佐伯屋
海外コンプレックス
第7回・平成14年2月26日
Jリーグ開幕前、戦力分析から見た順位予想その3 Jリーグ開幕までまだ1カ月あると思って余裕をかまして仕事していたら、気がつくとあと1週間しかなくなっている。ペースを上げなければならないのだが、会社説明会にも行かなければならないし、履歴書やエントリーシートも書かなければならない。J1全16チームの分析が終わる頃には、すでにフタは開いてしまっているかもしれない。だとすれば極めて情けない予想になってしまう・・・。
 さて今回は所謂ダークホースである。鹿島アントラーズ、ジュビロ磐田、清水エスパルス、柏レイソルなど優勝を争えるチームより総合力では落ちるが、絶対的な切り札やまとまりの良さがあり、条件が整えば優勝戦線を掻き回すかもというチームである。ただし、その例として挙げる横浜F・マリノス、浦和レッズ、ジェフ市原、名古屋グランパス、ガンバ大阪などは選手の顔ぶれを見れば実力は拮抗しているが、監督が替わったり、レギュラーに新戦力が加入してシステムが変更したりと、やはりフタを開けてみなければわからない状態である。

多くのファンにとってサッカーチームの会長になるのは夢
 大胆なリストラばかりが注目されがちだが、その傍らプリメーラやシーマなど魅力的な車種を次々と発表している日産自動車の改革の象徴であカルロス・ゴーン会長は横浜F・Mに優勝指令を発し、優勝しなければ日産の撤退も辞さないと発破をかけている。もっとも撤退云々に関しては、ゴーン氏本人が本場ブラジル育ちの相当なサッカー好きで知られるだけに、チームに影響力を与えられる現在の立場を簡単に放棄するとは思えない。多くのサッカーファンにとってサッカーチームの会長になるのは夢だからだ。やはり昨シーズン降格争いに参入してしまった不甲斐ないチームへの叱咤激励と捉えるべきだろう。
 一方、この脅迫に怯えたのか横浜F・M社長の方は、エジミウソン、柳相鉄、三浦淳など主力選手を放出した昨シーズンとは対照的に大型補強に踏み切った。2001年の得点王ウィル、自身が望むトップ下のポジションを確約して磐田から奥を、そして東京ヴェルディから長身ストッパー中澤も獲得した。Jリーグでは移籍リストに載った選手をチマチマと交換するのがトレードの通例であるが、各チームの主力級を引き抜いた今回の横浜F・Mの動きはトレードとはかくあるべきというものを見せたと言っていい。そして何より横浜F・Mフロント陣最大の功績はエース中村をひとまず残留させたことだ。中村は2001年を怪我により日本代表での実績を積むことが出来ず、一方同じ左サイドのポジションのライバル小野が日本代表とオランダ・フェイエノールトで活躍し、清水の左サイドの核弾頭・三都主が日本に帰化した今、2002年W杯出場へ向け非常に焦り、1月のヨーロッパ各国リーグの中間補強での海外移籍を希望していた。そしてオファーもいくつか来ていた。しかし横浜F・Mフロント陣は断固として全て断った。ただレアル・マドリーだけは諸事情があって断りきれずW杯後の移籍を約束したが、焦る中村をなだめひとまず残留させたのは、これもまた「戦力補強」である。

ドイツよりドイツらしい
 さて新シーズンの陣容はどうなるか。横浜F・Mのラザローニ監督は90年W杯でブラジルを率いた実績のある監督だが、当時のチームは「ドイツよりドイツらしい」と評価されたように、ドイツ的な3−5−2のマンツーマンディフェンスを好む。昨季の横浜F・Mは前任のアルディレスが3−5−2だったこともあってラザローニはそれを継続した。それが図Aである。

