうことも十分に有り得る。
 かつてのマンチェスター・ユナイテッドにおいて、カントナというベテランの存在があったから、ユース出身の若手だったベッカムやスコールズ、G・ネビルらがのびのびプレーできた。若手が才能を磨くには、台頭してくるまでにチームを支えられる実力があって、マスコミの批判も一手に引き受けられる大きな存在が必要なのである。今季のパルマの世代交代策はあまりにも性急すぎて、ギャンブルに近いと言わざるを得ない。

中田がトップ下に復活する?
 だからこそ、今季の中田には真の中心選手としての働きが求められるが、そんな中田に朗報が飛び込んできた。ディ・バイオの放出と、ルーマニア代表のムトゥの加入である。これにより中田が得意のトップ下に復活できる芽が出てきた。ムトゥはポジションはFWだが、ディ・バイオの後継者となるストライカーと言うより、俊足とテクニックを生かした左ウインガーで、パルマの4−4−2では2トップの一角よりも左サイドハーフの方が合う。間違いなく左サイドハーフの中田より上の動きをすると断言する。また、パルマの現メンバーにディ・バイオに匹敵する得点力を持った選手はおらず、その後継者として考えられるボナッツォーリはアドリアーノとプレースタイルが重なり、ジラルディーノは将来性はあるが現時点での実力は未知数だ。
 それなら、アドリアーノ(ボナッツォーリ)の1トップにし、その後ろで中田をプレーさせる4−4−1−1の方が計算できるのではないか。つまりペルージャ時代と同じような布陣になるのである。ペルージャ時代の中田にはカウンター時にドリブルで攻め上がっていると、前には左のラパイッチ、中央のブッキ、右のペトラーキとパスコースは3つ用意されていた。パスコースが多いほど相手のマークが分散し、自身も生きやすくなる。しかも両サイドのラパイッチとペトラーキに走力があったから、中田特有の弾道の速い「キラーパス」と相性が良かった。しかし、パルマや日本代表でもそうだが、中田にはパスコースは2トップぐらいしか与えられておらず、プレー面での選手間の相性も良くなかった。中田がペルージャで機能して、パルマや日本代表ではイマイチ機能しきれなかったのはこの辺りに原因があると私は考える。パルマでも右にマルキオンニ、左にムトゥと両サイドにスピードのある選手を従えれば、中田復活も大いに有り得る。

パルマ02−03予想布陣                (参考)4−4−1−1

         ●         ●
        ムトゥ     アドリアーノ

   ●                     ●
  中田              マルキオンニ

         ●         ●
       ドナーティ     ラムシ
              
   ●                     ●
  グレスコ              ディアーナ

         ●         ●
    P・カンナバーロ   ボネーラ

              ●
             フレイ


              ●
          アドリアーノ

              ●
             中田

   ●                     ●
  ムトゥ             マルキオンニ

         ●         ●
       ドナーティ     ラムシ
              
   ●                     ●
  グレスコ             ディアーナ

         ●         ●
    P・カンナバーロ   ボネーラ

              ●
             フレイ


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