佐伯屋
スペクタクルより勝利が好き
第5回:平成14年7月19日

イタリア代表エッセイ連続3回シリーズ
敗戦を抱きしめて

這い上がれイタリア
 審判問題、そしてトッティへのレーザーポインタ照射疑惑など、これからどう決着するかは今の段階ではわからないが、日韓W杯でイタリア、ベスト16敗退と記録されるのは確かであり、いつまでもエクアドル人審判と韓国への憎悪に凝り固まることなく、そこから這い上がることを考えなくてはいけない。
 しかし、それはなかなか難事になるかもしれない。イタリアサッカー界は問題が山積みだからだ。なかでも、イタリアが取り組まなければならないのは戦術面の変革である。
 周知の通り、ここ数年のチャンピオンズリーグや日韓W杯でイタリアの「カテナチオ」は限界を見せられた。深いディフェンスラインで人数をかけて守備を固め、ボールを奪うと即座に前線の選手へロングパスを送り、相手選手が戻りきらないうちに、広大なスペースを少人数で使って攻める。間違いなく戦況によってはとてつもなく強力な戦術である。
 だが、いくら強力な戦術でも状況もおかまいなしに、何度も続けていればやがて読まれてしまい対策を立てられる。そうなった時、クラブチームでも代表でも、個人技頼みになってしまい、組織的に打開する手だてがない。こうしたイタリア勢の攻撃パターンの貧困さは、すでにカルロ・アンチェロッティ(ACミラン監督)やアリーゴ・サッキ(元イタリア代表監督)らがすでに指摘しているところであり、韓国戦での最も大きな敗因である。

他の伝統国は新しいサッカーを学んだ
 またイタリアの「カテナチオ」はボール支配をあまりしないから、どうしても守備に回る時間が長く、あれほどの選手を揃えながら相手のペースに合わせた試合展開になってしまう。そうしたイタリアサッカーの強み弱みが各国でよく研究され分析されたことが、イタリアが優勝できなくなった理由だと考えられる。
 逆に他の伝統国は異なるサッカーを研究してきた。例えば、華麗だが勝負弱いと評されてきたフランスだったが、マルセル・デサイーやディディエ・デシャン、ジネディーヌ・ジダンらが、セリエAで結果主義のサッカーを学んで代表に持ち込んだ結果、90年代終盤から2000年にかけてフランスの隆盛に繋がった。またバイエルン・ミュンヘンやボルシア・ドルトムントといったドイツのチームがオランダのような4−3−3のゾーンディフェンスをするなど数年前では有り得なかった。そしてイングランドでも、アルセーヌ・ベンゲルなど外国人監督の流入がプレミアリーグ各チームに影響を与え、多くのチームが悪しきロングボール戦術を脱し、合理的なサッカーが主流になっている。イタリアも彼らと同じよう新たなサッカーを学ばなければならないのではないか。

個人レベルではイタリアの選手は優秀だった
 そこで、私が考えるイタリアが今後目指すべきサッカーは、これまでの堅いディフェンスに速攻といった伝統を大事にしつつ、そこから一歩先へ進んだ、状況に応じたタイムリーなサッカーである。というのは例えば、相手が傘にかかって攻めてきている時には伝統的な「カテナチオ」でいいが、逆に相手に守られたときにはサイドを深く抉って崩す、相手の中盤でのプレスにはダイレクトパスで対抗するなどといったものだ。目標はユーロ2000で優勝したフランスである。この時のフランスは速攻もボール支配もでき、堅実な守りも、創造的なチャンスメイクもできた。
 イタリアの選手の能力から言えば、「タイムリーサッカー」はできないことはないはずだ。日韓W杯でも個人レベルではイタリアの選手は優秀だった。GKブッフォン、DFネスタ、カンナバーロは世界トップクラスのタレントであり、ビエリ、フィリッポ・インザーギ、デル・ピエロ、ビンチェンツォ・モンテーラ、マルコ・デルベッキオと揃うFW陣は世界で最も層の厚い陣容である。トッティ以外は評価の低い中盤も、左サイドハーフながら卓越した得点力を誇るクリスティアーノ・ドーニがいて、ルイジ・ディ・ビアッジョは正確なミドルパス、ロングパスが出せる、ザンブロッタやダミアーノ・トンマージらは繰り返してパスコースを作り続けられる豊富な運動量を持っている。これらの戦力は決してフランスより劣るとも思えない。98年W杯はPK決着であり、ユーロ2000は、後半終了間際までイタリアが勝っていた。つまりチームコンセプトを変えるだけでいいのである。「タイムリーサッカー」はイタリア人の技術、身体能力なら十分適応できるはずである。

(次回に続く)

TOPBACK