図A・2001年第2ステージの横浜F・M    図B・2002年予想布陣

        ●        ●
       ブリット      城

             ●
            中村

   ●                    ●
 ドゥトラ                  波戸

         ●       ●
        遠藤      上野

         ●       ●
        ナザ     小村

             ●
            松田

             ●
            榎本達


         ●      ●
       ウィル    安永


      ●            ●
     中村            奥


         ●      ●
        ナザ    上野


  ●                    ●
 ドゥトラ                 波戸

         ●      ●
        松田    中澤

             ●
           榎本達


 しかし新シーズンはトップ下での起用を確約されている奥が加入した。だが横浜F・Mのこの位置にはすでに中村がいる。昨年と同じ3−5−2でいくなら、@奥と中村を競わせる、AFWを1トップにしてその下に奥と中村を起用する、B守備的MFを1枚にして攻撃的な中盤に奥と中村を起用する、といった方法が考えられるが、@はただ勿体ないだけだし、Bも試合の中での1オプションとしてならともかく全試合を戦うにはキツイものがある。よって考えられるのはAだ。しかし新加入のウィルは身体を張ってのポストプレーやDFラインの裏に走るプレーは見たことがない。むしろ2列目に下がってきて中盤の組立に参加するのを好む選手だ。テストする価値はあるとは思うが、ウィルの適性は1トップではないように思える。よって新シーズン予定されているのが上図Bのような4−4−2の新システムである。これならMFの奥と中村を攻撃的な位置に並べることができて、ウィルが下がってきても攻撃が機能しなくなることもない、守備的MFも2枚いるから全体のバランスも崩れないという訳だ。

横浜F・Mの直接FKは誰が蹴るのか
 ただし、この新布陣は問題もある。一つは左サイドバックを務めることになるだろうドゥトラだ。彼は昨シーズン、3−5−2の左サイドハーフとして鋭い切り返しによるドリブル突破から数多くチャンスを供給していたが、今季は左サイドバックとして攻撃参加も制限されるはずで、ラザローニ監督は攻撃意欲の高いドゥトラを果たして我慢させられるのだろうか。また攻めている時はドゥトラのオーバーラップは武器になるだろうが、受けに回ったときに守備力はどうなのか。カバーリングのシステムにもよるが、サイドバックならより守備を重点に置かなければならないことは確かであり、ドゥトラのサイドバックとしての守備力は未知数である。それからDFの二人。松田は去年のJ2降格争いの中、川口のポーツマス離脱後の横浜F・Mでチームリーダーとして一皮むけ、中澤は単身ブラジル留学し練習生から現在の地位を築いたようにハングリー精神がある。両者とも高さとマークの強さを備えた代表DFだが、欠点は二人とも1試合に一つ大ポカのある選手ということだ。4バックは特に中央部を二人で守らなければならないためDFのミスは相手に即決定的なチャンスを与えてしまう。とはいえ4−4−2にすることでできるウィル、中村、奥が揃う攻撃陣は見物である。特に直接FKは誰が蹴るのか。右足なら奥、左足なら中村とウィル。日本代表ファンなら中村のキックを見たいと思うだろうが、川口が「切れ味は中村よりも上」と評価したウィルのキックにも注目すべきだ。
 それから横浜F・Mには私が個人的に注目している選手が一人いる。今年2年目を迎える時期五輪代表のセンターFWとなるであろう田原だ。彼を見ていて驚かされるのはそのフィジカルコンタクトの強さである。普通、日本人選手は代表などで外国人選手に吹っ飛ばされてフィジカルの弱さを痛感するものだが、ユース代表での田原の場合は逆の現象が起こっているのである。外国人選手を吹っ飛ばしている選手は私は田原以外には中田英や稲本ぐらいしか見たことがない。田原はそうしたフィジカルばかりに目がいくが走力も侮れないものを持っている。あとは中山や柳沢のような相手DFとの駆け引きを覚えて欲しい。そうなれば素質は抜群なだけに日本待望の釜本以来のワールドクラスのストライカーが登場するかもしれない。

マルセリーニョ・カリオカ
 マルセリーニョ・カリオカ。新シーズンのガンバ大阪を語る上でこの男を避けて通るわけにはいかない。テクニックはセレソンの現エース・リバウド級と言っても過言ではない。しかしリバウドとは選手としてのタイプは違う。圧倒的なボールキープ力を持っている点では同じだが、リバウドはドリブルでDFを抜いていくタイプ、一方マルセリーニョは正確なパスで周囲を生かすタイプだ。リバウドはゴールエリアに近い位置での創造的なプレーが特徴で、その反面ボールを持ちすぎるきらいがあるから、ブラジル本国では、セレソンのゲームメーカーにFWを生かすことの出来るマルセリーニョを推す人が多いぐらいである。なのに代表キャップでリバウドに大きく引き離されているのはエジムンド級の性格のためである。性格が悪いという風評で有名なのだ。東京ヴェルディのエジムンドのように具体的な話は私は知らないが、スペインのバレンシアを放り出されたり、実力は認められながらもセレソン入りできないことを考慮すれば、監督にとって相当扱いづらい選手であることだけは十分想像できる。となるとG大阪の西野新監督は大丈夫か?と疑問に思う方もいるかもしれない。

問題児の扱いには馴れている西野監督
 だが西野監督もアトランタ五輪監督時代に中田英の造反を味わい、柏時代にはあのストイーチコフを操縦したこともあるから問題児の扱いに関しては日本人監督の中でも豊富である。また操縦される問題児の側も、札付きのワルだったエジムンドが東京ヴェルディに来て、降格を回避した試合でチームメイトと共に涙したくらい一体感を見せたように、マルセリーニョもそうなってくれることをG大阪ファンは祈ろう。
 いや、しおらしくなる可能性はある。一つはエジムンドと同様、ワールドカップ出場がかかっていることだ。問題を起こしてチームから弾き出されてはセレソンのフェリペ監督へのアピールタイムが無くなってしまう。そして、もう一つは給料の問題である。エジムンド、サンパイオ、マルセリーニョ、それからFC東京のジャンやJ2セレッソ大阪のジョアン・カルロスなどセレソン経験のある選手が、なぜ今年は大挙して日本に来たか。それは今、ブラジルのクラブチームはどこも経営難に陥っており給料未支払いの状態が続いているからだ。ロマーリオほどの英雄でも給料を数ヶ月受け取っていないそうだ(だから一時はACミランへの移籍話が登場した)。よってブラジルのチームとしては財政状況を改善するために所属選手を買ってくれるチームは大歓迎であり、若くて能力のある選手はヨーロッパにどんどん進出している。ところが、能力はあるけれども性格に難がある選手、セレソン経験があってもヨーロッパでは通用しない選手、有名だがロートルで高給取りの選手といった、ヨーロッパで買い手のいない選手の行き先が、不況で経営難にあるチームは多いけれども、移籍金や給料の支払いはちゃんとしてくれるJリーグということになっているのだ。よって、これからもセレソンクラスの大物が突然やって来る可能性は大いにあると見ていい。

カウンター頼みからの脱却を
 マルセリーニョを説明するために随分と行を使ってしまったが、「ピクシー」ストイコビッチが去った今、J1最高の外国人選手になるのは間違いなしという期待が多くを語らせてしまうからである。しかし、いくらマルセリーニョがセレソンのレギュラークラスの実力を持つ名選手だといっても彼だけが頼みになってしまうとどうにもならない。
 ガンバは今のところ攻撃パターンが固い守備からのカウンターしかないチームだ。一昨シーズンはそれがハマって第2ステージで優勝争いをしたが、昨シーズンは読まれてしまいディフェンスラインを引かれて守備を固められると、左サイドハーフの新井場の突破や、FWのニーノ・ブーレの個人技でしか状況を打開できなくなってしまった。西野監督は新シーズン、マルセリーニョを中心に配置してカウンターサッカーというスタイルを継続すると思うが、2トップのマグロンと吉原、それからサイドの安藤と新井場、中盤の底から前線に飛び出していく遠藤などとの連係も含めた組織的な攻撃を構築しないと、マルセリーニョが「性格」という時限爆弾を抱えているだけに、司令塔の調子に左右されてしまう波の大きいチームとなってしまう。宮本を中心とする守備は安定しているのだから、西野監督は攻撃陣の強化に力を入れるべきだ。特に速攻が止められて遅攻になったときに相手ディフェンスをどうやって崩すかというアイディアがほしい。「空の王者」マグロンの192センチの長身を巧く生かしたいところである。だがマグロンをターゲットに所構わずクロスを放り込むだけでは得点力アップにはつながらない。クロスを蹴るタイミング、ボールを待つポジションといった受け手と出し手の意思統一が必要である。

図C:G大阪2002年予想布陣

         ●      ●
       マグロン   吉原

             ●
         マルセリーニョ

   ●                    ●
 新井場                  安藤

         ●       ●
        遠藤     山口

   ●         ●        ●
  木場       宮本       柳本
           
             ●
            都築


 一方、守備は西野監督が評価しているようにある程度の計算は立っている。柳本は運動能力が高く、木場はマーキングが巧い。そして宮本は繊細なラインコントロールが光る。ただし、宮本は日本代表のような「フラット3」を志向しているようだが、FWのマークを担当する二人のストッパーの後ろにストッパーが抜かれた時のカバーをするスイーパーを置く3バックと違い、フラット3は厳密な役割分担はなく、3人全員が相手FWのマーク、カバーリング、空中戦をこなさなければならない難しいシステムであり、G大阪の3バックの三人に高さがないのは気になるところだ。中盤でのプレスがかかっている状態ならパスコースも読めるから身長のハンデはさほどでもないが、試合の場面によっては組織ではなく個人で対応せざるを得ないこともある。その時に仙台のマルコス、FC東京のアマラオのような高さのあるFWあるいはウィルのようなパワーのあるFWに対して対応できるのかという疑問もある。

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